世界最高クラスの高輝度モデルと超小型化を実現したモデル、 2種類の3原色レーザー光源を実証

世界最高クラスの高輝度モデルと超小型化を実現したモデル、 2種類の3原色レーザー光源を実証

国際標準化、新産業化を目指して産学連携組織でガイドラインを策定

2016-3-14

本研究成果のポイント

NEDOプロジェクトにおいて、大阪大学と(株)島津製作所は、可視光半導体レーザーの用途拡大に向け、世界最高クラスの高輝度モデルと超小型化を実現したモデル、2種類の3原色レーザー光源モジュールを開発、機器に実装し効果を実証しました。

また、大阪大学が中心となり産学連携組織を設立し、光源に関する安全性等のガイドラインを整備しました。今後、実用化・普及に向けて活動を継続し、ガイドラインの啓蒙や国際標準化提案の支援等を進め、新産業化を目指します。

図1 世界最高クラスの輝度の3原色レーザー光源モジュール

図2 世界最小クラスの3原色レーザー光源モジュール

リリース概要

NEDOプロジェクト において、国立大学法人大阪大学と株式会社島津製作所は、3原色の可視光半導体レーザー技術を用いて2種類の3原色レーザー光源モジュールを開発しました。2種類のモジュールはそれぞれ高輝度表示装置レーザー照明 向けに世界最高クラスの輝度を実現した高輝度モデル (図1) と、走査型レーザー投射 用にシングルモードファイバ出力 が可能な世界最小クラスのサイズを実現した超小型モデル (図2) です。

これらのモジュールを機器メーカー9社 の機器に組み込み評価を行なった結果、レーザーはLED等の他の光源に比べて、小型化、省エネ性能、色再現性において優位性があることを確認しました。

こうしたレーザーの特性から、今後、スマートフォンやタブレット端末等の小型電子機器から、数十メートル級シアターやプロジェクションマッピング等の大型映像装置まで幅広い応用が期待され、これら機器への実装を目指します。

また、実用化・普及の妨げとなっている、レーザー特有の特性や安全性等の課題に対処するために、国立大学法人大阪大学(光科学センター 副センター長、特任教授 山本和久)が発起人となって2014年に設立した「可視光半導体レーザー応用コンソーシアム」で、このほど、3原色レーザー光源モジュールの性能基準や信頼性・安全性に関するガイドラインを策定し、可視光半導体レーザー応用の基盤整備をしました。今後、可視光半導体レーザーの実用化・普及に向けて活動を継続し、ガイドラインの啓蒙や国際標準化提案の支援等を進め、新産業化を目指します。

なお、2016年3月14日、日本橋ライフサイエンスハブ(室町ちばぎん三井ビルディング8階)で可視光半導体レーザー応用コンソーシアム、大阪大学光科学センターおよびNEDOが共同開催する「可視光半導体レーザー応用シンポジウム」にてこれらの成果の発表が行われました。

今回の成果

【1】世界最高クラスの高輝度と超小型化を実現したモデル、2種類の3原色レーザー光源モジュールの開発
今回開発した高輝度モデルの3原色レーザー光源モジュールは高輝度表示装置やレーザー照明向けに開発したもので、赤、緑、青ともに10Wを超える高出力であり、世界最高クラスの輝度を達成しました (図3) 。また、超小型モデルの3原色レーザー光源モジュールは走査型レーザー投射用に開発したもので、主要部の容積が0.5ccという、世界最小クラスのサイズを達成しました。これらの光源モジュールは緑色の波長を調整したことで、より自然な色再現が可能になりました (図4) 。

近年、一部のプロジェクタにおいては、光源にレーザーが採用され始めています。シネマ、ホール用では、例えば1万ルーメン以上といった輝度(全光束)が必要とされるなど、高輝度に対する要求が高まる傾向にありますが、1万ルーメン以上の光源は、キセノンランプおよび高圧水銀灯が現在の主流であり、LEDでは実現できていません。

今回の高輝度モデルは、3原色の半導体レーザー(SHG型 を除く)で、1万ルーメン級以上の輝度の実現可能性を示すものです。小型で高輝度な半導体レーザーは、シネマクラスのような大規模なプロジェクタにおいても実用化が加速し、鮮明な大画面や省電力化の要求に応えることが期待されます。

また、個人・ホームユース等の小型プロジェクタにおいては、光線の拡散がほとんど無いため投影面の距離や形状等に関わらず焦点が合うというレーザーの特性が良好に活かされます。例えば、スマートフォンに応用できれば、壁に向けて投影するだけで簡単にピントの合った画像が得られる可能性があります。また、このような特性は、人間の眼にも適用できる可能性があり、例えば、眼に無害な強度のレーザー光を直接網膜上に走査することにより、近視等の屈折異常のある人でも、ピントの合った画像が得られるというユニークなヘッドマウントディスプレイ(HMD)の実現が期待できます。超小型モデルはこうしたニーズに応えるもので、今後さらなる小型化が期待されます。

さらに、今回開発した技術の特長として、内部に用いる半導体レーザー素子の数の調整により、大規模な高出力用にも比較的小規模な低出力用にも柔軟に対応できる利点と、ファイバを通して光源と発光部分の分離が可能という利点も挙げられます。例えば車載ヘッドライトに適用できれば、高い遠方照度性と照射位置の制御性に加えて、光源本体の搭載位置を自由に選べるメリットが想定されます。

図3 高輝度モデルの特性評価例

図4 超小型モデルの特性評価例

【2】可視光半導体レーザー応用コンソーシアムの設立・運営とガイドラインの策定
大阪大学を運営母体とする「可視光半導体レーザー応用コンソーシアム」は、3原色レーザー光源モジュールの仕様・性能基準および信頼性、搭載製品の安全性などの課題について検討し、プロジェクト期間中に6種類のガイドラインを整備しました。このコンソーシアムは、業界シェア8割を超えるデバイスメーカーや機器メーカーなどの主要な関連企業と大学・研究機関など51機関で構成されています。

このコンソーシアムでは、可視光半導体レーザーの実用化の障害である、人間の眼に対するレーザーの安全性を確保する技術的基準等について議論しています。また、レーザーを用いて映像を描く際に技術的課題となるスペックル (図5) というレーザー特有の現象についても解決を目指しています。スペックルは、レーザー走査で画像を投影する際、画像に干渉模様が混じり正確な画像が描けなくなるという問題ですが、大阪大学が中心となり、スペックル発生画像を妥当に評価する評価技術を開発し (図6) 、これをもとに視覚的に許容されるスペックルの基準案を策定しました。

これらを含む上記6種類のガイドラインは順次公開を進め、プロジェクト終了後も独自に国際標準化提案に向けた活動を進めていきます。

図5 スペックル;レーザーの干渉による模様

図6 スペックル測定装置

参考URL

可視光半導体レーザー応用コンソーシアム
http://vlda-cons.org/

大阪大学光科学センター
http://www.ppc.osaka-u.ac.jp/

用語説明

NEDOプロジェクト

「クリーンデバイス社会実装推進事業/最先端可視光半導体レーザーデバイス応用に係る基盤整備」 期間:2014~2016年度 委託先:国立大学法人大阪大学、株式会社島津製作所 プロジェクトリーダー:国立大学法人大阪大学 光科学センター 副センター長、特任教授 山本和久 なお、「クリーンデバイス」とは、実用化間近で、社会に実装されることで省エネルギー効果が期待される最新の電子デバイスと定義しています。

高輝度表示装置

プロジェクタ、液晶TVなどのディスプレイであり、光源にレーザーを使用するものです。特にプロジェクタでは急速にレーザー光源への置き換えが進んでいます。

レーザー照明

レーザー光の蛍光励起による白色光源の開発が先行しており、代表的なものとして車載用のレーザーヘッドライトがあります。自動車メーカーにおいて実用化のための検討が具体的に進みつつあります。

走査型レーザー投射

レーザー光を走査することで映像化する装置で、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)、HUD(ヘッドアップディスプレイ)、携帯プロジェクタなどがあります。

シングルモードファイバ出力

ファイバのコア径を小さくするとコア断面内で点のような光強度分布が1つだけになる光波の状態があり、それをシングルモードと言います。光がシングルモードで導光するファイバをシングルモードファイバと言いますが、その出力とは、可視光では径が10μm以下という非常に微細なコアからレーザー光が出力されることを意味します。

機器メーカー9社

株式会社本田技術研究所、株式会社QDレーザ、パナソニック株式会社、セイコーエプソン株式会社、パイオニア株式会社、IDEC株式会社、三菱電機株式会社、株式会社日立製作所、スタンレー電気株式会社

SHG型

SHGとは、Second Harmonic Generation (第二次高調波発生)の略で、励起により元の振動数の2倍の波が発生する現象を言います。可視光半導体レーザーでは、緑色の発光効率の向上が技術的に難しいため、その現象を利用するSHGデバイスと赤色レーザーとを用いて赤色光を緑色光に変換するタイプのものがあり、それをSHG型と言います。