国内4海域に来遊するザトウクジラの集団構造を解明!
3,532頭分の写真を相互に照合
研究成果のポイント
概要
大阪大学サイバーメディアセンター(大阪府茨木市)は、一般財団法人沖縄美ら島財団(本部町)、認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャー(東京都小笠原村)、 一般社団法人小笠原ホエールウォッチング協会(東京都小笠原村)、奄美クジラ・イルカ協会(鹿児島県奄美市)、国立大学法人北海道大学北方生物圏フィールド科学センター(北海道函館市)と共同研究を行い、沖縄、小笠原、奄美、北海道の4海域(以下、国内4海域)で撮影されたザトウクジラ3,532頭分の尾びれ写真を、尾びれ自動照合システムを用いて照合しました。
その結果、国内4海域に来遊するザトウクジラが共通の1つの集団であり、さらにその集団内に2つの小グループが存在する可能性が示唆されました。
日本周辺に来遊するザトウクジラは、現在も絶滅危惧集団とされており、国際自然保護連合(IUCN)や国際捕鯨委員会(IWC)からも情報の拡充が急務とされています。本研究の成果は、2022年11月17日にオンライン学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。
背景と動機
ザトウクジラは、夏季は高緯度海域で摂餌を行い、冬季に低緯度海域で繁殖(交尾、出産、子育て)をすることがわかっています。西部北太平洋海域では、ロシア周辺が摂餌海域、沖縄、奄美、小笠原、フィリピンマリアナ諸島周辺が繁殖海域、北海道等が回遊途中海域として知られています。
一般財団法人沖縄美ら島財団では、繁殖海域の一つである沖縄周辺海域において、1991年から約30年に亘り、来遊状況等の野外調査を実施してきました。ザトウクジラは尾びれの模様や形状が個体毎に異なるため、尾びれ写真による個体の識別が可能です。これまでにロシア-沖縄間では計69個体、フィリピン-沖縄間で計100個体の同一個体を確認しています。しかし、国内のザトウクジラ来遊海域間の交流や関係性については未だ不明な点が多く残されています。
研究成果の概要
1989~2020年に、国内4海域で撮影されたザトウクジラ3,532頭分の尾びれ写真を自動照合システムを用いて相互に照合し、その結果、沖縄-北海道間で3頭、沖縄-小笠原間で225頭、沖縄-奄美間で222頭、小笠原-奄美間で36頭の一致個体が見つかりました。
これらの一致個体頭数を基に、海域間の交流指数や各海域の回帰指数を算出したところ、国内4海域は、1つの共通の集団によって利用されていることが判明しました。また、海域間によって交流頻度は異なり、フィリピン海の太平洋側(小笠原からマリアナ諸島)と東シナ海側(奄美、沖縄、フィリピン)をより頻繁に利用する2つの小グループが存在する可能性が示唆されました。日本周辺のザトウクジラの保全に向け、大変貴重な発見、報告となりました。
今後の展開
今後は日本を含め、西部北太平洋全体の個体数、来遊海域間の関係等の把握を目指して、国内外の各組織との共同研究を予定しています。ザトウクジラは、国内各地でホエールウォッチングの対象として注目されています。また、沖縄県内では、ホエールウォッチング参入事業者数は年々増加傾向にあり、ザトウクジラは冬場の観光産業を支える貴重な観光資源として利用されています。これらの研究成果は、観光産業において今後も重要な位置を占めるザトウクジラの資源管理や保全活動に役立つと考えられます。
特記事項
■発表雑誌■
雑誌名:PLOS ONE
掲載日:2022年11月17日
論文名:Interchanges and movements of humpback whales in Japanese waters: Okinawa, Ogasawara, Amami, and Hokkaido, using an automated matching system
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0277761
著者名:Nozomi Kobayashi1, 6, Satomi Kondo2, Koki Tsujii3, Katsuki Oki4, Masami Hida5, Haruna Okabe1, 6, Takashi Yoshikawa5, Ryuta Ogawa2, Chonho Lee5, Naoto Higashi6, Ryosuke Okamoto3, Sachie Ozawa1, Senzo Uchida1, Yoko Mitani7
(1一般財団法人沖縄美ら島財団、2認定NPO 法人エバーラスティング・ネイチャー、3一般社団法人小笠原ホエールウォッチング協会、4奄美クジラ・イルカ協会、5大阪大学サイバーメディアセンター、6沖縄美ら海水族館、7国立大学法人北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)