あらゆる光パターンにおける光輻射圧分布の計算が可能に
超配列カイラル構造形成メカニズムのシミュレーションに成功
お読みいただく前に
光を受ける物体に働く圧力を「光輻射圧」といいます。
アゾポリマーなどの誘電体材料の表面に光を照射すると、この光輻射圧が発生します。
光の強度分布を人工的に制御し光輻射圧分布を制御することで、ナノ・マイクロ構造を形成することが可能です。
この技術をもちいた光制御デバイスやセンサー作製などの新しい応用が期待されています。
研究成果のポイント
- 任意の強度分布を持つ光を照射された誘電体に働く光輻射圧分布のシミュレーションが可能になった。
- 干渉パターン照射時の光輻射圧分布のシミュレーションを行い、超配列カイラル構造形成条件を明らかにした。
- カイラル構造を含む2D・3Dナノ・マイクロ周期配列デバイス構築への応用が期待される。
概要
大阪大学レーザー科学研究所の中田芳樹准教授らの研究グループは、任意の光強度分布を照射された誘電体表面に働く光輻射圧分布のシミュレーションを初めて可能にしました。従来は集光した光スポットの照射を想定し円筒座標系を用いたシミュレーションが行われていましたが、直交座標系でシミュレーションコードを再構築することで任意の光強度分布での計算を実現しました。
これを用い、干渉パターン照射時における光輻射圧分布のシミュレーションを行い、円偏光6ビーム干渉パターンの場合に光輻射圧分布が点対称かつ均一な螺旋構造になることを見いだしました(図1)。これは円偏光ガウシアンビーム集光スポットと全く同じものです。さらに、同条件を用いた実証実験においてカイラル構造形成を確認しました。これは多点カイラルデバイス作製に繋がる成果であり、さらに多様な形状と機能を持つ2D・3Dナノ・マイクロ周期デバイス構築への応用が期待されます。
本研究成果は、Springer Nature社が発行するオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」誌(オンライン)に9月10日(日本時間)に公開されました。
図1. 4ビーム・6ビーム干渉パターン及びガウシアンビーム集光スポットにおける光輻射圧分布。(a,b,c)右回り円偏光、(d,e,f)直線偏光の場合。
研究の背景
アゾポリマーなどの誘電体材料表面に光を照射すると、光輻射圧が発生します。よって、光の分布を人工的に制御することで光輻射圧分布を制御し、ナノ・マイクロ構造を形成する事が可能です。最近では、円偏光ガウシアンビームの集光スポットによって誘起される螺旋状の光輻射圧分布を用いたカイラル構造の作製が行われています。このようなカイラル構造は、光制御デバイスや分子キラリティ識別デバイスなどの新しい応用が期待されています。これらの用途では、単一構造を超配列化することでカイラル構造の機能を高め、さらに検出が困難な信号を増強する事が可能です。
そこで、正確な周期性を持った干渉パターンのマルチスポットをカイラル構造形成に利用することが考えられます。一方どのような干渉パターンにおいて、カイラル構造形成に適した光輻射圧分布が配列するかは明らかで有りませんでした。
円偏光ガウシアンビーム集光スポットを用いた従来のカイラル構造形成条件を調べるために開発された、円筒座標系における光輻射圧分布のシミュレーションコードは既に完成しています。一方、干渉パターンを用いたマルチスポット照射における光輻射圧分布のシミュレーションは困難でした。
研究の内容
中田准教授らの研究グループでは、円筒座標系における光輻射圧分布のシミュレーションコードを直交座標系で再構築することで、干渉パターンを含む任意の光強度分布における光輻射圧分布の計算を初めて可能にしました。実際に円偏光4ビーム・6ビーム干渉パターン及びガウシアンビーム集光スポットにおける光輻射圧分布のシミュレーションを行いました(図1)。さらに、各パターンのスポット中心Oに対し方位角θ上にある点R(|r|,θ)における光輻射圧の強度|F|及び偏角θ’の変化をグラフ化しました(図2)。その結果、6ビーム干渉パターンの場合はガウシアンビーム集光スポットと同様にθに対して一定の|F|及びθ’が得られることが分かりました。これは、ガウシアンビーム集光スポットを用いたカイラル構造形成時と同じ光輻射圧分布が6ビーム干渉パターンにおいても発生してる事を表しています。実際に干渉パターン加工装置を構築し検証実験を行ったところ、6ビーム干渉パターンではカイラル構造が形成されました。一方、4ビーム干渉パターンではθに対して|F|及びθ’が変動し、一定のパラメーター範囲における検証実験ではカイラル構造が形成されませんでした。
図2. スポット中心Oに対する方位角θに対する光輻射圧の強度|F|及び偏角θ’の変化。右下は説明図で、同心円状の青、緑、赤の円はそれぞれ|r|=1.18,1.83,2.59μmを表している。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
干渉パターンや偏光など光の制御性を光輻射圧分布制御に応用することで、周期配列したカイラル構造の形成が期待出来ます。これにより、光制御デバイスや分子キラリティ識別デバイスなどを高度化・高感度化する事が期待出来ます。また、より高度な干渉パターン制御技術と組み合わせる事で、カイラル構造以外の2D・3Dナノ・マイクロ構造デバイスを形成する事に期待が持てることから、トポロジカルフォトニクスの発展に大きく貢献すると考えられます。
特記事項
本研究成果は、Springer Nature社が発行するオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」誌(オンライン)に2022年9月10日に公開されました。
タイトル:“Simulation of optical radiation force distribution in interference patterns and necessary conditions for chiral structure formation on dielectrics”
著者名: Y. Nakata, K. Tsubakimoto, H. Shiraga, N. Miyanaga, Y. Kosaka, and M. Yoshida
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-18615-9
本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費助成事業16H038850、20K21155の支援を受けて実施されました。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 光輻射圧
光を受ける物体に働く圧力。
- カイラル構造
自身の鏡像と重ね合わすことのできない構造であり、らせん形状はその一つである。カイラル構造は旋光性、円偏光二色性などの光学的特徴を持つため、新しい光制御デバイスや光学センサーへの応用が期待されている。
- 円筒座標系
仮想的な円柱の中心軸からの半径r、方位角θ、z軸方向で決定される座標系。
- 直交座標系
互いに直交する3軸(x,y,z)で決定される座標系。円筒座標系とは相互に変換できる。
- ガウシアンビーム
ビームパターンの電界強度分布がガウス分布のビーム(E∝e-r2)。