4倍に!超伝導状態への転移温度が上昇!結晶構造の上下対称性の回復で達成

4倍に!超伝導状態への転移温度が上昇!結晶構造の上下対称性の回復で達成

超伝導体探索の新たな指針へ

2022-4-27自然科学系
理学研究科教授工藤一貴

研究成果のポイント

  • 結晶構造の上下対称性を回復すると超伝導転移温度が上昇する物質を発見
  • 結晶構造が不安定な白金ビスマス化合物に着目することで可能に
  • 電気抵抗ゼロの超伝導状態へ転移する温度を上昇させるための新たな指針となることに期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の大学院生の高木健輔さん(博士前期課程)、工藤一貴教授らの研究グループは、大阪大学低温センターの竹内徹也助教、広島大学大学院先進理工系科学研究科の野原実教授らと共同で、白金ビスマス化合物PtBi2にSeあるいはTeを添加すると極性構造(上下が対称ではない結晶構造)から非極性構造(上下が対称な結晶構造)に変化し、電気抵抗がゼロになる超伝導状態へ転移する温度が4倍に上昇することを発見しました(図1)。極性構造と非極性構造の境界に近づくにつれて、超伝導転移温度が上昇します。この成果は、今後の超伝導体開発や超伝導転移温度上昇に取り組むための新たな指針につながります。本研究成果は、2022年3月15日に、日本物理学会欧文誌「Journal of the Physical Society of Japan」3月号へ“JPSJ Papers of Editors’ Choice(注目論文)”として公表されました。

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図1. (上) 上下が対称ではないPtBi2の極性構造と上下が対称なSe/Te添加PtBi2の非極性構造。(下) 超伝導転移温度TcのSe、Te添加量依存性。 SeあるいはTeを添加すると、極性構造から非極性構造に変化して超伝導転移温度が大幅に上昇します。さらに、超伝導転移温度は構造の境界に近づくにつれて上昇します。Se添加とTe添加で同じことが起こり、この現象は普遍です。

研究の背景

電気抵抗がゼロになる超伝導の基本的な仕組みは、1957年に米国のバーディーン、クーパー、シュリーファーによって説明されました。この業績により1972年のノーベル物理学賞が授与されています。その理論は、結晶構造が柔らかくなると超伝導転移温度が高くなることを示しています。例えば、ある結晶構造から別の結晶構造に変化する境目の近くで、一般に、物質は柔らかくなります。そのときに超伝導転移温度が高くなる物質が、実際に報告されています。一方で、本研究のように極性構造と非極性構造の境目近くでは、柔らかくなることだけでなく、構造の上下対称性の有無が超伝導に大きな影響を与えると考えられています。その効果については未解明であり、現在、既存の理論の先を開拓する研究が盛んに行われているところです。この効果が解明されれば、超伝導の物理に対する理解が深まるだけでなく、超伝導転移温度を高めるための新たな指針につながります。

研究の内容

図2(a)(b)(c)(d)に示すように、白金ビスマス化合物PtBi2では様々な結晶構造が知られています。本研究グループは、自在に姿を変えるPtBi2の構造が不安定であることに気づき、他の元素の添加による新たな結晶構造の生成とそれに伴う新しい性質の発見を目的とした研究を進めていました。その結果、図2(c)の構造(図1の極性構造と同じ)において、SeあるいはTe添加による新たな構造変化とそれに伴う超伝導転移温度の上昇を発見しました(図1)。

PtとBiを混合し、高温で熱した後に急冷することで、様々な結晶構造のPtBi2の中から図2(c)のPtBi2を選択的に得ることができました。この構造ではBiの位置が一層置きに上下へずれており、結晶構造の上下が対称ではありません。つまり、極性が生じています。本研究グループは、図2(c)のPtBi2においてBiの一部をSeあるいはTeで置き換えると、Biの位置ずれが無くなり、上下対称性が回復した図2(e)の非極性構造が新たに生成することを見出しました。さらに、この構造変化に伴って、超伝導へ転移する温度が0.6 ケルビン(零下272.6度)から4倍の2.4 ケルビン(零下270.8度)へ上昇することと、超伝導へ転移する温度が極性構造と非極性構造の境界に近づくにつれて上昇することを明らかにしました(図1)。この化合物は、構造の上下対称性が超伝導に与える影響を調べるための有用な舞台になると考えられます。

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図2. (a)(b)(c)(d) PtBi2の結晶構造。様々な結晶構造を示すことから、構造が不安定であることが分かりました。(e) SeあるいはTeを添加したPtBi2の結晶構造。(c)にSeあるいはTeを添加すると、新たに(e)が得られました。(c)では、Biの位置が点線の上下へずれているため結晶構造の上下が対称ではありません。(e)では、結晶構造の上下対称性が回復しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、今後の超伝導体開発、および、超伝導転移温度上昇に取り組むための新たな指針につながります。この成果を応用することで、より優れた超伝導体の開発が可能になると考えられます。本研究グループは、この種の化合物においてしばしば観測される構造の不安定さを利用すれば、さらに新しい結晶構造を派生させることが可能であると考えています。

特記事項

本研究成果は、2022年3月15日(火)に、日本物理学会欧文誌「Journal of the Physical Society of Japan」3月号へ“JPSJ Papers of Editors’ Choice(注目論文)”として掲載されました。

タイトル:“Enhanced Superconductivity in Close Proximity to Polar-Nonpolar Structural Phase Transition in Se/Te-Substituted PtBi2
著者名:Kensuke Takaki, Mayu Yamamoto, Masamichi Nakajima, Tetsuya Takeuchi, Hoang Yen Nguyen, Minoru Nohara, Yasuhiro Kishioji, Takahiro Fujii, Kentaro Yoshino, Shigeki Miyasaka, and Kazutaka Kudo
DOI:https://doi.org/10.7566/JPSJ.91.034703

なお、本研究は、文部科学省、日本学術振興会の科学研究費助成事業である新学術領域研究「量子液晶の物性科学」の計画研究「量子液晶物質の開発」(JP19H05823)、科学研究費(JP19K03748, JP21K03448)の支援を受けて実施されました。

参考URL

工藤一貴教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/94ce9454b54cf3a9.html

工藤研究室ホームページ
http://qm.phys.sci.osaka-u.ac.jp

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