60年ぶりの新発見!固体状態のトリチウムの屈折率を実測

60年ぶりの新発見!固体状態のトリチウムの屈折率を実測

核融合炉設計に寄与する重要パラメーターの解明

2022-2-15工学系
レーザー科学研究所助教山ノ井航平

研究成果のポイント

  • 世界で初めて、重水素―トリチウムの固体の光の屈折率測定に成功
  • 核融合炉では固体状態の重水素―トリチウムを使用するが、放射性物質であるトリチウムの取り扱いの困難さから、半世紀以上にわたって固体状態の重水素―トリチウムの物性値の報告がされてこなかった。
  • 将来のエネルギー源として期待される核融合炉の燃料としての重水素-トリチウムを固体状態においても分析可能であることを示した。

概要

大阪大学レーザー科学研究所の山ノ井航平助教らの研究グループは、世界で初めて固体状態の重水素とトリチウムの混合体の屈折率の測定に成功しました。

これまでは、固体トリチウムの屈折率は、軽水素などの値から推測された経験式から得られるデータが使用されていました。今回、山ノ井助教らの研究グループは重水素とトリチウムをマイナス255度以下の極低温化で固化し、物質の基本的パラメーター(物性値)である屈折率の測定を実施しました。トリチウムの新しい物性値が明らかになるのは約60年ぶりです。これにより、将来の核融合発電に必須である固体の重水素-トリチウム燃料の高精度な検査が可能になります。

本研究成果は、米国科学誌「Scientific reports」に、2月15日(火)19時(日本時間)に公開されました。

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図1. 液体状態(左上図)と固体状態(右上図)のDT 及びそれぞれの屈折率(下図)

研究の背景

トリチウムは放射性同位元素であることから、その取り扱いには安全を第一とした取扱いが求められており、トリチウムを取り扱いができる施設は限られています。このため、トリチウムの基礎的な性質のいくつか(今回の屈折率などの物性値)は必要であっても測定ができていません。今回、当施設でこれまでに蓄積したトリチウム取り扱い技術とレーザー測定技術を利用して、世界で初めて固体状の重水素―トリチウム(以下、D-T)の屈折率の測定に成功しました。

固体のD-Tの粒は、将来の核融合発電炉において注入燃料として利用される予定です。効率的な発電を行うには高い精度でのD-Tの粒の形状と組成のコントロールが必要です。光を用いた分析を利用すれば一度に形状と組成を知ることができます。しかし、光を用いた分析において最も基礎的なデータである屈折率の測定が固体状のD-Tについては行われていませんでした。このため軽水素などの値から推測された経験式から得られるデータを代用していました。固体状のD-Tの屈折率の測定には、気体のD-Tを極低温まで冷却し固体とする必要があります。極低温で放射性同位元素であるトリチウムを取り扱う技術的な難しさに加え、その場での光学測定には高い技術力と知識の蓄積が必要不可欠でした。当施設には両技術の長い蓄積があり、これらを利用して世界で初めての固体状D-Tの屈折率測定に挑戦し、成功いたしました。将来の核融合発電炉において高効率な燃料制御の基礎データとして使用されることが期待されます。

研究の内容

山ノ井助教らの研究グループでは、高い安全管理の下、約4テラベクレル(TBq)のトリチウムと重水素を1:1の割合で混合し、密封セル内でマイナス255度以下の極低温にすることで固化し、高精度で屈折率を測定しました。さらに温度を下げることで、固体状態の屈折率の温度依存性を明らかにしました。これは、世界で初めて実測されたトリチウムの物性値であり、これまでに知られていなかったトリチウムの物性値が明らかになるのは約60年ぶりです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、将来の核融合発電炉の固体重水素-トリチウム燃料の検査手法が確立され、核融合炉の設計が進むことが期待されます。また、近年の放射性物質の厳しい取り扱い基準の下で高い安全性を確保し、大容量のトリチウムを取り扱った技術的知見が得られたことにより、今後の放射性物質を使った研究開発や後進の育成に貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2022年2月15日(火)19時(日本時間)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Refractive index measurements of solid deuterium-tritium”
著者名:Keisuke Iwano, Jiaqi Zhang, Akifumi Iwamoto, Yuki Iwasa, Takayoshi Norimatsu, Masanori Hara, Yuji Hatano and KoheiYamanoi
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-06298-1

なお、本研究は、核融合科学研究所 岩本晃史准教授、富山大学 研究推進機構 水素同位体科学研究センター 原正憲准教授の協力を得て行われました。

参考URL

山ノ井航平助教 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/0593459130007d61.html

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