ブラックホール近傍の磁場は実験室でも実現可能

ブラックホール近傍の磁場は実験室でも実現可能

メガテスラ級極超高磁場の3次元構造をスパコンで解明

2021-12-2自然科学系
レーザー科学研究所教授村上匡且

研究成果のポイント

  • スパコンを用いた高精度の3次元シミュレーションによって、これまで理論的に予測されていたミクロンスケールのメガテスラ級磁場の3次元構造が明瞭に確認された。
  • 今後行われる予定のレーザー実験において、レーザー条件とミクロンサイズのターゲット構造に対する最適な工学的設計が可能となった。

概要

大阪大学レーザー科学研究所の村上匡且教授の研究グループは、新方式「マイクロチューブ爆縮」を使って中性子星の磁場強度に匹敵するメガテスラ級の極超高磁場が生成され時間発展してゆく様子を、大阪大学サイバーメディアセンターのスパコン「OCTOPUS」を使った3次元シミュレーションによって初めて検証しました。

これは村上教授が2020年10月に提唱した、ミクロンサイズの中空円筒体に強力な超短パルスレーザーを照射することにより、現在地上で生成可能な磁場強度(キロテスラ)のさらに千倍強力なメガテスラの極超高磁場を生成させる新たな物理機構をシミュレーションによって明瞭に確認したものです。(https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201008_1)[1, 2]。

[1] “Generation of megatesla magnetic fields by intense-laser−driven microtube implosions”
Scientific Reports 10, (2020) 16653.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-73581-4

[2]村上研究室YouTube動画
https://www.youtube.com/watch?v=2mlavyy7V2I&t=49s

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図1. マイクロチューブ爆縮の概念図

物理(光速で動く電子によるスピン電流生成)

直径5-10ミクロン程度の円筒中空構造の外側から超高強度レーザーを照射すると5〜10メガエレクトロンボルト程度のエネルギーを持つ高速電子が発生します。あらかじめ比較的弱い強度の種磁場を円筒軸の方向に作っておくことにより、光速に近い速度で物質内を運動するこれらの高速電子は数ミクロンという小さな半径を持つリング状のスピン電流構造を形成します(図2参照)。この電流は10^18アンペア/m^2にも達し、結果としてブラックホール近傍で観測されるとされるメガテスラ級の磁場が実験室でも実現できるものと期待されます。

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図2. 三次元シミュレーションにより得られたミクロンサイズのターゲット内部の様子
(a)イオン密度の3次元分布
(b)磁場強度の3次元分布

論文情報

雑誌:High Power Science and Engineering 9, (2021) e56.
タイトル:“Laser scaling for generation of megatesla magnetic fields by microtube implosions”
著者:村上匡且
DOI: https://doi.org/10.1017/hpl.2021.46

本研究は日本学術振興会[ 科研(基盤A) 課題番号 21H04454 “ぺタワットレーザーによるメガテスラ級極超高磁場生成の原理実証” ]からの助成を受けて行われました。

SDGsの目標

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

中性子星

中性子星は、質量の大きな恒星が進化した最晩年の天体の一種であり、その質量は太陽程度、直径はわずか20 km程度で、中性子が主な成分の天体である。中性子星の磁場強度は10〜100メガテスラにも達するとされる。

メガテスラ

「テスラ」は磁場強度を表す単位で記号Tで表す。キロテスラ=1,000T、メガテスラ=1,000,000 T。また比較的弱い磁場強度をあらわす場合の単位として「ガウス」(記号G)が用いられ、1T = 10,000G の関係がある。例えば、病院などで使われるMRI(核磁気共鳴)装置の磁場強度はキロテスラレベルである。

エレクトロンボルト

「エレクトロンボルト」は温度(エネルギー)を表す単位で、約1万度に相当する。メガエレクトロンボルトは、したがって、約百億度の温度に匹敵する。