宇宙開闢や真空物理の謎の解明へ!「マイクロバブル爆縮」の3次元シミュレーションに成功

宇宙開闢や真空物理の謎の解明へ!「マイクロバブル爆縮」の3次元シミュレーションに成功

最大密度は恒星の終末期内部に匹敵!

2019-7-12工学系

ポイント

・我々の宇宙を構成する「真空」の物理は、未だ謎に包まれている。
・真空は、素粒子である電子・陽電子 という「粒子と反粒子 のペア」が想像を絶するほど短時間の間に生成・消滅を繰り返していると考えられている。これらのペア生成粒子を、我々の空間に長時間出現させるには、現在のレーザー技術によって達成できる電界値の一千万倍以上(シュウィンガー極限 )が必要とされている。
・今回、これまでの研究で発見した「マイクロバブル爆縮」という特異な生成原理について、3次元シミュレーションを行い、このバブルの最大圧縮 時の密度が、原理的に、シュウィンガ―極限電場を達成し得る、個体密度の数十万~百万倍にまで増大することを発見した。

研究成果

これまでの研究で、大阪大学レーザー科学研究所の村上匡且教授らの研究グループは、ミクロンサイズのバブルを内包する水素化合物の外側から数十フェムト秒 の長さの超高強度レーザーを照射し、バブルがナノメートル のスケールにまで収縮した瞬間に起こる「マイクロバブル爆縮」という特異な生成原理を2018年5月に世界で初めて発見しました。

今回、同研究グループは、超高強度レーザーを用いた「マイクロバブル爆縮」について3次元シミュレーションを行い、バブルの最大圧縮時の密度は、原理的に、シュウィンガー極限電場を達成し得る、個体密度の数十万~百万倍にまで増大することを発見しました。これは、角砂糖大で数百キログラムの重さに相当します。またこの時のバブル中心でのエネルギー密度は太陽中心に比べ百万倍程度高いことがわかリました。これらの驚愕すべき値は、地上では到底達成できないと思われてきたものです。

図1 「マイクロバブル爆縮」の概念図

図2 各種のプラズマ現象に対する「数密度(横軸)-温度(縦軸)」ダイアグラム。
マイクロバブル爆縮により圧縮可能な最大密度は白色矮星内部の密度に匹敵する。

研究の背景

我々の宇宙は物質と真空からなり、「真空」とは何もない空虚な空間、と一般には思われがちですが、実は素粒子である電子・陽電子という「粒子と反粒子のペア」が想像を絶するほど短時間の間に生成・消滅を繰り返していると考えられています。真空の持つこの物理は、まさに「色即是空・空即是色」 という理を想起させるものですが、その実態は未だ謎に満ちています。真空物理の探求は、ビッグバン に象徴される宇宙開闢の謎に迫ると共に、現代物理における根源的疑問の解明に繋がるものです。しかしこれまで、上記のペア生成粒子が対消滅する前にそれらを強制的に引き離し、物質として我々の空間に長時間出現せしめるためには、現在の最新レーザー技術によって達成し得る電界値のさらに一千万倍以上(シュウィンガー極限)が必要とされてきました。

本研究成果の学術的・社会的意義

従来、電子・陽電子の対生成は超高強度のレーザーの対向照射による光子-光子衝突によるものが基本であり、今回のようにプロトンを「球収縮による幾何学的圧縮効果」を利用して超高密度に圧縮し、その結果としてできる超高静電場によって電子・陽電子対生成を誘導しようというアイデアは、独創性の高いものです。

本研究成果により、これまで全くの前人未踏であった超高エネルギー密度領域における、光と物質の根源的振る舞いを記述する非線形量子電磁力学の研究に大きな一石を投じるものと期待されます。

ブラックホールや宇宙を飛び交う高エネルギー粒子の起源といった長大な時空スケールにおける未解明の宇宙物理の解明に貢献するだけでなく、将来的には核融合反応によるコンパクトな中性子線源 等として医療・産業への応用研究にも貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、下記のジャーナルに詳細が掲載されました。
タイトル:“Relativistic proton emission from ultrahigh-energy-density nanosphere generated by microbubble implosion”
掲載場所:Phys. Plasmas 26, 043112 (2019); https://doi.org/10.1063/1.5093043
著者名:M. Murakami, A. Arefiev, M.A. Zosa, J.K. Koga, and Y. Nakamiya

参考URL

大阪大学レーザー科学研究所 レーザーエネルギー学研究センター
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/csn/

用語説明

陽電子

電子と同じ質量を有し、反対の電荷を帯びた素粒子。ディラックが1928年理論的に存在を予言し、C.アンダーソンが1932年宇宙線の霧箱写真中にその飛跡を発見。ポジトロン。

反粒子

ある素粒子に対して、質量、スピンおよび寿命が等しく、電荷やバリオン数などの符号が逆の素粒子。光子のように反粒子がもとの粒子に一致する場合を含めれば、すべての素粒子が反粒子をもつ。電子と陽電子、陽子と反陽子の類。

シュウィンガー極限

米国の理論物理学者シュウィンガーが、繰り込み理論によって量子電磁力学を完成させた功績で朝永振一郎、リチャード・P・ファインマンとともに1965年のノーベル物理学賞を受賞した。強い電場中で真空からの粒子・反粒子の対生成が起こることを最初に示し、それに必要な電場強度は彼の名を取って「シュウィンガー極限」と呼ばれる。

最大圧縮

これまでに人類が達成した高密度圧縮の最高記録は、レーザー核融合研究に使われている米国立点火施設により達成された「固体密度の約3千倍」である(2017年)。

フェムト秒

1フェムト秒は10の15乗分の1秒。

ナノメートル

1ナノメートルは10億分の1メートル。

色即是空

般若心経が説く理の一つ。色(しき)とは現象界の物質的存在であり、そこには固定的実体がなく空(くう)であるということ。故に、「存在」は「無」である一方で、「無」は「存在」でもある、と説く。

ビッグバン

宇宙の起源は138億年前のある瞬間、ある一点で起こったとされる大爆発。

中性子線源

中性子線源は電気的に中性であるため物質内の透過性が非常に高く、核物理研究、癌治療、燃料電池開発、橋梁・建物に対する非破壊検査など、学術・医療・産業などの幅広い分野で有用となっている。