わずか数工程で均一な糖タンパク質の合成に成功

分子を自在に操って、糖鎖をタンパク質へ化学的に挿入

2021-7-27自然科学系

研究成果のポイント

  • 糖鎖とペプチド鎖をつなぐ新たなアミド結合形成反応を開発
  • 開発した反応を用いることで、目的のタンパク質鎖に糖鎖を挿入するという、従来のアプローチとは全く異なる糖タンパク質合成法を達成
  • 開発した糖タンパク質合成法を使うことで、ウイルス感染時の免疫や炎症反応に関わる生理活性物質である2つのサイトカインの合成に成功
  • 今後さらに多くの糖タンパク質が自在に合成されることで、生体における糖鎖の機能解明が加速するとともに、糖タンパク質製剤の迅速供給にも期待

概要

大阪大学大学院理学研究科化学専攻 有機生物化学研究室大学院生の野村幸汰さん(博士後期課程/日本学術振興会特別研究員DC)、真木勇太助教、岡本亮講師、梶原康宏教授および岡山大学ヘルスシステム統合科学研究科 佐藤あやの准教授らのグループは、チオアシッドを鍵物質とすることで従来と全く異なったアプローチによる糖タンパク質合成法を開発しました(図1)。さらに、開発した合成法により、免疫反応において重要なサイトカインである糖鎖結合型C-Cモチーフケモカインリガンド1(CCL1)及びインターロインキン3(IL-3)の化学合成を達成しました。また、細胞を用いた実験から、造血細胞上のIL-3-受容体と本合成法により合成したIL-3との複合体形成時における糖鎖の機能を解析することができました。

糖タンパク質は、ウイルスに対する免疫応答、炎症反応、細胞への信号伝達など様々な場面で機能しており、その糖鎖機能や生物学的現象を詳細に調べることが必要だと考えられています。しかし、生体内のタンパク質に結合する糖鎖は、様々な構造をしており、どの構造の糖鎖が重要かを特定することは難しく、また、バイオテクノロジーを利用しても高純度の糖タンパク質を得ることは極めて困難です。この問題の解決策の一つとして、糖鎖構造が自在に換えられ、かつ高純度の糖タンパク質が得られる化学合成が挙げられますが、従来の糖タンパク質合成法では、平均して100工程以上もの合成ステップが必要であり、一般的に合成が困難でした。

今回、本研究グループはチオアシッドを鍵物質として用いることで、化学選択的に糖鎖アスパラギンチオアシッド(1)とタンパク質(ペプチド)鎖(2)をつなぐ新規アミド結合反応“ジアシルジスルフィドカップリング(DDC)”を開発しました(図2)。 さらにDDCを応用した合成ストラテジーによって糖鎖をタンパク質の任意の位置に自在に挿入するような糖タンパク質合成法を開発しました(図1)。これにより、合成した糖鎖を迅速に糖タンパク質に組み込むことが出来、原料からわずか5工程程度で高純度な糖タンパク質の合成に成功しました。

実際に開発した方法を用いて合成した糖鎖を有したIL-3の細胞増殖活性を測定し、糖鎖の機能を評価したところ、IL-3とその受容体タンパク質間の結合を促進する新たな作用機序を考察することができました。

このような糖鎖の影響を調べる実験は、均一な糖鎖をもつ高純度糖タンパク質の迅速な調達が必要不可欠であり、本合成法は今後糖タンパク質上の糖鎖機能解明研究の鍵となると考えられます。さらに、本合成法を用いることで迅速に糖タンパク質を調製できるため、糖タンパク質製剤への応用も可能であると考えられます。

本研究成果は、2021年6月30日(水)に、米化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。

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図1. 新しい糖タンパク質合成法 糖鎖アスパラギンをタンパク質へ化学選択的に縮合することによって迅速に糖タンパク質を合成することが出来る。

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図2. ジアシルジスルフィドカップリング(DDC) 糖鎖アスパラギン(1)とペプチド(2)を化学選択的にアミド結合(4)でつなぐことが出来る

研究の背景

生命は主に三つの高分子鎖(DNA鎖、タンパク質鎖、糖鎖)から形成されており、特に糖鎖とタンパク質が結合した糖タンパク質は、ウイルス感染やがん細胞における重要な創薬ターゲットとなっています。これまで、多くの研究者により糖タンパク質上の糖鎖の機能を解明するためにバイオテクノロジー法や化学的全合成法を用いた様々な合成法を生み出してきました。しかし、糖鎖構造の複雑さ、及び全合成の工程数の多さによって、合成収率が低くなることから、合成した糖タンパク質を用いた各種分析が難しく、詳細な糖鎖の機能解明は限定的なものとなっていました。

こうした課題に対して本研究グループでは、以前より均一構造を持った糖タンパク質の効率的な合成法を確立すべく、鶏卵より単離した糖鎖を用いることで様々な糖鎖構造を有する糖タンパク質の化学合成を展開してきました。このような背景において最も高難度で効率的な分子構築法として、糖鎖をタンパク質に後から挿入するような合成法が以前より考えられていましたが、タンパク質や糖鎖は様々な官能基が存在するため、低分子医薬品のように分子構造を精密に制御して連結する方法は従来困難であり、高度に分子を制御した化学選択的な反応が必要でした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、自在に糖鎖をタンパク質へ組み込むことができるため、糖タンパク質における糖鎖の機能解明が進展することが期待されます。さらに、高分子~中分子医薬品である糖タンパク質や糖ペプチド製剤などの合成の効率化を行うことが出来ると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2021年6月30日(水)に、米化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。

論文名: Glycoprotein Semisynthesis by Chemical Insertion of Glycosyl Asparagine Using a Bifunctional Thioacid-Mediated Strategy
著者名:Kota Nomura, Yuta Maki, Ryo Okamoto, Ayano Satoh, and Yasuhiro Kajihara*
DOI: 10.1021/jacs.1c02601

本研究成果は、日本学術振興会特別研究員奨励費(JP20J20649)、基盤研究A(21H04708)及び、AMED(19ae0101033h0004)の補助を受けて実施されました。

参考URL

梶原康宏教授 研究者総覧URL
http://osku.jp/w0680

SDGs目標

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用語説明

サイトカイン

分泌タンパク質であり、細胞間での情報伝達物質。免疫や炎症が起こると生産され、細胞の増殖や分化を誘発することで、一連の免疫応答をコントロールしている。

チオアシッド

酸素原子を硫黄原子で置き換えたカルボン酸誘導体の総称。