ネオン20原子核の新しい存在形態の発見

低密度原子核物質の解明に向けて

2021-6-14自然科学系

お読みいただく前に

  • 原子核に関する基礎研究の成果です。原子の中心には1万分の1の大きさの原子核があります。
  • 原子核の内部で陽子と中性子が個別に運動しているという理論は、大きな成功をおさめています。
  • しかし、この理論は2個ずつの陽子と中性子がグループ(アルファ・クラスター)を作って運動している状態を説明することが出来ません。そのような状態の例として、炭素12におけるホイル状態が有名。
  • ホイル状態は低密度な状態で、通常の原子核とは大きく異なる状態(アルファ凝縮状態)だと考えられています。
  • 炭素12よりも重い酸素16やネオン20でも似たような状態があると予想されていますが、その存在は見つかっていませんでした。今回、ネオン20において、その候補となる新たな状態を発見しました。

研究成果のポイント

  • ネオン20原子核において原子核の新奇な状態であるアルファ凝縮状態を発見
  • 励起状態からの崩壊粒子の測定で可能に
  • 中性子星表面の理解の進展に期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の足立智特任研究員、川畑貴裕教授、古野達也助教、京都大学大学院理学研究科大学院生の藤川祐輝さん、大阪大学核物理研究センター、東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター、甲南大学、宮崎大学、理化学研究所からなる研究チームは、中性子星の表面近くで現れる原子核物質の新奇な存在形態(アルファ凝縮状態)の候補をネオン20原子核で発見しました。(図1)

今回、本研究グループは、大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロン加速器施設にて原子核散乱と崩壊粒子の精密同時測定を行い、原子核の新奇な存在形態であるアルファ凝縮状態の候補となる状態を世界で初めて指摘しました。この発見により、中性子星表面なども記述するような低密度な原子核物質の状態方程式への情報を得ることができ、原子核物理学の究極の目標の一つである原子核の状態方程式の解明の進展が期待できます。

本研究成果は、エルゼビア社の学術雑誌「Physics Letters B」に6月4日(金)(日本時間)に公開されました。

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図1. アルファ凝縮状態の概念図。赤い丸と青い丸はそれぞれ陽子と中性子を表す。

研究の背景

全ての原子の中心にはその約1万分の1の大きさを持つ原子核があります。全ての原子核は陽子と中性子から構成されており、陽子と中性子が原子核内部で個々に軌道運動しているという理論模型(殻模型)が原子核を記述する理論としてこれまで大きな成功を収めてきました。しかしながら、炭素12原子核の「ホイル状態」については殻模型で説明することは難しいことが分かっています。ホイル状態は生命に不可欠な元素である炭素12の宇宙における存在量を説明するために非常に重要な状態であり、この状態は3つのヘリウム4原子核から成り立つとする理論模型(アルファ・クラスター模型)がよく説明しています。この模型によるとホイル状態は通常の原子核に比べて非常に密度が低く、3つのヘリウム4原子核がボース・アインシュタイン凝縮している状態と非常に類似していると予想されています。さらにこの模型は炭素12原子核だけではなく酸素16、ネオン20原子核などのより重い原子核についてもこのボース・アインシュタイン凝縮に類似の状態が存在すると予想しています。しかしながら、これらの原子核について、その存在は確認されていませんでした。このように密度が低くボース・アインシュタイン凝縮に類似した状態は「アルファ凝縮状態」と呼ばれています。

本研究グループは、大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロン加速器施設において、世界最高性能を誇る磁気スペクトロメータ「グランドライデン」とシリコン半導体検出器を用いてネオン20原子核からのヘリウム4原子核の散乱とネオン20原子核の励起状態のアルファ崩壊の精密同時測定を行いました。得られた実験データから、統計崩壊モデルでは説明できない高確率でアルファ崩壊するネオン20原子核の励起状態を発見し、この状態が原子核の新奇な存在形態であるアルファ凝縮状態の候補となることを世界で初めて指摘しました。(図2)

今回発見したネオン20原子核のアルファ凝縮状態の候補を詳細に調べることで、中性子星表面なども記述するような低密度な原子核物質の状態方程式への情報を得ることができ、原子核物理学の究極の目的の一つである原子核の状態方程式の解明の進展が期待できます。

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図2. ネオン20原子核がある特定のアルファ崩壊を起こす頻度についての実験データと理論計算との比較。統計崩壊模型では説明できない3つのピークを観測した。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、これまで実験室では実現することのできなかった低密度の原子核物質についての知見を得ることができ、中性子星表面の記述についての理論的進展が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年6月4日(金)(日本時間)にエルゼビア社の学術雑誌「Physics Letters B」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Candidates for the 5 condensed state in 20Ne”
著者名:S. Adachi, Y. Fujikawa, T. Kawabata, H. Akimune, T. Doi, T. Furuno, T. Harada, K. Inaba, S. Ishida, M. Itoh, C. Iwamoto, N. Kobayashi, Y. Maeda, Y. Matsuda, M. Murata, S. Okamoto, A. Sakaue, R. Sekiya, A. Tamii, and M. Tsumura

なお、本研究は、大阪大学核物理研究センターの共同利用実験E402で得られた成果を基にしており、日本学術振興会の科学研究費助成事業補助金20K14490、 19J20784、および19H05153から部分的に支援を受けています。

参考URL

足立智特任研究員 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/31067e7bcda28912.html

川畑貴裕教授 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/02dca67554b67099.html

用語説明

ホイル状態

宇宙において炭素12原子核はヘリウム4原子核3つから合成されたことが分かっています。炭素12原子核が3つのヘリウム4原子核にばらばらになるエネルギー近くに炭素12原子核の合成に重要となる未知の励起状態があるとフレッド・ホイル博士が予想し、その後実験的に発見されたたことにちなみこの励起状態はホイル状態と呼ばれています。

アルファ凝縮状態

ヘリウム4原子核はボース粒子です。そのため、原子核の系でヘリウム4原子核によるボース・アインシュタイン凝縮が起きることが予想されています。実際、炭素12原子核のホイル状態はヘリウム4原子核のボース・アインシュタイン凝縮状態に相当すると考えられています。

アルファ・クラスター模型

ヘリウム4原子核のことを特にアルファ粒子と呼びます。このアルファ粒子を基本的な構成単位として原子核の構造を記述する模型がアルファ・クラスター模型であり、ホイル状態の励起エネルギーや励起強度などの性質を良く説明できる模型として知られています。

ボース・アインシュタイン凝縮

量子力学では、全ての粒子はボース粒子とフェルミ粒子に分類されます。ボース粒子では、同じ種類の粒子が同じ最低エネルギー準位に入ることができ、多数の粒子の「凝縮」が起こりえます。1995年に中性原子の系においてその存在が初めて実験的に確認されました。

磁気スペクトロメータ「グランドライデン」

原子核散乱において発生する荷電粒子を磁場中に入射させて分析し、荷電粒子のエネルギー・放出角度を測定する大型実験装置を磁気スペクトロメータと呼びます。大阪大学核物理研究センターでは、世界最高性能を誇る磁気スペクトロメータ「グランドライデン」を建設し、原子核散乱の超精密測定の実験的研究で世界をリードしています。