基板上のグラフェン特性を緻密にあやつる。電界の影響で半導体にも金属にも

層数制御した多層グラフェンナノリボンによる特性支配要因の解明

2021-6-9自然科学系

研究成果のポイント

概要

大阪大学大学院工学研究科の根岸良太招へい研究員(2020年3月まで助教/現 東洋大学理工学部電気電子情報工学科 准教授)、小林慶裕教授、森伸也教授、九州工業大学大学院生命体工学研究科・ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター長 田中啓文教授らの研究グループは、多層グラフェンナノリボンをチャネルとした電界効果型トランジスタのキャリア輸送特性解析から、グラフェンナノリボンにおける金属・半導体特性の発現機構を解明しました(図1)。

今回、多層グラフェンナノリボンは、固体テンプレートを用いた化学気相成長法の開拓により緻密に層数を制御しました。これにより、層数の異なる多層グラフェンナノリボン電界効果型トランジスタのキャリア輸送特性の観察データと、理論計算によるデバイスシミュレーションとの詳細な比較を行いました。この結果、グラフェンナノリボンをチャネルとした電界効果型トランジスタのキャリア輸送特性は、デバイス基板であるシリコン酸化膜表面(SiO2/Si)にある不純物電荷からの電界の影響が軽減されていくと、半導体的特性から金属的特性に変化することを明らかにしました。

本成果によって、原子層構造であるグラフェンナノリボンのデバイス応用に向けた構造設計の指針が獲得できました。半導体・金属特性の制御により、電子デバイスや配線など目的に適した応用が期待されます。本研究成果は、日本時間5月13日(木) 午後6時に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Nature Publishing Group)」に公開されました。


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図1. グラフェンナノリボンをチャネルとした電界効果型トランジスタのキャリア輸送特性

研究の背景と成果概要

これまでの研究では、理想的な系における電子構造計算により、グラフェンナノリボンのキャリア伝導特性が、そのエッジ構造や幅の違いにより半導体や金属特性を示すことが予測されてきました。しかしながら、シリコンデバイス基板に組み込んだ実際のグラフェンナノリボンデバイスでは、理論的な予測とは異なり、構造に対して系統的なキャリア伝導特性の変化が現れないことが課題でした。本研究グループでは、カーボンナノチューブをアンジップすることにより合成した単層グラフェンナノリボンを固体テンプレートとした化学気相成長法により、多層グラフェンナノリボンを作製しました(図2)。幅を15~25 nmに制御しつつ、層数を変化させた多層グラフェンナノリボンをチャネルとした電界効果型トランジスタ(図3(a))のキャリア伝導を計測した結果、数層(1~3層)グラフェンでは半導体的、多層(6~8層)では金属的な特性が観察されました(図3(b),(c))。図4(a),(b)に、デバイスシミュレーションによる単層・多層グラフェン表面のポテンシャルマップを示します。単層では、デバイス基板表面上に残留する不純物電荷により、局所的に高いポテンシャル障壁が形成されますが、多層では層間における電場遮蔽効果により表面ポテンシャルが平坦になります。

図4(c),(d)に、この表面ポテンシャルの様子を模式的に示します。単層グラフェンでは、不純物電荷の局所的なポテンシャル変調の影響を強く受けるため、キャリアは熱エネルギーの助けを借りてこの障壁を乗り越えるようにホッピング伝導します。特に、ナノリボンのような細線形状ではチャネルを分断するように大きなポテンシャル障壁が形成されるため、伝導電子が局在化を起こし半導体的な特性を示します。一方、多層構造では層間の遮蔽効果により不純物電荷による電界が層数の増加と共に減衰し、最表層付近ではポテンシャルが平坦になり高い伝導度を有する金属的特性を示すようになります。グラフェンナノリボンデバイスの観察されたキャリア輸送特性における層数の変化を図4(e)に示します。層数が5層付近を境に、キャリア輸送特性が半導体的から金属的に遷移します。この境界となる5層の厚みは、不純物電荷の電界に対する遮蔽長(~1.5 nm)と良い一致を示します。このことから、実際のグラフェンナノリボンデバイスでは、それを取り巻く周りの環境効果の有無が、半導体・金属特性発現の支配要因となることを明らかにしました。

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図2. 単層グラフェンナノリボンを成長核とした多層グラフェンの合成。(a)成長前後の走査型原子間力顕微鏡像と(b)高さ分布

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図3. (a)単一の多層グラフェンナノリボンをチャネルとした電界効果型トランジスタと、(b)単層グラフェンナノリボンデバイスおよび、(c)多層グラフェンナノリボンデバイスのキャリア輸送特性におけるゲート電圧依存性

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図4. シミュレーションによる(a)単層、(b)8層グラフェンの表面ポテンシャルマップ、(c)、(d)ポテンシャルの断面模式図、(e)観察したキャリア輸送特性における層数依存性

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今日の情報通信社会は、マイクロプロセッサの飛躍的な性能向上により推し進められてきました。このマイクロプロセッサの性能向上は、基本素子である半導体トランジスタの微細化により支えられており、そのサイズは数十ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1)にまで及んでいます。しかしながら、この極限的なスケールでは半導体トランジスタが動作しない原理的な限界を迎えることから、代替となる材料の開発が世界中で活発化しています。優れた伝導特性を有するグラフェンナノリボンは次世代の電子デバイス材料として注目されています。本研究により、実際のデバイス構造へ組み込むグラフェンナノリボンの設計指針が明らかにされました。本成果は、高速動作可能なトランジスタや高電流密度に耐える配線など目的に応じたグラフェンナノリボン材料の応用・展開を加速する重要なマイルストーンとなります。

特記事項

本研究成果は、2021年5月13日(木) 午後6時(日本時間)に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Nature Publishing Group)」に公開されました。

タイトル:“Crossover point of the field effect transistor and interconnection applications in turbostratic multilayer graphene nanoribbon channel”
著者名:Ryota Negishi, Katsuma Yamamoto, Hirofumi Tanaka, Seyed Ali Mojtahedzadeh, Nobuya Mori and Yoshihiro Kobayashi
DOI:10.1038/s41598-021-89709-z

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費 No. 16K13639, 15H05867, 17H05336, 17H02745, 19H04545, 19H02559, 文部科学省「ナノファブリケーションプラットフォーム事業」、大阪大学フォトニクス先端融合研究センターの協力を得て行われました。

参考URL

大学院工学研究科 物理学系専攻 応用物理学コース ナノマテリアル領域(小林研究グループ)
http://www.ap.eng.osaka-u.ac.jp/nanomaterial/

SDGs目標

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用語説明

固体テンプレート法

固体成長核を利用した化学気相成長法。本研究では、2層カーボンナノチューブを開裂させるアンジップ法により作製した単層グラフェンナノリボンを固体成長核として利用した。

化学気相成長

石英などの反応管内で、加熱した試料上に原料ガスを供給することにより、試料表面上に成膜させる方法。

グラフェンナノリボン

炭素六員環構造をもつグラフェンがリボン(細線)状に1次元化したナノカーボン材料。その電子状態は、エッジ(ジグザグ・アームチェアー)構造や細線幅に依存して半導体的・金属的特性を示す。

電界効果型トランジスタ

チャネル材料(本研究ではグラフェンナノリボン)がソースとドレイン電極に結合し、絶縁層を介在させたゲート電極からの電界によるチャネル材料のキャリア変調により、ソース・ドレイン間の電流量を制御する電子素子。