生体信号ビッグデータから日本人の睡眠実態を客観的に評価

生体信号ビッグデータから日本人の睡眠実態を客観的に評価

7万人の睡眠データが明らかにする加齢や性別の影響

2021-5-14生命科学・医学系

研究成果のポイント

  • 医療ウェアラブル機器(ホルター心電図計)で計測した身体加速度ビッグデータを用いて、日本人の睡眠特性、特に、年齢や性別による睡眠の量、質の違いを客観的手法により明らかにした。
  • 集団ベースの大規模な睡眠研究は、質問紙調査などによる主観的報告に基づく研究が主流であったが、今回、生体信号ビッグデータに機械学習を援用し、睡眠を特徴づける睡眠指標を導出することで、日本人の睡眠実態を客観的データに基づき明らかにすることができた。
  • 睡眠におよぼす加齢や性差による影響が客観的に明らかになり、欧米との調査結果とは異なる知見が得られた。
  • 近い将来、IoT(Internet of Things)デバイスの発展や普及により、大規模かつリアルタイムに日常生活下での睡眠状態の計測が可能になり、睡眠と心身の健康、疾患発症との関係のみならず、気象・環境や社会・経済的変化との関連などが明らかになることが期待される。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の李俐特任研究員(常勤)、中村亨特任教授(常勤)らの研究グループは、東京大学大学院教育学研究科の山本義春教授、名古屋市立大学大学院医学研究科の早野順一郎教授との研究チームとともに、約7万人(10歳から89歳)の生体信号ビッグデータを解析し、加齢や性差により睡眠の量や質にどのような違いが生じるのかを客観的に評価しました。

本研究グループは、日本全国から集められた24時間ホルター心電図計記録に付随する身体加速度データから、機械学習を援用し睡眠を特徴づける睡眠指標(総睡眠時間、睡眠効率、睡眠潜時、中途覚醒時間など)を導出し、日本居住者の睡眠実態を明らかにしました(図1)。睡眠時間は、中高年で最も短く、年齢に対しU字型の変化を示すこと、また加齢に伴い睡眠―覚醒の位相が前進すること(早寝早起きになること)が客観的に示されました。一方、女性は男性に比べて、睡眠時間が平均で約30分短く、この傾向は30歳以上で顕著でした。女性の睡眠時間が短いのは、男性よりも就床時刻が遅いにも関わらず、起床時刻には違いがないこと、さらに加齢に伴う睡眠の質の低下が男性よりも顕著であることがその要因でした。これらの睡眠特性には、生物学的な加齢に加え、日本特有の社会的・文化的・家族的要因などが複合的に関与していると考えられます。

本研究成果は、ネイチャー・パブリッシング・グループの総合科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン)に、5月11日に公開されました。

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図1. (a) ALLSTARプロジェクトでは、日本全国から収集したホルター心電図計計測データを蓄積。Electrocardiogram(ECG)データに加え、デバイスに内蔵されたセンサーで測定した体幹加速度データ等も蓄積。 (b)睡眠指標の加齢による変化。 (c)起床時刻(赤線)、就寝時刻(青線)の年齢依存性。

研究の背景

これまでの集団ベースの大規模な睡眠研究は、質問紙やインタビュー調査などによる主観的報告に基づく研究が主流であり、得られた知見の客観性に乏しいという欠点がありました。また、睡眠効率や中途覚醒時間などの睡眠の質を反映する睡眠指標は、主観的報告では評価するのが困難です。一方、睡眠の質の客観的評価において、最も妥当性がある方法として、ポリソムノグラフィーがありますが、実験の大変さや費用、家庭での計測の難しさなどから、日常生活下で大規模に実施するには数多くの課題があります。

本研究では、ALLSTAR研究(Allostatic State Mapping by Ambulatory ECG Repository研究)で日本全国から集められた24時間ホルター心電図計(医療用ウェアラブルデバイス)記録に付随する3軸体幹加速度データを活用し、機械学習を援用した加速度データからの睡眠指標(総睡眠時間、睡眠効率、睡眠潜時、中途覚醒時間など)の導出手法を開発、約7万人の加速度データに基づき日本居住者の睡眠実態を明らかにしました。これまで日本で実施されてきた客観的な睡眠実態の研究としては、過去最大規模です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、日本人の睡眠特性を客観的に明らかにしました。特に、睡眠に及ぼす加齢や性別の影響について、大規模データから客観的数値で評価することができました。また、これまで欧米で実施されてきた調査報告とは異なる知見が得られており、生物学的な加齢に加え、日本特有の社会的・文化的・家族的要因などが複合的に日本人の睡眠に関与している可能性が示唆されました。今後、高精度な睡眠トラッカーの普及や発展により、日常生活下の睡眠に及ぼす様々な要因が明らかにされることが望まれます。

特記事項

本研究成果は、2021年5月11日に「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Age and gender differences in objective sleep properties using large-scale body acceleration data in a Japanese population”
著者名:Li Li, Toru Nakamura, Junichiro Hayano, Yoshiharu Yamamoto

なお、本研究は、JSPS科学研究費の支援を受け行われました。

参考URL

ALLSTAR研究
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/mededu.dir/allstar/

中村 亨 特任教授(常勤) 研究者総覧URL
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8c7ba8187032c201.html

大阪大学 大学院基礎工学研究科 産学連携センター 健康情報工学共同研究講座URL
https://www.behi-lab.jp/

SDGs目標

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