
AIも木から落ちる!
不確実な予測情報でも精密にシステム制御できる新技術
研究成果のポイント
概要
大阪大学大学院工学研究科の南裕樹准教授、名古屋大学大学院工学研究科の東俊一教授らの研究グループは、AIが予測した不確かな情報を自動制御システムの信頼性が低くならないように、システムの特徴を考慮して適切に修正する技術を開発しました。
電力システムや自動運転システムなどでは、AI予測技術を利用して、意思決定・制御に必要な情報を予測します。しかし、現実には、完全な予測はできず、間違うこともあります。この予測の不確実性は、システム全体の信頼性に影響を与える可能性があります。
今回、本研究グループは、図1に示すように、予測情報を適切に整形して、意思決定・制御の精度を高める技術「予測ガバナ」を数理的なアプローチに基づいて開発しました。これは、自動制御システムの数理モデルと過去の実績情報を利用して、予測情報を積極的に整形するもので、対象とするシステムに特化した最適な整形が可能になります。また、図2に示すような、電力システムの需給バランス制御のシミュレーションを行い、本結果を利用することで、制御の精度が約55%向上することを確認しました。
本結果により、予測が不確実である場合において、意思決定と制御の信頼性を向上させるための主要技術の1つになり、電力システムや自動運転システム,医療システムなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「IET Control Theory & Applications」(オンライン)に、3月28日(日)に公開されました。
図1. 従来システムの問題点と提案する技術の利用方法
図2. 電力システムの需給バランス制御に提案技術を適用した例(シミュレーション結果) (周波数変動が小さい方が電力システムの信頼性が高い)
研究の背景
各地域のエネルギー需要量を予測する、自動車の走行経路を予測するなど、AI技術の発展により、さまざまな情報が予測され、活用されるようになってきています。しかし、完全な予測は現実には不可能であり、予測は不確実です。予測情報に基づいて、システムの意思決定や制御を行う場合、その予測の不確実性により、システムの信頼性が低くなることがあります。たとえば、電力システムにおいては、エネルギー需要量や太陽光発電量の予測情報をもとに供給する発電量を決定しますが、予測が不確実であると、発電量を適切に決定することができず、最悪の場合、停電が起きる可能性があります。そのため、従来研究では、予測の不確実性を小さくするための予測技術の開発が行われてきました。
これに対して、本研究グループでは、予測は不確実であるものとしたうえで、予測誤差が意思決定に与える影響をできるだけ小さくするように予測情報を整形するというアプローチに着目しました。そして、数理的な最適化方法に基づき、自動制御システムの数理モデル情報と過去の実績情報を利用することで、予測誤差が意思決定・制御にあたえる影響を最も小さくできることを明らかにしました。これにより、対象とするシステムにアドオンするだけで、対象システムに特化した予測情報の整形が可能となり、システムの信頼性を向上させられるようになります。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、電力システムや自動運転システムをはじめとする、予測情報に基づいて意思決定・制御を行うシステムに対して、予測が不確実な場合でも、システムの信頼性を高められることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2021年3月28日(日)に国際学術誌「IET Control Theory & Applications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:Prediction Governors: Optimal Solutions and Application to Electric Power Balancing Control
著者名:Yuki Minami and Shun-ichi Azuma
なお、本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)No.JPMJCR15K1およびJSPS科学研究費助成事業No.JP19K21970の一環として行われました。
参考URL
南裕樹准教授 研究者総覧URL
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?u=10007550
SDGs目標
用語説明
- 予測情報
センサで直接計測できない信号をデータから推定したもの。予測精度の高い機械学習技術などが開発されているものの、現実世界において予測誤差を完全になくすことはできない。
- 自動制御システム
運転計画を立てること(意思決定)とそれを実行すること(制御)をコンピュータを利用して自動的に行えるようにしたシステム。
- 数理モデル
システムの注目する動きを模倣するもので、微分方程式などで記述されたもの。