自然科学系

2020年9月9日

研究成果のポイント

・ヒトが有していないDNA上の傷を修復する光回復酵素の活性を、人工的に向上させることに成功
・光合成で使われている光捕集という現象をDNA修復酵素に適応することで可能に
・DNA修復が欠損した遺伝性疾患の新たな光遺伝子治療への応用に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の山元淳平准教授、岩井成憲教授、大学院生の寺井悠馬さん(博士後期課程3年)、理化学研究所生命機能科学研究センターの佐藤竜馬博士らの研究グループは、DNAの傷(損傷DNA※1)に対し、太陽光中の青色光を用いて修復する光回復酵素※2の能力を、光合成で使われている光捕集※3という現象を適用することで、人工的に向上させることに世界で初めて成功しました。

これまで、光回復酵素は紫外線防御剤・遺伝子治療剤への応用が考えられていましたが、酵素機能に必要な青色光は生体透過性が低く、その実現は困難でした。本研究成果により、酵素の青色光受容能およびDNA修復活性の向上が認められたため、新たな光遺伝子治療への応用が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nucleic Acids Research」に、9月9日(水)14時(日本時間)に公開されました。

図1 人工集光アンテナによる光回復酵素のDNA修復能の向上

研究の背景

生体の遺伝情報を担うDNAは様々な環境因子によって化学構造が変化し、突然変異や細胞のがん化の一因となります。このような損傷DNAを元の正常なDNAへと治すDNA修復は、生物の恒常性を保つためになくてはならない機能であり、DNA修復の遺伝的な欠失は致死や遺伝性疾患の原因となります。

地球上の哺乳類以外のほぼ全ての生物には、紫外線によって形成された損傷DNAに対して、太陽光エネルギーを利用して修復する光回復と呼ばれる機能があります。ヒトはこのDNA修復機能を持っていませんが、光回復を担う酵素をコードする遺伝子を導入することで、上述のような遺伝性疾患の治療法となりうることがこれまでの研究で報告されてきました。しかし、そのためには生体透過性の低い青色光が必要であり、生体組織への適用は限定的な効果しか得られてきませんでした。

研究の内容

今回、研究グループでは、植物の光合成において太陽光エネルギーを有効活用する光捕集という現象に着目し、光回復酵素に対して人工色素分子を導入することで、光合成のように青色光を効率よく集め、結果DNA修復能を向上させることに成功しました。この色素分子は酵素の中のどの位置に導入するかによって、光の利用効率が大幅に異なるため、今回DNAを足場として色素導入を行う方法を開発し、導入位置のスクリーニングを行いました。人工色素を有する酵素のDNA修復能を評価し、最も利用効率の高い導入箇所を同定しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

光回復酵素は天然にも同様の色素分子を保有しますが、色素の種類は生物種によって異なっており多様です。現時点では、ヒトで光回復酵素の遺伝子を発現させても、光捕集色素を持たないタンパク質が作られてしまうため、DNA修復の効率化は期待できません。しかし、今回のような人工光捕集による光受容能およびDNA修復能の向上が達成できれば、ヒトへの適用が可能となる可能性があります。

今回のように機能的な人工色素を導入することで青色光受容能の高い人工DNA修復酵素が得られるのであれば、人工色素の性質を様々に変化させることで、より高効率なDNA修復活性や、全く異なる光の波長で修復反応を引き起こすことができる人工酵素の開発につながる可能性があります。また、同様の発想を人工色素ではなく蛍光タンパク質の導入により達成できれば、紫外線損傷DNAの修復経路が遺伝的に欠失した指定難病に対する光遺伝子治療法への応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年9月9日(水)14時(日本時間)に英国科学誌「Nucleic Acids Research」(オンライン)に掲載されました。

タイトル: "Enhanced DNA repair by DNA photolyase bearing an artificial light-harvesting chromophore"
著者名: Yuma Terai, Risa Matsumura, Ryuma Sato, Shigenori Iwai, and Junpei Yamamoto
URL: https://academic.oup.com/nar/article-lookup/doi/10.1093/nar/gkaa719

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(C)(研究代表者:山元淳平准教授)、理化学研究所基礎科学特別研究員制度(研究代表者:佐藤竜馬博士)、および自然科学研究機構岡崎共通研究施設・計算科学研究センターと理化学研究所共同利用計算機システム・HOKUSAIの支援のもとに行われました。

用語説明

※1 損傷DNA
生体の遺伝情報の本質であるDNAは内在性の活性酸素や、電離放射線・紫外線・化学物質といった様々な外的要因によってその化学構造が変化します。このようなDNA上の傷のことを損傷DNAと言い、それが元のDNAへと治されなければ遺伝情報の変質や喪失、つまり、突然変異やがん化の原因となります。

※2 光回復酵素
損傷DNAの中でも、紫外線によって構造が変化した紫外線損傷DNAを選択的に認識し、太陽光中の青色光成分を用いて元のDNA構造へと治すことができる酵素です。光回復酵素はフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)とよばれる補酵素を持ち、これが光を吸収して損傷DNAへと電子移動が起きることで、速やかに元のDNAへと戻ります。この酵素をコードする遺伝子はオゾン層が形成される前の地球上の生物から保有していたと考えられており、古来から現在までDNA情報の維持に貢献しています。

※3 光捕集
光合成は太陽光のエネルギーを用いて二酸化炭素と水から炭化水素と酸素を作り出すことができます。その化学反応は光合成の反応中心で起こるのですが、その周辺には光捕集複合体(LHC)と呼ばれるタンパク質複合体が存在しています。このLHCは反応中心で起こる反応に必要な光エネルギーをより効率よく集めて反応中心へと受け渡すアンテナのような役割を果たします。この現象を光捕集といいます。

参考URL

基礎工学研究科 岩井研究室HP
http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/bio/

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