自然科学系

2020年2月26日

研究成果のポイント

・磁気ゆらぎを利用した新しいタイプの巨大磁気抵抗※1効果を観測しました。
・合成が困難だった磁気ゆらぎの強い純良な結晶を、マイクロメートルサイズに微細化することで抽出しました。
・単一結晶のみを用いた磁気メモリデバイスへの道を切り拓く大きな一歩です。

概要

大阪大学大学院理学研究科の大学院生の谷口祐紀さん(博士後期課程3年)と新見康洋准教授らの研究グループは、フラストレート磁性体※2と呼ばれる磁気ゆらぎの強い結晶を用いて、単一結晶のみで巨大磁気抵抗効果の観測に初めて成功しました。

巨大磁気抵抗効果とは、磁気をもつ鉄やコバルトのような磁性薄膜と、磁気を持たない銅のような非磁性薄膜を何層も重ねた系で実現する現象で、身近なところではハードディスクドライブの読み取りヘッドにも応用され、2007年のノーベル物理学の受賞対象にもなっています。通常巨大磁気抵抗効果には、2種類以上の物質が用いられ、さらに高度な成膜技術が必要でした。

そこで研究グループは、フラストレート磁性体と呼ばれる磁気ゆらぎが強い磁性体に着目し、単一結晶のみでの巨大磁気抵抗効果の観測を目指しました。先行研究では、フラストレート磁性体の純良結晶が得られていないことが巨大な磁気抵抗効果を測定する上で問題でしたが、研究グループはその物質をマイクロメートルサイズに微細化することで、純良な結晶を抽出することができました。この純良な結晶で磁気抵抗を測定(図1)した結果、これまでより弱い磁場で、しかも単一結晶のみで巨大磁気抵抗効果を観測することに成功しました。これは、磁気ゆらぎという新しい機構に基づいた巨大磁気抵抗効果で、単一結晶のみを利用した磁気メモリデバイスへの応用につながる大きな一歩となる成果です。

本研究成果は、米国科学誌「Scientific Reports」に、2月13日(木)19時(日本時間)に公開されました。

図1 本研究で得られた巨大磁気抵抗と素子の電子顕微鏡像。

研究の背景

一般にフラストレート磁性体には、電気を流す物質は多くありません。しかし、近年の物質開発技術の向上とともに、電気を流すフラストレート磁性体が発見されてきており、フラストレート磁性体を電気的に研究する機運が高まっています。新見准教授らの研究グループは、粉末のフラストレート磁性体の中から数マイクロメートルの微結晶を抽出する手法を新しく開発し、電気測定を行うことで、従来の磁性体と比べて10倍以上大きな磁気抵抗を観測しました。さらに、理論モデルと比較することで、本研究で得られた磁気抵抗が磁気ゆらぎに起因するものであることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

単一結晶かつ低磁場で巨大磁気抵抗効果を示す物質はこれまで報告はありませんでした。本研究成果は、磁気ゆらぎ起源の巨大磁気抵抗効果を利用した、新しい磁気メモリデバイス応用への第一歩となる重要な成果です。

特記事項

本研究成果は、2020年2月13日(木)19時(日本時間)に米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Butterfly-shaped magnetoresistance in triangular-lattice antiferromagnet Ag2CrO2
著者名:H. Taniguchi, M. Watanabe, M. Tokuda, S. Suzuki, E. Imada, T. Ibe, T. Arakawa, H. Yoshida, H. Ishizuka, K. Kobayashi, and Y. Niimi

なお、本研究は、科学研究費(JP16H05964,JP17K18756,JP26103002,JP19H00656,JP18H04222,JP19K14649, and JP18K03529)、マツダ財団、島津科学技術振興財団、矢崎科学技術振興記念財団、SCAT研究助成、村田学術振興財団からの支援の下、行われました。

用語説明

※1 磁気抵抗
外から印加した磁場によって、物質の磁気的な性質を反映して電気抵抗値が変化する現象。

※2 フラストレート磁性体
隣り合う磁気(矢印)同士が反並行に並ぶと安定化する状況で、矢印を正三角形の格子上に並べると、③の位置では、①と②の両方を安定にする状態は選べない。これをフラストレーション(「不満」)と呼び、特にこのような性質をもつ磁性体を「フラストレート磁性体」と呼ぶ。

図2 フラストレート磁性体

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 小林研究室
http://meso.phys.sci.osaka-u.ac.jp/index.html

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