表面の粘着性が変化するディスプレイ

表面の粘着性が変化するディスプレイ

局所的に粘着性を制御できる2D+1Dディスプレイを開発

2019-11-15工学系

研究成果のポイント

・表面の一部の粘着性をコンピュータによって制御でき、画像情報(2D)に粘着性(1D)を追加し表示できるディスプレイ。
・従来のディスプレイガラス表面を変更する技術では、表面の一部だけ形状や摩擦係数を変えるような動的かつインタラクティブな制御はできなかった。
・タッチ操作、スワイプ操作を拡張できるディスプレイ。
・新しいエンタテインメントコンテンツや、目の不自由な方への情報提示に応用可能。

概要

大阪大学 大学院情報科学研究科 伊藤雄一招へい准教授らの研究グループは、温度によって粘着性が変化する特殊なポリマーシートをディスプレイスクリーン上に配置し、局所的な温度変化を制御することで、表面の粘着性を局所的に制御可能なディスプレイシステムを開発しました (図1) 。

画像情報(2D)に粘着性(1D)の情報を加えることで、人にとってより分かりやすい情報提示が可能となります。例えば、フォルダを階層でたどっていく際に、フォルダの容量に応じて粘着性を変化させることで、触るだけでフォルダの容量を「感じる」ことが可能となります。また、スワイプ操作しているときに、重要な情報が存在している部分の粘着性を上げておくことで摩擦力を発生させ、スワイプしている指を止めることも可能となります。また目の不自由な方を誘導するタッチディスプレイなどへの応用も可能です。

一方で、映像情報に粘着性を付与できるので、例えば映像の中で粘着性が存在するようなコンテンツでは、映像に臨場感を感じることも可能です。

このように、本システムは人に対して情報のより良い理解を促す新たなIT環境を生み出すものであり、様々な用途への応用(新しいデジタルコンテンツ、デジタルサイネージ、商品ディスプレイなど)が考えられます。

図1 システム全体図。
人差し指部分に粘着が発生している。映像は上方よりプロジェクターで投影。

図2 システム構成図

研究の背景

タブレットやスマートフォンのような、入力面と出力面が一致するようなタッチディスプレイは、指などを用いた直感的な情報の操作を可能とする反面、その表面は一般的に平面ガラスである場合が多く、情報の変化に合わせて触り心地が変化するような情報提示は不可能でした。そのため、ペーパーライクフィルムなど、表面の微少な形状や摩擦係数を操作して操作感を向上させようとする商品などが提案されています。しかしながら、このようなディスプレイガラス表面の変更は、情報の理解や操作に有効ではあるものの、表面の一部だけ形状を変化させたり、摩擦係数を変えるというような、動的かつインタラクティブな制御はできませんでした。一方で一般的な2次元のディスプレイ装置に映像という視覚情報だけではなく、他の感覚を組み合わせることで情報をよりリッチなものとする研究が多くなされています。特にゲームを初めとしたエンタテインメント業界では、臨場感や没入感などを増すために温度や衝撃を提示するディスプレイなども提案されています。その中で、特に触覚に注目したディスプレイや要素技術が数多く提案されています。そこで伊藤招へい准教授らの研究チームでは、ディスプレイ表面を温度によって粘着性が変化する特殊なポリマーシートで覆い、局所的な温度をコンピュータによって制御することで、自由に表面の粘着性(摩擦力)を変化し、映像のような2次元情報に、粘着という触覚(1次元)を加えることができるディスプレイ装置の開発を行いました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で実現したシステムは、2次元の映像情報に粘着という新しい情報を付加して表示できるディスプレイです。視覚だけではなく触覚でも情報を感じることができ、通常の2次元ディスプレイでは表現が難しいような情報提示が可能となります。粘着の表出と何もない状態は自由に数秒で入れ替えられ、映像コンテンツを指で感じたり、情報の軽重を指で感じることが可能となります。また、摩擦力も制御できるので、スワイプ操作を止めたりといった人の行動のコントロールも可能となります。これにより、新しい映像表現や臨場感を高めるエンタテインメントコンテンツの提供、触覚情報ということから、目の不自由な方への情報提示などにも利用可能となることが期待されます。

このように、本提案手法は粘着を局所的に表現できるディスプレイとして新たな情報提示環境の構築、さらにはコンテンツマーケットの創造などが期待されます。

本研究成果の詳細

本ディスプレイは 図2 に示すように粘着性変化モジュールをアレイ状に並べて実装します。コンピュータはそれぞれの粘着性変化モジュールの粘着性を3段階(粘着無し、弱粘着、強粘着)でコントロールします。粘着性変化モジュールは感温型の粘着性シート、ペルチェ素子、サーミスタ、ヒートシンク、DCファンで構成され、粘着性シートに与える温度をペルチェ素子によって変更することで、その粘着性を制御します (図3) 。粘着性シートはあらかじめ設定されたスイッチング温度があり、スイッチング温度付近で粘着力が急激に変化します。本研究で用いたシートはニッタ株式会社製のインテリマーテープで、利用者に痛みなどの不快感を与えない範囲の温度で粘着力の変化を提示できるように、スイッチング温度が40度のものを使用しました。この温度を上回ると急激に粘着性が発生し、30℃から48℃の範囲で最大で2.6[N/25mm]の粘着性を提示することができます。このシートによる粘着性の変化に対する知覚を調査した被験者実験の結果、前述のように3段階(粘着無し、弱粘着、強粘着)の粘着が提示可能であることが分かりました。粘着性変化モジュールのサイズはタッチ操作を想定して、人の人差し指の大きさ程度の8.3mm角のペルチェ素子を使用しています。このモジュールを8x8で並べた基板を 図4左 に、ディスプレイを構成したものを 図4右 に示します。

伊藤招へい准教授らの研究グループでは、今後、エンタテインメント応用や、デジタルサイネージとしての利用といった応用を検討し、実用化を進めていく予定です。

図3 粘着性変化モジュール

図4 実装した基板(左)ディスプレイ表面(右)

特記事項

本件は、11/18〜11/20までオーストラリアにて開催中の、SIGGRAPH ASIA 2019 Emerging Technologiesでデモンストレーション発表を実施しています。

著者:Y. Ishihara, R. Shirai, Y. Itoh, K. Fujita, T. Onoye
論文名:“StickyTouch: An adhesion changeable surface,” in Proc. of SIGGRAPH ASIA 2019 Emerging Technologies, pp. 44-45, Nov. 2019.
DOI:10.1145/3355049.3360531

動作の様子はYouTubeでご覧いただけます。( https://youtu.be/05rpa3_XECU

参考URL

大阪大学 大学院情報科学研究科 情報システム工学専攻 情報システム構成学講座
http://www-ise2.ist.osaka-u.ac.jp/