柔らかいチューブを使ったディスプレイ
チューブ内の液滴を表示材として利用したフレキシブルなディスプレイを開発
研究成果のポイント
・柔らかいチューブを使い、チューブ内の様々な液滴を表示材として利用したディスプレイを開発。
・柔らかいチューブで構成されているので物体に巻き付けてディスプレイを構築できる。ウェアラブルディスプレイやサイネージ、店舗のディスプレイとしても利用可能。
・着色水や自発光液滴を使用することで通常のディスプレイ、温・冷水を利用すれば温度提示装置、特定のオブジェクトに巻き付けることでプロジェクションマッピングなど様々な応用が可能。
・柔らかいチューブ素材を利用したディスプレイ装置で新たな情報提示環境を生み出し、様々な用途への応用が期待できる。
概要
大阪大学大学院情報科学研究科伊藤雄一招へい准教授らの研究グループは、柔らかいチューブをディスプレイ装置として用い、チューブ内に液体などの流体を流し込み、その位置やサイズを正確に制御することで様々な情報を表示可能なディスプレイシステムを開発しました。( 図1 、 図2 )
柔らかいチューブで構成されているので、物体に巻き付けてディスプレイを構築したり、自由な形状でディスプレイを構築できます。腕に巻き付けてウェアラブルディスプレイを、柱などに巻き付けてデジタルサイネージを構成するなど、これまでの2次元ディスプレイでは不可能なディスプレイ装置を構成できます。また、チューブ内の流体を様々に変更することで、提示情報の内容を変更可能です。例えば、着色水を利用することで通常のディスプレイとして利用でき、温・冷水を利用すれば温度提示ディスプレイとしても利用できます。チューブは1本からディスプレイとして利用でき、複数本組み合わせることで、さらなる表現の向上を図ることも可能です。
このように、本システムは人と情報をつなぐ新たなIT環境を生み出すものであり、様々な用途への応用(デジタルサイネージ、ウェアラブルディスプレイ、商品ディスプレイなど)が考えられます。
図1 システム全体図。右の球体にチューブを巻き付けてディスプレイとした例
図2 システム構成図
研究の背景
タブレットやスマートフォンのような、入力面と出力面が一致するようなタッチディスプレイは、指などを用いた直感的な情報の操作を可能とする反面、その表面形状は平面である場合が多く、2次元に沿った形でしか情報を表示できません。これに対し、立体的な表面形状の物体を用いて情報を提示するシステムが、様々に提案されています。これらは平面ディスプレイでは直感的に与えられない凹凸などの情報を提示できるため、2次元平面に限定されないさらに高度な情報提示を可能とします。このように様々な表面形状を取る物体をディスプレイとして利用することで、ディスプレイの形を選ばない、新しい情報提示手法が可能となります。そこで伊藤招へい准教授らの研究チームでは、様々な表面形状に適用可能なフレキシブルなディスプレイの開発を目指して、柔らかいチューブとその内部に流体を流し込み、その位置とサイズをコンピュータによって制御することで情報を提示するシステムの開発に取り組んできました。
本研究成果の詳細
チューブをディスプレイとして使用するために、チューブ内の流体の位置やサイズを正確に制御するのは容易ではありません。ディスプレイの表示要素として、透明流体と着色流体を多数、チューブ内に配置しますが、それぞれの流体は分離した状態のまま移動させる必要があります。したがって、互いに混ざり合わないような組み合わせを見つける必要があります。さらにチューブについても、チューブ径が太すぎると液だまりが発生したり、表面張力が失われ流体がその形状を保てないなどの問題が発生します。流体の移動はポンプを利用しますが、流体が増えるに従い、流体とチューブ間の摩擦が増大し、指定した位置に流体を配置できないという問題が発生します。伊藤招へい准教授らの研究グループでは、これらの問題を一つずつ検討し、最適なチューブ材質、チューブ径,ポンプ圧、ポンプスピード、流体などを決定しました。特に流体としては様々検討した結果、着色水と空気を2相の流体として用い、チューブとして内径4mmのペルフルオロアルコキシフッ素樹脂製チューブを用いることが最適であることを見いだしました。また、着色水を指定サイズとするため、さらに着色水同士の距離を制御するため(すなわち、着色水同士の間に空気を指定量入れるため)に、スラグ流を利用しています。スラグ流とは、異なる相の流体が交互に流れる状態を指し、これら異なる相の流体を最適な流量で合流させると発現します。提案ディスプレイ装置では、着色水と空気の2相の流体をポンプによって正確に合流させ、指定したサイズの着色水と、空気を用いて指定した着色水同士の距離を生成することに成功しています。また、合流部分に6方弁を利用し、減法混合の三原色であるシアン・マゼンダ・イエローと白色の着色水を適宜混ぜ合わせることで、自由な色の液滴を作成し、通常のディスプレイのように多数の色を用いた情報提示を可能としています (図3) 。伊藤招へい准教授らの研究グループでは、今後、ディスプレイサイズに関するフレキシビリティの確保手法、複数のチューブを同時に組み合わせることによる高精度化と液滴の制御手法などを検討するとともに、デジタルサイネージとしての利用や、ウェアラブルディスプレイとしての実用化を進めていく予定です。
図3 円柱に巻き付けたチューブに複数カラーの液滴で「S」を描画した例
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で実現したシステムは、 図1 に示すように物体にチューブを巻き付けるなどの方法でディスプレイを構成し、チューブ内に着色液などの流体を流すことで情報を提示するディスプレイです。表示筐体にチューブを用いることで、チューブを例えば物体に巻き付けるだけで容易に3次元形状を持つディスプレイを構成できるようになります。さらに、その形状の柔軟性から、通常の2次元ディスプレイでは表現が難しいような様々な形状を用いた表示が可能となります。また、表示媒体としてチューブ内の着色液を用いることで,ディスプレイ部分を構成するものがチューブのみとなり、メンテナンスや交換、またサイズや形状などの変更が容易となります。さらに、使用する流体の種類や性質を変えることで、システム自体を変更することなく様々な種類の情報を直感的に提示できるディスプレイの構成が可能です。例えば、温・冷水を用いてウェアラブルディスプレイを構成すれば、皮膚に対して音感や冷感を与える温度提示ディスプレイなどが構成できます。また、自発光液体を用いることで、ユーザの目を引くデジタルサイネージシステムなどを構成可能です。この、サイネージシステムとしての利用について、一般的に建物の柱へのサイネージシステムの適用は、直方体形状を持つ柱が主たるものですが、円柱状の柱についても、周りにチューブを巻き付けることでサイネージディスプレイとして利用可能となります。
このように、本提案手法は柔らかいチューブによるディスプレイ装置によって、人と情報をつなぐ新たなIT環境の構築、マーケットの創造が可能であると考えられ、我が国の産業に大きな影響を与えることが期待されます。
特記事項
本件は、12/4〜12/7まで東京国際フォーラムにて開催された、SIGGRAPH ASIA 2018 Emerging Technologiesでデモンストレーション発表を実施しました。
動作の様子はYouTubeでご覧いただけます。
参考URL
大阪大学 大学院情報科学研究科 情報システム工学専攻 情報システム構成学講座
http://www-ise2.ist.osaka-u.ac.jp/