工学系

2019年9月4日

研究成果のポイント

・マイクロ流路内での熱対流速度制御による迅速なDNA分子増幅方法(μOCEAN:Micro Orbitual Chip for Easy Amplification of Nucleic acid)を考案し、迅速遺伝子検出に成功
・従来、熟練技量と2時間もの時間を要したDNA分子増幅および検出を、だれでも簡単に素早く実行できるマイクロ流路チップシステムを開発し、さらに企業と共同で簡便迅速なDNA検知システムを開発
・特定DNAの検出が容易になることで、感染症菌、薬剤耐性菌、腸内フローラ、家畜伝染病など、医療、ヘルスケア、農業と広範分野への応用が期待される

概要

大阪大学大学院工学研究科の齋藤真人助教らは遠心による熱対流速度制御方法を考案し、環状マイクロ流路チップ内での迅速なDNA分子増幅反応に成功しました。さらにコニカミノルタBIC Japanと共同で、簡便迅速なDNA検知システムを開発しました。

これまでDNA分子などの核酸増幅法は、試料調製に繁雑で正確な熟練技量と専用設備が必要で、また調製から解析に至るまで2時間程度を要していました。今回、齋藤助教のグループは、独自開発した遠心力を利用した熱対流速度制御法およびマイクロ流体チップシステムにより、わずか10分で結果が出る簡便かつ迅速なDNA分子増幅による遺伝子検知に成功しました。これにより、従来、研究室や分析センターなどの限られた環境で行われるにとどまっていたDNA分子増幅が、各種現場で容易に行えるようになり、医療診断や健康管理、食の安全、農畜産など広範な分野への貢献が期待されます。

図1 (a)遠心熱対流生成方法、(b)マイクロ流体チップ、(c)熱対流速度変化の様子、(d)乳酸菌DNA増幅

研究の背景

DNA分子増幅技術のひとつであるポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction、PCR)法※1は、ごく微量のDNAから特定塩基配列のDNA分子を増幅することができ、分子生物学や検査においてよく使われています。しかしながら、微量な反応液(25µL、涙1滴の半分程度)の調製に繁雑で正確な熟練技量と、またPCRのための専用設備を必要としていました。加えて、増幅反応から解析に至るまでの時間も2時間程度を要していました。そのため、PCR法は研究室や分析センターなどの限られた環境で行われるにとどまっていました。

一方、半導体などの微細加工技術を用いて、基板上に微小な流路や反応室、混合室を備え、さまざまな液体や気体を分析するチップデバイスとしてMicro-Total Analysis Systems(µ-TAS)が知られています。生化学反応場を微小空間におくことで、迅速な熱交換や分子拡散の抑制、試薬の省量化などのメリットがあります。

本研究の内容

齋藤助教のグループは、µ-TAS技術を利用し、PCRのもつ実用性の観点からの課題を包括的に解決できる技術の創出に取り組みました。まず温度差と重力によって引き起こされる流動現象としての熱対流があります。ここで重力を疑似的に遠心力(相対重力加速度)に置き換えることで熱対流を生成できないかと考えました。そこで環状のマイクロ流路と温調回転装置を準備し、マイクロ流路内で熱対流を生成することと回転数によって流速制御する方法を考案、実証することに成功しました。

さらにこの方法をPCRに適用することを検討しました。試薬がマイクロ流路内を周回するときに連続的に熱交換と増幅反応が行われます。これにより、DNA増幅にかかる反応時間を短縮化し、迅速な検出を行うことが可能になります。研究グループは、標準試料としてβ-ACT DNA(120pg)を指標に、わずか10分と迅速なDNA増幅が可能であることを実証しました[参考文献]。加えて、マイクロ流路の毛細管現象と遠心力移送を利用して必要量の試薬を取り込む機能を付け、技量レスにPCRを実行できるようにしました。この技術を基にコニカミノルタ株式会社と共同研究を行い、本手法を簡便迅速なDNA検出システムへと実装することに成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、オンサイトでの遺伝子検査が容易になることで、例えば、世界的に懸念されている薬剤耐性菌や、腸内フローラなどでよく知られている乳酸菌検出、あるいは食中毒菌などを素早く検出することが可能になり、今後、医療診断や健康管理、食の安全、農畜産など広範な分野への応用展開が期待されます。

用語説明

※1 Polymerase chain reaction(PCR)法
二本鎖DNAを約95℃に加熱し1本鎖に解離させ、次いで約60℃にするとプライマーDNAと耐熱性ポリメラーゼが結合し相補DNAが合成されます。この熱サイクルを1回繰り返すことで特定塩基配列のDNA分子が2倍に増え、さらにn回繰り返すことで2nに増幅することができます。生物学、医学、薬学、農学、検査・診断、犯罪捜査など幅広い分野で利用されています。1993年に、発明者のK. Mullisにノーベル化学賞が授与されています。

参考文献

Centrifugation controlled thermal convection and its application to rapid microfluidic PCR devices, M. Saito*, K. Takahashi, Y. Kiriyama, W. Villariza Espulgar, Hiroshi Aso, Tadanobu Sekiya, Yoshikazu Tanaka, Tsuneo Sawazumi, Satoshi Furui, Eiichi Tamiya, Anal. Chem., 2017, 89, 12797–12804

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 民谷研究室
http://dolphin.ap.eng.osaka-u.ac.jp/nanobio/

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