自然科学系

2019年4月18日

研究成果のポイント

・多くの植物は乾燥から身を守るために必要な表皮を一層だけもつことが知られているが、どうやって体の一番外側にだけ表皮を作るのか明らかになっていなかった。
・植物の発生過程で、表皮を作るための転写因子※1ATML1タンパク質の蓄積が、主に一番外側の将来表皮になる細胞に限定されることを発見。
・ATML1タンパク質の働く場である核への蓄積が、最外層と比べて内側の細胞では低く抑えられることを発見。
・植物細胞が位置を認識して分化※2するメカニズムの解明だけでなく、陸上植物が表皮を獲得した進化の過程の理解にもつながる成果。

概要

大阪大学大学院理学研究科元大学院生の飯田浩行(博士後期課程)、元大学院生の吉田彩香(博士前期課程)、髙田忍助教の研究グループは、植物の表皮を作るタンパク質の活性が胚の一番外側の細胞に限定されるしくみを明らかにしました(図1)。本研究の成果は、植物細胞が自分の位置に応じて遺伝子の活性を変える新しいメカニズムの発見であり、植物の形づくりの解明につながることが期待されます。

本研究成果は2019年2月13日(英国時間)に英国の発生学専門誌「Development」のオンライン速報版で公開されました。

図1 表皮を作るタンパク質ATML1の活性が最外層の細胞に限定される

研究の背景と成果

表皮は植物の表面を覆う一層の細胞層であり、水を通さない丈夫なクチクラ※3を持つことから、植物を乾燥や病害から保護する役割があります(図2)。表皮がはじめに作られるのは植物の赤ちゃんである「胚」の時期です。胚の一番外側に位置する細胞のみが表皮細胞へと分化することから、植物細胞は「外側」という位置を認識して自分の運命を決定すると考えられています(図2)。しかし、植物細胞が一番外側の位置を認識して表皮へと分化していくしくみは謎のままでした。

遺伝子の実体はDNAであることが分かっています。生物の持つ遺伝子の多くは、そのDNA配列がmRNA※4に転写されることで活性化されます。そのmRNAの情報をもとに合成(翻訳とも言います)されたタンパク質が細胞内で特定の役割を持ちます。胚の表面に表皮が作られることから、表皮を作る遺伝子は一番外側の細胞のみで活性を持つことが予想されます。モデル植物のシロイヌナズナでは、表皮を作る遺伝子としてATML1遺伝子が知られています。ATML1遺伝子は転写因子をコードしており、ATML1タンパク質はDNA が格納されている「細胞核」で表皮作りに必要な複数の遺伝子の転写を促進します(図1)。これまで、ATML1は一番外側の細胞で強く転写されるため、「ATML1がどの細胞で転写されるか」によって表皮を作る場所が決まると考えられていました。しかし、本研究でATML1遺伝子の転写をより詳細に解析した結果、ATML1は内側の細胞でも弱いながらも転写されることが明らかになりました(図3上段矢印)。内側の細胞でATML1タンパク質が作られて活性を持つと、内側の細胞も表皮に分化してしまうかもしれません。一番外側に一層の表皮を形成するためには、内側の細胞でATML1タンパク質の活性を抑えるメカニズムがあるはずです。ATML1タンパク質の活性調節について調べるために、本研究ではATML1タンパク質の局在(存在する場所)を可視化して観察しました。その結果、ATML1タンパク質は一番外側の細胞のみで蓄積し、内側の細胞ではほとんど検出されないことが分かりました(図3下段)。さらに、ATML1タンパク質が内側の細胞で作られたとしても、内側の細胞ではATML1タンパク質の核への蓄積が低く抑えられることも明らかになりました(図4矢じり)。ATML1タンパク質は転写因子なので、遺伝子の格納された核への蓄積が抑えられることで、内側の細胞では表皮作りに必要な遺伝子の転写を促進できないことが予想されます(図1)。ATML1タンパク質の量や核への蓄積を抑えることで、ATML1タンパク質の活性を一番外側の細胞に限定するのは、一層の表皮を作るために必要なしくみであると考えられます。また、ATML1遺伝子は細胞の位置に応じて活性が変化することから、外側の位置を認識できる「最外層センサー」である可能性があります。

図2 表皮は植物の最外装を覆っている。赤色で示した細胞は、将来表皮に分化する細胞。

図3 ATML1の転写される細胞とATML1タンパク質を可視化(緑色)

図4 ATML1タンパク質(緑色)は内側の細胞(矢じり)で核への蓄積が強く抑えられる

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

植物細胞は個体内に置かれた位置を認識して、決まった役割を持つ細胞へと分化する能力があることが知られています。本研究成果は、植物細胞が一番外側の位置を認識して表皮に分化するしくみの解明につながることが期待されます。また、最外層を認識して活性を変化させる遺伝子の発見は、「頂端」「基部」「内側」などの他の「位置センサー」の同定につながるかもしれません。

水中で生活していた陸上植物の祖先は、4~5億年前に陸上に進出したと言われています。陸上は水中に比べて乾燥しているので、植物は体の表面に表皮を作ることで乾燥から身を守る必要がありました。一方、表皮が多層になり厚くなってしまうと、光合成に必要な二酸化炭素を取り込みにくくなると予想できます。そのためか、多くの植物は表皮を一層だけ持つことが知られています。本研究成果は、外側の位置を認識した表皮形成メカニズムの解明だけでなく、陸上植物が表皮を獲得した進化の過程の理解にもつながると考えています。

研究者のコメント(髙田助教)

発生中の植物細胞はフレキシブルに細胞運命を変化させることができます。それぞれの細胞がその最終的な「位置」に応じてどの細胞タイプへと分化するかを決めるのが、植物の発生の特徴です。例えば、植物の表面に位置する細胞は表皮へと分化し、内側に位置する細胞は葉肉細胞や維管束など、別の役割を持った細胞へと分化します。ところが、植物細胞がどうやって自分の位置を認識しているのかはあまり理解されていません。本研究は、細胞の置かれた位置に応じて、ATML1タンパク質の核への蓄積が変化することを示したものです。植物細胞が位置を認識して分化するメカニズムの一端が解明できたと考えています。学業優秀で実験の上手な大学院生飯田さんと吉田さんの努力の結晶です。

特記事項

本研究成果は、2019年2月13日(英国時間)に英国の発生学専門誌「Development」のオンライン速報版で公開されました。

タイトル:“ATML1 activity is restricted to the outermost cells of the embryo through post-transcriptionalrepressions”
著者名:Hiroyuki Iida, Ayaka Yoshida and Shinobu Takada
DOI: 10.1242/dev.169300

なお、本研究は、文部科学省科学研究費のサポートを受けて行いました。

用語説明

※1 転写因子
遺伝子の転写(遺伝子のDNA配列を鋳型にしてmRNAが合成されること)を制御するタンパク質。転写因子はDNA配列に結合し、遺伝子の転写を促進または抑制する。

※2 分化
細胞が特徴を変化させ、特定の機能をもつ細胞に変わること。

※3 クチクラ
植物の地上部の表面を覆う保護膜。水を通さない性質を持ち、植物を乾燥から守る役割がある。

※4 mRNA
DNAから遺伝情報(タンパク質合成の設計図)を写し取ったもの。mRNAの配列情報をもとにタンパク質が合成される。

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 生物化学専攻 植物生長生理研究室
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/cell_physiol/sitepg/Kakimoto_Lab/homu.html

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