生命科学・医学系

2018年11月20日

研究成果のポイント

・神経ペプチドNPYはインフルエンザウイルスの感染に伴って肺の貪食細胞で大量に産生されることがわかった。
・NPYとその受容体Y1Rはインフルエンザの重症化に関わっていることを見出した。
・本成果は、インフルエンザの重症化の予防や重症インフルエンザの新しい治療法の開発につながることが期待される。

概要

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)ワクチン・アジュバント研究センター(CVAR)感染病態制御ワクチンプロジェクトの今井由美子(いまいゆみこ)プロジェクトリーダー(クロス・アポイントメント:大阪大学蛋白質研究所感染病態システム研究室特任教授(常勤))らの研究グループは、大阪大学蛋白質研究所細胞システム研究室岡田眞里子教授らとの共同研究で、通常交感神経終末から放出されることが知られている神経ペプチドNPYが、インフルエンザウイルス感染症では、肺の貪食細胞から大量に産生されることを見出しました。またNPYとその受容体Y1Rを貪食細胞で欠損させると、インフルエンザの重症化が抑えられることがわかりました。そのメカニズムとして、ウイルス感染によってNPY-Y1R軸が活性化されると、サイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3の誘導を介して、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することがわかりました。本成果は、インフルエンザの重症化の予防や重症インフルエンザの新しい治療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、英国の学術雑誌『Nature Microbiology』に11月20日午前1時(日本時間)にオンライン掲載されました。

研究の背景

インフルエンザは、毎年冬季に流行する弱毒型のウイルスであっても、高齢者あるいはがん、肥満、糖尿病、喘息などの基礎疾患を有するヒトでは、生命に危険が及ぶほどに重症化して、集中治療室(ICU)で救命治療を行うも、死に至ることがあります。しかしながらこれまでにインフルエンザが重症化するメカニズムや重症化を抑える有効な治療法は確立されていません。

神経系と免疫系が相互に連関していることは知られていましたが、神経ペプチドがインフルエンザウイルス感染症の病態にどのように関わっているかは十分解明されていませんでした。神経ペプチドNPYは肥満、糖尿病、喘息などの病態に関わっていることは知られています。またNPYの受容体阻害薬は抗肥満薬として開発が進められています。しかしながら、NPYとその受容体がインフルエンザの重症化にどのように関わっているかは不明でした。一方、免疫応答など生体の恒常性の維持に必須のサイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3は強毒型のH5N1インフルエンザウイルス感染症やエボラ出血熱などの病態に関わっていることは報告されていましたが、神経ペプチドとの関わりは不明でした。

本研究の内容

今回、今井プロジェクトリーダーらの研究グループは、重症インフルエンザウイルス感染症に罹患したNPY遺伝子が活性化するとGFP蛍光を発現するマウスを使って、インフルエンザウイルスの感染に伴って肺の貪食細胞から神経ペプチドNPYが大量に産生されることを見出しました(図1)。またNPYとその受容体を貪食細胞で欠損させたマウスはインフルエンザの重症化が抑えられ、感染後の生存率が改善することがわかりました(図2)。そのメカニズムとして、ウイルス感染によってNPYとその受容体Y1R軸が活性化されると、サイトカインのネガティブフィードバック因子であるSOCS3の誘導を介して、ウイルス増殖の亢進と肺組織の過剰炎症が誘導され、インフルエンザが重症化することがわかりました(図3)。従って、貪食細胞におけるNPY-Y1R-SOCS3経路は重症インフルエンザの新しい治療標的となる可能性が考えられました。また、NPYはインフルエンザの重症化のバイオマーカーとして有用であると思われ、これを指標にインフルエンザの重症化が予測される患者に対して重症化を阻止するような予防医療の確立に繋がる可能性が示唆されました。

図1

図2

図3

本研究成果の意義

NPYとその受容体軸は重症インフルエンザの新しい治療標的となる可能性が示唆され、またNPYはインフルエンザの重症化のバイオマーカーとして有用であると考えられ、これを指標に重症化が予測される患者に対する先制医療の開発につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国の学術雑誌『Nature Microbiology』に11月20日(火)午前1時(日本時間)にオンライン掲載されました。

論文タイトル:“Pulmonary phagocyte-derived NPY controls the pathology of severe influenza virus infection”

著者:Seiki Fujiwara, Midori Hoshizaki, Yu Ichida, Dennis Lex, Etsushi Kuroda, Ken J. Ishii, Shigeyuki Magi, Mariko Okada, Hiroyuki Takao, Masahiro Gando, Hirotaka Imai, Ryujiro Hara, Herbert Herzog, Akihiko Yoshimura, Hitoshi Okamura, Josef M. Penninger, Arthur S. Slutsky, Stefan Uhlig, Keiji Kuba, Yumiko Imai

掲載雑誌:Nature Microbiology(ネーチャーマイクロバイオロジー)

また、本研究は、日本学術振興会科学研究費助成KAKENHI 17H06179, 17K19693, 15H05978を受けて行われました。

参考URL

大阪大学 蛋白質研究所感染病態システム研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/laboratories/infectionsystems

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