生命科学・医学系

2018年3月20日

研究成果のポイント

・コレステロールは細胞にとって必須だが、細胞に取り込まれた後のコレステロールの輸送経路の全容は確立されていなかった。
・我々は新規のタンパク質複合体(Rab11-RELCH-OSBP複合体)を同定し、この複合体が細胞内に取り込まれたコレステロールをゴルジ体まで輸送することを解明した。
・コレステロールの新たな細胞内輸送経路の発見は、コレステロール代謝異常による様々な病気に対する新たな治療薬の開発につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の傍嶋智明特任研究員(常勤)、吉村信一郎講師、原田彰宏教授ら(細胞生物学)の研究グループは、細胞内コレステロール輸送の新たな経路を発見しました。

生体を構成する1つ1つの細胞は、外側と内側を隔てる脂質の膜に包まれており、その脂質の成分のひとつにコレステロールがあります。血液中のコレステロールが細胞に取り込まれた後、細胞の中をどのように運ばれて利用されるかについては未解明な部分がありました。

本研究では、膜の袋(小胞)の輸送※1を司るタンパク質Rab11※2と、脂質輸送タンパク質 OSBP※3が、新規タンパク質RELCH※4を介してコレステロールを運ぶことを発見しました(図1図2)。また、このRab11-RELCH-OSBP複合体が、細胞内に取り込まれたコレステロールを、リサイクリングエンドソーム※5とよばれる、コレステロールを多く含む細胞小器官※6を経由してゴルジ体に輸送することを解明しました。これは従来知られていた輸送経路とは異なる新しい経路です。

コレステロールの新たな輸送経路の発見は、脂質の細胞内輸送の全容解明の一端を担うものであり、コレステロール代謝異常に対する薬の開発につながることが期待されます。本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Cell Biology」に、3月7日(水)に電子版で公開され、4月5日(木)に出版される予定です。

図1 Rab11-RELCH-OSBP複合体がコレステロールを運ぶ経路の模式図

図2 Rab11をつけた赤いビーズとOSBPをつけた緑のビーズの溶液にRELCHを混ぜるとビーズがくっつく

研究の背景と内容

コレステロールは細胞膜や様々な細胞小器官の脂質二重膜を構成する成分の1つです。血液中のコレステロールは、細胞の受容体を介して細胞内に取り込まれた後、リソソームまで運ばれ、ゴルジ体を経由してから、脂質二重膜の構成成分として利用されたり、ホルモンの原料となったり、脂肪滴として細胞内に貯蓄されたりすると考えられています(図3)。しかし、コレステロールがリソソームからどのようにどのようにゴルジ体まで運ばれるかについては、その経路はまだ完全には解明されていませんでした。

一方、タンパク質Rab11は、リサイクリングエンドソームとよばれる細胞小器官に局在して、小胞輸送に働くことが知られていました。リサイクリングエンドソームがコレステロールを多く含むことは報告されていましたが、コレステロールの輸送に関与するのかについては不明でした。

今回、傍嶋特任研究員らは、Rab11の結合タンパク質を探索し、新たなタンパク質RELCHを同定しました。さらにRELCHの結合タンパク質として、コレステロールをゴルジ体に輸送する分子であるOSBPを同定し、Rab11、RELCH、OSBPがタンパク質複合体を形成していることを解明しました(図4)

また、Rab11、RELCH、OSBP のいずれかをなくした細胞では、ゴルジ体のコレステロール含量が減少することを観察しました。

これらの結果は、Rab11-RELCH-OSBPという3つの分子から成るタンパク質複合体が、コレステロールをリサイクリングエンドソームからゴルジ体に輸送することを示しています。

これまでも、細胞内のコレステロールの輸送経路として、いくつかの経路が発表されていましたが、本研究によって、コレステロールの細胞内輸送の機序に、以下の新たな知見が加えられました。

(1)Rab11-RELCH-OSBP 複合体がコレステロール輸送に機能すること、
(2)リサイクリングエンドソームがコレステロールのゴルジ体への輸送の中継役として働くこと、
(3)リサイクリングエンドソームとゴルジ体が直接に接触してコレステロールを運ぶ経路が存在すること。

図3 細胞内のコレステロールの輸送経路の模式図

図4 Rab11-RELCH-OSBP複合体の構造

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

コレステロールは、細胞膜や細胞小器官の脂質二重膜の構成成分であり、さらにホルモンの原料となったり、脂肪滴として貯蓄されるなどの多様な働きをもち、生体や細胞の環境を整えています。そのため、細胞内のコレステロールの動態を明らかにすることは、生命現象ならびに疾患のメカニズムを理解する上で非常に重要です。本研究によってコレステロールの新たな輸送経路ならびにそのメカニズムを明らかにしたことは、生命科学研究の発展に貢献すると同時に、コレステロール代謝異常による様々な病気に対する新たな治療薬の開発にもつながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年3月7日(水)に米国科学誌「The Journal of Cell Biology」に電子版で公開され、2018年4月5日(木)に出版される予定です。

タイトル:The Rab11-binding protein RELCH/KIAA1468 controls intracellular cholesterol distribution

著者名:Tomoaki Sobajima1,2, Shin-ichiro Yoshimura1,*, Tomomi Maeda1,2, Haruhiko Miyata3, Eiji Miyoshi2, and Akihiro Harada1,*(*責任著者)

1. 大阪大学 大学院医学系研究科 細胞生物学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 消化器疾患病態研究室
3. 大阪大学 微生物病研究所 遺伝子機能解析分野

なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金、公益財団法人三菱財団および武田科学振興財団の支援によって行われました。

研究者のコメント<原田彰宏教授>

本研究によって、リサイクリングエンドソームからゴルジ体へコレステロールが直接受け渡されることや、その過程に3種類の分子からなる複合体が大事なことが明らかになりました。この発見は、生命科学研究の発展に貢献すると同時に、動脈硬化や神経の病気など、コレステロール代謝異常による病気に対する新たな治療薬の開発にもつながることが期待されます。

用語説明

※1 小胞輸送
小胞とは、細胞小器官※6から形成される脂質膜でできた構造物であり、異なる細胞小器官の間の物質のやりとりに用いられることが知られている。ある細胞小器官から形成された小胞が、別の細胞小器官まで運ばれ、そこで融合して小胞内の物質を受け渡すという一連の過程のことを小胞輸送という。

※2 Rab11
小胞輸送に関わることが知られているRabタンパク質ファミリーのひとつ。リサイクリングエンドソーム※5とよばれる細胞小器官に局在することが知られている。

※3 OSBP
Oxysterol-binding proteinの略称。脂質輸送タンパク質のひとつ。コレステロールの非小胞性輸送(小胞を介さずにタンパク質によって物質のやりとりが行われること)に働くことが知られている。今回初めてOSBPがリサイクリングエンドソームからゴルジ体へのコレステロール輸送に働くことが明らかとなった。

※4 RELCH
Rab Eleven-binding protein containing LisH, Coiled-coil, and Heat repeatsの略称。今回新たに同定された Rab11 結合タンパク質。

※5 リサイクリングエンドソーム
細胞小器官のひとつで、Rab11はこの細胞小器官に局在することが知られている。従来まで細胞の内部に取り込まれた物質を細胞の外部に排出する経路にのみ働くと考えられたが、近年ではそれ以外の輸送経路への関与やシグナル伝達の場として働くことが報告されている。今回、このリサイクリングエンドソームからゴルジ体へのコレステロール輸送にRab11-RELCH-OSBP複合体が機能することを初めて明らかにした。

※6 細胞小器官
細胞の中に存在する脂質膜で包まれた構造物。多くの種類があり、脂質の構成や局在するタンパク質も違い、それぞれ異なる役割をもつ。小胞体、ゴルジ体、リソソーム、リサイクリングエンドソームなどがある。

参考URL

大阪大学大学院 医学系研究科 細胞生物学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/acb/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top