2014年4月23日

本研究成果のポイント

・80万気圧を超える高圧下で半導体化した金属元素リチウム(Li)が、120万気圧を超える圧力下で再び金属へ戻ること、また、それらの変化には結晶構造変化が伴うことを世界で初めて実験的に観測
・物質はその密度に応じて半導体にも金属にもなりうることを実験的に立証
・金属-半導体-金属転移の発見により、金属の物理的性質の理解をさらに深めることが期待される

リリース概要

大阪大学基礎工学研究科附属極限科学センター(旧:極限量子科学研究センター)の松岡岳洋特任助教(当時、現:岐阜大学工学部助教)と清水克哉教授は、財団法人高輝度光科学研究センターとの共同研究により、80万気圧を超える高圧下において半導体化した金属元素リチウム(Li)が、120万気圧を超える圧力下で再び金属へ戻ること、またそれらの変化には結晶構造変化が伴うことを、大型放射光施設SPring-8※1の高輝度放射光を用いた高圧実験を用いて、世界で初めて実験的に観測しました。また、再金属化したLiは金属としては電気伝導性が低い一方で、超伝導の可能性を示唆する転移を低温で起こすことも明らかにしました。

Liは最も基本的な金属元素であるため、金属一般の物理的性質を理解する上で重要な役割を果たしてきました。つまり、究極的に圧縮された物質は金属状態に行き着くと想像されていますが、今回の発見はそれが究極の姿ではなく、物質はその密度に応じて半導体にも金属にもなりうることを実験的に立証したものです。

金属-半導体-金属転移の発見により、金属の物理的性質の理解を更に深めることが期待されます。

研究の背景

Liは最も基本的(原子番号3)な金属元素であり、自由電子模型※2がよく当てはまるため、金属一般の物理的性質を理解する上での‘モデル物質’として重要な役割を果たしています。Liのもつ電子状態や結晶構造を幅広い密度と温度領域で明らかにすることは、金属についての理解を更に深める上で重要な課題です。これまでに、圧力下では電気抵抗率が急激に上昇することや、元素では2番目に高い温度で超伝導転移(摂氏-253度)を起こす他、80万気圧に於いては金属から半導体に転移するなど、自由電子模型から外れた多彩な物性を示すことが明らかにされてきました。究極に圧縮された物質は金属になると予想されているのと同様に、Liも更に高い圧力では半導体から金属に戻ると理論計算から予測されていましたが、実験的に立証はなされていませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究により、Liが圧力下で金属と半導体という性質の間を行き来する現象が実験的に明らかになりました。このことは物質がその密度に応じて、ある密度では金属に、別の密度では半導体へと変化する振る舞いが、金属一般に当てはまる現象である可能性を示しています。基本的な金属元素であるLiが圧力下で示す多彩な物性を手がかりに、金属一般についての我々の理解を更に深めることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、平成26年4月8日発行のアメリカ物理学会出版「Physical Review B」誌オンライン版に掲載されました。

発表論文

「Pressure-induced Re-entrant Metallic Phase of Lithium」T. Matsuoka, M. Sakata, Y. Nakamoto, K. Takahama, K. Ichimaru, K. Mukai, K. Ohta, N. Hirao, Y. Ohishi, and K. Shimizu.
URL: http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.89.144103
DOI: 10.1103/PhysRevB.89.144103

参考図

図1 ダイヤモンドアンビルセル※3
電極(electrodes)を試料(sample)対向する一組のダイヤの間に挟み込み、高圧力を加えながら電気抵抗とX線回折を同時に測定する。

20140423_1_fig3.png

20140423_1_fig4.png

図2 電気抵抗の圧力変化(左上)と温度変化(右上)
FCC等の記号は結晶構造を表し、点線はそれらの境界圧力。(下)Liの温度圧力相図。Tcは超伝導転移温度。80万気圧(GPa)以下では金属(青色)で低温領域に超伝導相(緑色)がある。80から120万気圧までは半導体(黄色)でそれ以上の圧力下では再金属化して金属(青色)になる。再金属相にも超伝導相(もしくは低温相)がある可能性があり、その境界線を赤色線で示している。

用語解説

※1 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す独立行政法人理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来しています。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

※2自由電子模型
金属を構成する原子の価電子が伝導電子(自由電子)として、金属の中を自由に動き回ると仮定するモデル。この自由電子模型により一般の多くの金属の物理的性質を説明することが出来る。

※3ダイヤモンドアンビルセル
宝石用ダイヤモンドを用いた小型の高圧装置。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられます。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生します。ダイヤモンドの先端のサイズを小さくすれば、100万気圧を超える圧力発生が可能ですが、その分、サイズの小さい試料が必要となるため、様々な測定が困難となってきます。このような微小試料に対して、SPring-8のような高輝度放射光の利用は必要不可欠だと考えられます。本研究は高圧実験特有の技術的困難度が高く、これらを克服するためにSPring-8の長期利用研究課題制度を活用しました。

参考URL

掲載論文(PHYSICAL REVIEW B のウェブサイトにリンク)
http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevB.89.144103

大阪大学基礎工学研究科附属極限科学センター(旧:極限量子科学研究センター)超高圧研究部門
http://www.hpr.cqst.osaka-u.ac.jp/

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