免疫細胞の中枢神経系への侵入口と仕組みを世界ではじめて解明

免疫細胞の中枢神経系への侵入口と仕組みを世界ではじめて解明

脳や脊髄系の病気の新たな予防、治療へ

2012-1-30

<リリースの概要>

本学 大学院生命機能研究科の 村上 正晃 准教授と 平野 俊夫 総長らは、JST 課題達成型基礎研究の一環として、末梢神経系が活性化することで、脳や脊髄(中枢神経系)に免疫細胞の入り口となるゲートがつくられ、そのゲートを通過して病原性のある免疫細胞が血管から中枢神経系に侵入し、病気が発症することを分子レベルで明らかにしました。

これまで中枢神経系の血管は、免疫系の細胞をはじめ、ウイルスや大きなたんぱく質を脳や脊髄に通過させない、血液脳関門を形成すると考えられてきました。しかし、中枢神経系にもウイルスが感染することや、さまざまながん、難病などが発症することが知られており、血液脳関門にも免疫細胞などの入り口となるゲートがあると予想されていました。しかしこのゲートがどこにあるのか、どのような過程やメカニズムで機能するのかは全く不明でした。

本研究グループは、中枢神経系の難病である多発性硬化症のモデルマウスを用いて、免疫細胞の中枢神経系へのゲートはある特定の部位に形成されること、またその形成が末梢神経系の活性化によるものであることを明らかにしました。 本研究成果は、神経系と免疫系の関わりを分子レベルで明らかにしたもので、中枢神経系の難病やがんなどに対する予防法や治療法の開発に新たな可能性を与えます。また、ストレスなどの精神状態とさまざまな病気との因果関係の解明にもつながることが期待されます。

本研究は、本学 大学院医学系研究科の 大平 充宣 教授、東京大学 医科学研究所の 岩倉 洋一郎 教授らの協力を得て行いました。

本研究成果は、2012年2月2日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Cell」のオンライン速報版で公開されました。

注1)神経系

脊椎動物の神経系は脳や脊髄からなる中枢神経系と、体性神経系および自律神経系からなる末梢神経系に分かれる。中枢神経系は神経細胞が集まった塊であるのに対し、末梢神経系は神経節と神経繊維からなり、体の各部と中枢神経系の間で神経刺激を伝達する役割を果たす。体の感覚や運動を制御する体性神経系には感覚神経と運動神経があり、内臓や血管などを自動的に制御する自律神経系には交感神経と副交感神経がある。

注2)    血液脳関門

中枢神経系の血管に備わっている、血液と中枢神経系の組織液との間で物質交換を制限する機構で、中枢神経系の血管を構成する内皮細胞が非常に強固に結合しあって血液中の大きなたんぱく質や免疫細胞などを中枢神経系の中に通過させないように機能している。

注3)    難病

現在治療法が無い病気のことで、中枢神経系の難病には多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などがある。

注4)    多発性硬化症

中枢神経系の神経細胞には軸索と呼ばれる突起があるが、軸索を包んでいるミエリンという絶縁性のリン脂質が炎症により壊され(脱髄という)、他の神経細胞との間で情報伝達がスムーズに行えなくなって麻痺やしびれをきたす疾患。脱髄が生じる詳しいメカニズムはまだ分っていないが、免疫系の異常の可能性が高いと言われている。

<参考URL>

用語説明

神経系

脊椎動物の神経系は脳や脊髄からなる中枢神経系と、体性神経系および自律神経系からなる末梢神経系に分かれる。中枢神経系は神経細胞が集まった塊であるのに対し、末梢神経系は神経節と神経繊維からなり、体の各部と中枢神経系の間で神経刺激を伝達する役割を果たす。体の感覚や運動を制御する体性神経系には感覚神経と運動神経があり、内臓や血管などを自動的に制御する自律神経系には交感神経と副交感神経がある。

血液脳関門

中枢神経系の血管に備わっている、血液と中枢神経系の組織液との間で物質交換を制限する機構で、中枢神経系の血管を構成する内皮細胞が非常に強固に結合しあって血液中の大きなたんぱく質や免疫細胞などを中枢神経系の中に通過させないように機能している。

難病

現在治療法が無い病気のことで、中枢神経系の難病には多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などがある。

多発性硬化症

中枢神経系の神経細胞には軸索と呼ばれる突起があるが、軸索を包んでいるミエリンという絶縁性のリン脂質が炎症により壊され(脱髄という)、他の神経細胞との間で情報伝達がスムーズに行えなくなって麻痺やしびれをきたす疾患。脱髄が生じる詳しいメカニズムはまだ分っていないが、免疫系の異常の可能性が高いと言われている。