究みのStoryZ

月の石が語る地球の過去

独創的な装置開発で、宇宙のロマンに近づく

理学研究科・教授・寺田健太郎

月の存在は、地球の成り立ちや生命の進化の鍵を握る。寺田健太郎教授は、最先端の機器を駆使して太陽系誕生の謎の解明に迫る。

月の石が語る地球の過去

月の砂を解析し、月と地球の不思議に迫る

地球の4分の1の大きさを持つ月は、地球にさまざまな影響を及ぼしている。「1日が24時間なのは月の影響だし、地軸の傾きも、月があるおかげでほとんどブレない。月は地球の環境維持に貢献しています」
月には、月の歴史はもちろん、地球の過去を知る手がかりも残されている。「月では約38-40億年前に大きなクレーターをたくさん作るような、天体衝突が起こったことが分かっています。だとすると、広い宇宙の中では月と地球は一心同体なので、同時期、地球にも同じような出来事があっただろうと考えられます。地球の誕生は約46億年前ですが、40億年より古い岩石はありません」。0.1mm程度の鉱物と呼ばれる岩石の破片だと44億年前のものが残っているが、岩石と言える大きさでは発見されていない。「その理由は、月にクレーターができたのと同じ時期に地球にも大量の隕石などが降り注ぎ、それ以前の地表を壊してしまったからだと考えられます」
寺田教授の研究グループは、アポロ15号が1971年に持ち帰った月の砂を、独自の方法で成分を解析している。「月の砂の中で見つかるガラス玉の成分を調べると、月にいつ火山活動があったか、クレーターを作るような隕石の衝突がいつ起こったかなど、月—地球システムの歴史が分かります」。

非破壊による元素分析法で研究を進めたい

「一般に岩石や砂を分析する場合、削ったり、焼いたり、酸で溶かしたりするのが普通です。先の月の砂の分析も、ほんの少しだけ削って分析する方法でした。しかし、今後計画されている火星や小惑星のサンプルリターンで採取される試料は、極少量で非常に貴重なので、極力ダメージが小さい分析方法を開発する必要があります」
そこで寺田教授が取り組んでいるのが、物質透過能力の高い素粒子ミューオンを用いた元素分析法。㎝サイズもある物質でも、非破壊で内部の元素の濃度や分布を知る能力を持っている。寺田教授は、大阪大学核物理研究センターが開発したミューオンビーム生成装置MuSICを利用し、隕石の非破壊定量分析に成功した。「世界初のオモロイ物を作ろう、という阪大のものづくり文化が活きたと思います」。18年夏に小惑星に到達する「はやぶさ2」が、20年に持ち帰る試料の分析にも威力を発揮すると期待されている。「持ち帰ったサンプルから、地球以外に有機物はあるかを検証したいと考えています。ミューオンを用いる方法なら、宇宙の状態のままで岩石の中味を見ることもできる。生命のタネとなる有機物を発見できたら最高ですね」

人との出会いから研究が発展する

「独創的な研究には人との出会いが大切」と寺田教授は言う。「新しい元素分析法にしても、たまたまある日、阪大でミューオンを研究している素粒子物理の研究者と話したことがきっかけ。異なる分野の人との出会いが“化学反応”となって、研究が予期せぬ方向に発展することは、よくあります」
プラズマ物理の研究者との出会いから、月周回人工衛星「かぐや」の観測データを分析したこともある。そのデータを元に、地球から高エネルギーの酸素イオンが漏れて月に到達していることを突き止めた。「月、地球、太陽が一直線になった時、月の上空100kmの酸素イオン濃度が増えるという興味深い現象を見つけました」。太陽風で地球の大気(酸素)がはぎ取られ、真後ろにある月まで地球風として飛んでいく(Terada et al Nature Astronomy 2017)。この観測結果に、昨年は国内外から取材が殺到した。



寺田教授にとって研究とは

『感動』です。なぜだろう、もっと知りたいというワクワク感が研究の原動力になっています。しかし、実際に研究をすすめていくには運も、人との出会いも重要という。恩師が残してくれた言葉は「ひらめけ。そしてトコトン考えろ」。『セレンディピティ(serendipity)※』を大切にして、人がやらないことにもっと挑戦していきたいですね。『ひらめき』と『ものづくり』。阪大ならではの研究スタイルを次世代に引き継ぐ使命があると考えています。

※セレンディピティ(serendipity)…ふとした偶然からチャンスを掴み取る能力

●寺田健太郎(てらだ けんたろう)
1989年大阪大学理学部卒業、94年理学系研究科物理学専攻修了、博士(理学)。94年広島大学理学部助手、2006年同大学理学研究科准教授、10年同大学理学研究科教授を経て、12年より現職。

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(2018年1月取材)