自然科学系

2020年8月31日

研究成果のポイント

・世界最大級の2ペタワット※1のパワー(瞬間的出力が世界中で消費される電気パワーの約700倍)を誇るLFEXレーザー※2を用いて、地上最強級の2キロテスラ※3の超強磁場を作ることに成功しました。
・スーパーコンピューターを使った数値シミュレーションが唯一の研究手段であった宇宙現象の相対論的磁気リコネクション※4を、パワーレーザーを使って実験室内で起こすことに成功しました。
・相対論的磁気リコネクションによって、電子と陽子が高エネルギー化することを観測し、例えば、ブラックホール周囲から高エネルギーのX線が突発的に放射される高エネルギー天体現象の原因が、この相対論的リコネクションである可能性が示唆されます。

概要

大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授、東京大学大学院理学系研究科King Fai Farley Law 特任研究員(当時博士後期課程3年)、安部勇輝特任研究員、及び大阪大学大学院理学研究科と工学研究科所属の大学院生、早稲田大学、核融合科学研究所、露国モスクワ工学物理工学研究所国立原子力大学、露国レベデフ物理学研究所、仏国ボルドー大学、独国ドレスデン工科大学、米国カルフォルニア大学サンディエゴ校所属の研究者らで構成された国際共同研究チームは、パワーレーザーを使って超強磁場を作り、相対論的磁気リコネクションという前人未踏のプラズマ現象を実験室内で起こすことに成功しました。相対論的磁気リコネクションの結果、電子と陽子が高エネルギー化していることを観測し、一例として相対論的磁気リコネクションが、ブラックホールの周囲からの突発的に高エネルギーX線が放射される現象に関与している可能性を示唆しました。

世界最高レベルの性能を有するLFEXレーザー(図1)とマイクロコイルを使って、ネオジム磁石の2000倍に相当する2キロテスラ以上の超強磁場を生成する技術を活用し、本成果が得られました。これまで数値シミュレーションが相対論的磁気リコネクションを研究する唯一の手段でしたが、レーザーを使うことで天文学のモデルを高度に検証できることを示しました。この成果は天文学に留まらず、全く新しいレーザー加速器の発明への波及も期待できます。

本研究成果は、米国物理学会(American Physical Society)が刊行する物理学専門誌「フィジカル・レビューE誌(Physical Review E)」にて近日中に掲載されます。

図1 大阪大学レーザー科学研究所にあるペタワットレーザーLFEX。2ペタワットと世界最大級のパワーを誇る。

研究の背景

パワーレーザーを用いると、高温・高密度のプラズマ※5を比較的容易に作りだすことが可能です。このプラズマの温度、密度、圧力、速度等を持つプラズマは宇宙にも存在しています。両プラズマの類似性から着想を得て、宇宙でのプラズマ現象やプラズマ特性をパワーレーザーで実験室から調べるレーザー宇宙物理学※6が提唱され、現在ではレーザープラズマ科学の一分野として確固たる地位を確立するほどに発展しました。本研究で対象とした、相対論的磁気リコネクションは、地球から遙か遠くで起こっている現象であるため直接観測は不可能で、数値シミュレーションが唯一の研究手段でした。我々は、パワーレーザーを用いた超強磁場発生法を用いて、相対論的磁気リコネクションを実験室内で起こすことに成功しました。

研究の内容

磁場をわかりやすく表現する方法として、たとえば磁石の周りをたくさんの方位磁石を置いて、それぞれの指す方向を線で結ぶ「磁力線」として、磁場を考えることができます。磁力線は磁束の保存則により途中で切れることはありませんが、プラズマ中では別の磁力線とくっ付いてから切れる、つまり繋ぎ変わることがあります。これが磁気リコネクションと呼ばれる現象です。磁気リコネクションは磁場の形を変えるだけでなく、その過程で磁場のエネルギーの一部がプラズマの熱や運動エネルギーに変換されます。この現象によって、太陽コロナ(太陽表面にある希薄で高温なプラズマ)の加熱や太陽表面からのプラズマの吹き出しである"フレア"が引き起こされることも知られています。太陽表面での磁気リコネクションは古典的磁気リコネクションに分類され、磁場が強くなるにしたがい、磁気リコネクションにおいて相対論効果が重要になってきます。これを相対論的磁気リコネクションと呼びます。相対論とは物質が光速に近い速度で動くと重要になる物理体系で、アインシュタインの重要な業績の一つです。

相対論的磁気リコネクションは、ブラックホール周囲からの高エネルギーのX線が突発的に放射される現象との関連が示唆されています。降着円盤のコロナプラズマ中で相対論的磁気リコネクションが起こり、それに伴って電子が超高温に加熱されることが高エネルギーのX線の源であるとするモデルが提唱されています。

相対論的磁気リコネクションを起こすためには、非常に強い磁場が必要です。制御された形で地上にて強い磁場を作り出す方法は限られており、相対論的磁気リコネクションを地上で再現した例は、これまで報告されていませんでした。大阪大学レーザー科学研究所では、パワーレーザーを用いてキロテスラを越える磁場の発生に取り組んでおり、今回、世界最大級のパワーを誇るLFEXレーザーとマイクロコイル(図2)を使うことで、2キロテスラを越える磁場の生成に成功し、この強磁場を使い地上で初めて相対論的磁気リコネクションを起こすことに成功しました(図3)。また、相対論的磁気リコネクションに伴って、プラズマを構成する電子と陽子が高温に加熱されることも観測され、ブラックホール周囲からの高エネルギーX線の突発的放射の謎の解明へと貢献することができました。

図2 マイクロコイルをLFEXレーザーで照射し、マイクロコイル内部の磁気リコネクションで加速された粒子束を、様々な計測手法でエネルギー分布や空間分布を計測しました。実験結果の一つとして、マイクロコイルの両側から、空間分布が対称になっている陽子が見られます。

図3 マイクロコイルを照射した後、内部で生成されたそれぞれ違う向きの磁場(左)の分布と、磁気リコネクションが見られた平面で描かれた磁力線(右)を示しています。磁気リコネクションの最中(上)とその後(下)では、磁力線の形が大きく変わり、粒子のエネルギーに変換された磁場のエネルギーが大きく減少し、磁場の強さも低くなっています。実験での最大時では、2100テスラの磁場が実測されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

宇宙には地上では起こせないような激烈な現象があまた起こっており、物理法則の正確さが試される天然の極限実験室です。しかしながら、これらの現象の多くは地球から遙かに離れた場所で起こっており、その現象を間近で直接観測することは不可能でした。パワーレーザーを用いた宇宙物理実験は、今まで遠くから眺めるしかなかった宇宙現象を、目の前で作り出すという夢と希望に溢れた研究です。また、相対論的磁気リコネクションは、新しいレーザー粒子加速機構としての応用も期待されます。

特記事項

タイトル:"Relativistic magnetic reconnection in laser laboratory for testing an emission mechanism of hard-state black hole system"
(日本語訳「レーザー実験室内での相対論的リコネクションを用いたハードステートブラックホールからの放射機構の検証」)
著者名:LAW King Fai Farley1%、 2、 安部勇輝1、MORACE Alessio1、 有川安信1、 坂田匠平1#、 3、 李昇 浩1#、松尾一輝1#、4、 森田大樹 1#、 落合悠悟1*、LIU Chang1%、 余語覚文1、岡本和輝1$、 GOLOVIN Daniel1!、 EHRET Michael5、6、 尾崎哲7、 中井光男1、千德靖彦1、 SANTOS Jorge Joao6、 d’HUMIERES Emanuel6、 KORNEEV Philipp8、9、 藤岡慎介1
所属:
1 大阪大学レーザー科学研究所、日本
%当時 大阪大学 大学院理学研究科 国際物理特別コース 博士後期課程
#当時 大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 博士後期課程
*当時 大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 博士前期課程
$当時 大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 博士前期課程
!当時 大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 博士後期課程
2 東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、日本
3 早稲田大学 理工学術院
4 カルフォルニア大学サンディエゴ校 エネルギー研究センター、米国
5 ドレスデン工科大学、独国
6 ボルドー大学 高強度レーザー 応用研究センター、フランス
7 自然科学研究開発機構 核融合科学研究所、日本
8 モスクワ工学物理学研究所、国立原子力大学、露国
9 レベデフ物理学研究所、露国

本研究は、大阪大学レーザー科学研究所の共同利用・共同研究事業、自然科学研究機構核融合科学研究所との双方向型共同研究及びレーザー連携、及び大阪大学レーザー科学研究所の共同利用・共同研究拠点事業の下で実施されました。本研究の一部は、科学研究費補助金(15KK0163、15K21767、16K13918、16H02245)、及び日本学術振興会特別研究員制度(18J11119、18J11354))、松尾学術振興財団他の支援にて実施されました。

用語説明

※1 ペタワット
1秒間で消費されるエネルギー(単位ジュール)をワットという。ペタワットは一千兆ワットである。世界中で消費されている電気は、約3テラワット(3兆ワット)であり、LFEXレーザーは、極めて瞬間的に、その約700倍のパワーを発生させることで、高い温度と圧力を実現する。

※2 LFEX(エルフェックス)レーザー
短いパルスで高出力が得られるレーザー装置、一瞬(1兆分の1秒=1ピコ秒)ではあるが、世界中の総発電量をはるかに上回る超高強度出力(2千兆ワット=2ペタワット)が得られる。高出力レーザー装置LFEXは日本の光技術の粋を結集した最先端装置であり、国内企業の技術競争力の向上に大きく寄与するとともに、国際的に高く評価されている。

※3 テスラ
磁束密度(~磁石の強さ)を示す単位。赤道における地磁気は31マイクロ・テスラ(1マイクロ・テスラは1テスラの100万分の1)。永久磁石は最大で1テスラ程度。

※4 磁気リコネクション
磁場をわかりやすく表現する方法として、たとえば磁石の周りをたくさんの方位磁石を置いて、それぞれの指す方向を線で結ぶ「磁力線」として、磁場を考えることができる。磁力線は磁束の保存則により途中で切れることはないが、プラズマ中では別の磁力線とくっ付いてから切れる、つまり繋ぎ変わることがある。これを磁気リコネクションと呼ぶ。

※5 プラズマ
固体、液体、気体に続く第4の物質状態(相)で電離気体とも呼ばれる。物質を構成する原子の一部または全部がイオンと電子に分離した状態。

※6 レーザー宇宙物理学
レーザーを用いて、宇宙プラズマと同等の特性を有するプラズマを生成することで、実験室での実験・計測を通じて、宇宙プラズマの理解を深める新しい学問領域。大阪大学レーザー科学研究所の高部名誉教授らが提唱した。2020年には、レーザー宇宙物理学、特に無衝突衝撃波の実験的研究、の発展への貢献に対して、高部名誉教授、坂和准教授、と海外の共同研究者らがJohn Dawson Award for Excellence in Plasma Physics Researchを受賞した。

研究者のコメント

King Fai Farley Law 特任研究員

レーザープラズマの多くの物理パラメーターは天体プラズマの物理パラメーターと非常に良く似ています。引き続き、様々なプラズマ現象を実験室内で再現できるよう、研究を進めていきます。

参考URL

レーザー科学研究所 超高強度場グループHP
http://lf-lab.net

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