自然科学系

2018年1月11日

研究成果のポイント

・大阪大学発案である高強度レーザーで駆動した大電流をコイルに流す手法で、地上最大級であるキロ・テスラの超強磁場を発生し、レーザーで加速した相対論的電子ビーム(光速の電子群)の高輝度を保ちつつ長距離を誘導することに世界で初めて成功。
・従来、高強度レーザーで加速した光速の電子ビームの発散を抑制し高輝度化するのは困難とされていた。
・実現した高輝度電子ビーム誘導法を利用することで、実験室内での星の内部状態の再現や、星の内部で起こっている核融合反応を効率的に起こすことができると期待。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の藤岡慎介教授らの研究グループと、ボルドー大学(フランス)、マドリッド工科大学(スペイン)、エコールポリテクニーク(フランス)、オックスフォード大学(イギリス)、ヨーク大学(イギリス)、ダルシュタッド工科大学(ドイツ)との国際共同研究チームは、ネオジム磁石※1の約600倍の強さを有する600テスラ※2の磁場を外部から物質に加えることで、世界で初めて、物体中を光速で流れる電子ビームを高輝度のまま長距離にわたり誘導することに成功しました。実現した高輝度電子ビームを用い、高密度物質の核融合点火温度への加熱や、レーザーによる粒子加速の高効率化が期待されます。

図1 キロ・テスラ磁場を用いた相対論的電子ビームの集束の模式図。電子が磁力線に沿って動く性質を利用し、大きく発散する電子ビームを、高密度燃料に誘導する。

研究成果の内容

高強度レーザーをプラズマに照射すると、光速とほぼ等しい速度にまで電子が加速されます。この電子群は「相対論的電子ビーム」と呼ばれています。相対論的電子ビームの応用の一つとして、高密度の物質を瞬間的に加熱する「高速加熱」があります。高速加熱を用いることで、星の内部に匹敵する高温・高密度状態を実験室内で作り出し、宇宙に関わる物理現象を実験的に研究する「実験室宇宙物理学」や、「レーザー核融合※3高速点火」を実現できます。

しかしながら、高強度レーザーによって加速された相対論的電子ビームは、大きな発散角(典型的には全角で100度)を持っており、長距離伝播させると、相対論的電子ビームの輝度は急激に低下するという致命的な欠点を抱えています。物質を局所的に効率良く加熱するためには、相対論的電子ビームの発散を抑える必要があります。

1MeV(メガ電子ボルト※4)という高エネルギーの電子を数ミクロンの空間に閉じ込めるためには、キロ・テスラという非常に強い磁場が必要です。本国際共同研究チームは、高強度レーザーで大電流を駆動しコイルに流すことで、600テスラに達する強磁場を発生させました。この強磁場下において、相対論的電子ビームを加速させ、50ミクロンという当該分野では比較的長距離間を発散・減衰せずに伝播出来ることを実証しました。磁場を印加していない場合と比べて、約5倍の強度を達成しました。

本研究成果により、高エネルギー密度科学※5、実験室宇宙物理学※6、レーザー核融合への応用研究が、今後益々活発になるものと期待されます。

なお、本研究成果は、スプリンガー・ネイチャー社が発行するオープンアクセスジャーナル「Nature Communications」誌に1月9日午後7時(日本時間)に掲載・報道解禁されました。

研究の背景

高強度レーザーとプラズマの相互作用によって、光速とほぼ等しい速度を有する「相対論的電子」が効率的に加速されることは1990年代から知られ、研究が行われてきました。この相対論的電子のビームを使い、物質を数千万度にまで加熱することが出来れば、人類の挑戦の一つである制御核融合の点火を起こすことが出来ます(参考:日本物理学会 物理70の不思議「核融合エネルギー発電は実用化するか?」)。核融合プラズマのように、高温度かつ高密度なプラズマは高エネルギー密度プラズマと呼ばれ、その特性は星の内部の特性と極めて近く、実験室で宇宙及び天体と関連する物理現象を研究する実験室宇宙物理や実験室天文学研究でも利用できます。

相対論的電子ビームを用いた高速加熱は、大阪大学を中心としたグループによる2001年のコーン・シェル・ターゲット※7の発明 [R. Kodama et al., Nature, Vol. 412, pp. 798 - 802 (2001).]により一気に現実的になり、世界各国で研究が繰り広げられました。研究が進む中で、レーザーで加速された相対論的電子ビームは期待よりもかなり大きな発散角を持っていることが次第に明らかになり、高速加熱で核融合点火を実現するには、相対論的電子ビームの発散角を抑制することが必須であると認識されました。

質量が軽くて電荷を持つ電子は磁力線に補足されやすい特性を持っています。この特性を利用し、相対論的電子ビームの発生点から核融合燃料までの間に磁力線をまっすぐ張り、その磁力線に沿って相対論的電子ビームを流すというアイディアが生まれましたが、光速に近い高エネルギーの電子を磁力線で誘導するためには、キロ・テスラという普通の磁石では到底発生できない強磁場が必要であり、その実証には至っていませんでした。

大阪大学レーザー科学研究所の藤岡教授らの研究グループは、2013年に国内最大のレーザー装置である激光XII号レーザーを、キャパシター・コイル・ターゲット※8と呼ばれる磁場発生装置に照射することで、キロ・テスラの磁場を発生させることに成功しました [S. Fujioka et al., Scientific Reports, Vol. 3 p. 1170 (2013).]。今回は、この強磁場発生法を仏国エコールポリテクニークのLULI2000レーザー施設に導入し、実験室内で600テスラの磁場を発生させ、相対論的電子ビームの誘導に成功しました。

なお、大阪大学の大型レーザー施設で本手法を利用して行ったレーザー核融合高速点火研究の成果は現在投稿中であり、掲載決定次第改めて発表予定です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

核融合は究極のエネルギー源の一つとして、世界中で活発に研究が行われています。本研究成果により、磁場とレーザーを組み合わせた新しい核融合方式の発展が期待されます。また、宇宙プラズマにおいても、磁場とプラズマの相互作用が重要であり、本研究で開発された実験手法及びシミュレーションを用いることによって、宇宙プラズマの素過程の研究にも貢献できると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年1月9日午後7時(日本時間)にSpringer Nature社が発行する「Nature Communications」誌に掲載・報道解禁されました。

タイトル:"Guiding of relativistic electron beams in dense matter by laser-driven magnetostatic fields"
(「レーザー生成静磁場を用いた高密度物質中での相対論的電子ビームの誘導」)

著者名:M.Bailly-Grandvaux1, J.J.Santos1, C.Bellei1, P.Forestier-Colleoni1, 藤岡慎介(大阪大学レーザー科学研究所教授)2, L.Giuffrida1, J.J.Honrubia3, D.Batani1, R.Bouillaud1, M.Chevrot4, J.E.Cross5, R.Crowston6, S.Dorard4, J.-L.Dubois1, M.Ehret1,7, G.Gregori5, S.Hulin1, 小島完興(当時 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター・理学研究科博士後期課程、現京都大学化学研究所)2, E.Loyez4, J.-R.Marques4, MORACE Alessio(大阪大学レーザー科学研究所助教)2 , Ph.Nicolai1, M.Roth7, 坂田匠平(大阪大学レーザー科学研究所・理学研究科博士後期課程)2, G.Schaumann7, F.Serres4, J.Servel1, V.T.Tikhonchuk1, N.Woolsey6, ZHANG Zhe (当時 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター特任研究員、現中国科学院物理研究所・准教授)2

所属:
1 ボルドー大学 CELIA研究所、フランス
2 大阪大学 レーザー科学研究所、日本
3 マドリッド工科大学 航空宇宙工学、スペイン
4 エコールポリテクニーク LULI研究所、フランス
5 オックスフォード大学 物理学部、イギリス
6 ヨーク大学 物理学部、イギリス
7 ダルムシュタット工科大学 原子物理学研究所、ドイツ

国際共同研究の実施に際しては、大阪大学の国際共同研究促進プログラム等の助成を受けました。本研究の一部は、科学研究費補助金(24684044、16H02245)及び日本学術振興会特別研究員制度(14J06592)の支援にて実施されました。

用語説明

※1 ネオジム磁石
永久磁石の中では最も強力であり、ハードディスクドライブ、電気自動車、ハイブリッドカーなど身近に利用されている。強力なものは1テスラ程度の強さを有する。

※2 テスラ
磁場の強さの絶対値を示す単位。赤道における地磁気は31マイクロ・テスラ(1マイクロ・テスラは1テスラの100万分の1)。

※3 レーザー核融合
高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮すると共に、高温度に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシア等で研究が行われている。

※4 電子ボルト
粒子等のエネルギーを示す単位。1電子ボルトは、1ボルトの電位差で抵抗なく加速された電子が得るエネルギーに等しい。約1.602 x 10-19 ジュール。1メガ電子ボルトは1電子ボルトの100万倍。

※5 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成し、その内部状態の観測や挙動及びその内部で起こる反応を研究する科学分野。生産・医学・生物学応用を目指して、プラズマから放出されるX線及び粒子の高エネルギー化及び効率化を目指した研究も行われるなど、学際的な研究領域である。レーザー核融合や実験室宇宙物理も、高エネルギー密度科学に含まれる。

※6 実験室宇宙物理学
高出力レーザーを用いることで、高温・高密度プラズマを生成し、宇宙における原子過程、原子核反応、粒子加速、流体運動、各種乱流現象等を実験室内で再現し、調べる研究分野。

※7 コーン・シェル・ターゲット
核融合燃料を封入したシェル(球殻)に、コーン(円錐)を取り付けたターゲット(レーザー標的)。高密度プラズマの効率的な加熱に用いられる標準的なターゲットである。高密度核融合燃料はコーンの先端に形成され、コーンの壁がその内側にプラズマが入り込むのを防ぐため、高強度レーザーをコーンの内側から核融合燃料の近傍に照射することができる。コーン先端と高密度燃料の間のわずか50-100ミクロンの間に、相対論的電子ビームの輝度が急激に低下することが課題であった。

※8 キャパシター・コイル・ターゲット
高強度レーザーを用いて強磁場を発生させるためのレーザー標的(ターゲット)。ループに巻いたワイヤ(コイル)で二枚の金属板を繋いだものである。片方の金属板に高強度レーザーを照射することで放出される非熱的電子が、金属板間に電位差を生じる。金属板間の電位差によって、コイルに大電流が駆動され、コイル付近に強磁場が発生する。

参考URL

大阪大学レーザー科学研究所 超高強度場科学グループ
http://lf-lab.net/

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