自然科学系

2017年5月12日

本研究成果のポイント

・磁場とレーザーの組み合わせによって強磁場を発生させ高密度プラズマを生成、その挙動の計測に成功したことで高エネルギー密度科学※1及びレーザー核融合※2の新領域を開拓
・従来の磁石では100テスラ※3以上の強磁場を得ることが困難だったのをレーザーで解決
・レーザー核融合の核融合点火実証への貢献、従来の磁石を越える強磁場を用いた宇宙プラズマの構造形成やX線発生の仕組み解明に期待

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)の藤岡教授らの研究チーム(共同研究機関:大阪大学、仏国ボルドー大学、九州大学、台湾国立中央大学)は、当研究所の激光XII号レーザー※4で生成した高温かつ高密度なプラズマに、ネオジム磁石※5の200倍程度の強さを有する、200テスラの磁場を外部から加えることで、高密度プラズマの加速が効率化出来ることを世界で初めて実証しました。強磁場によって、熱いプラズマと冷たい周辺部の間を「断熱」出来たことが、加速効率の向上に寄与しています。

過去に行われた理論・シミュレーションによると、100テスラ程度の強磁場をレーザー核融合プラズマに加えることで、核融合反応効率が上昇すると予測されています。しかし、100テスラという非常に強い磁場を発生させることは、実際には容易なことでは無く、このシミュレーション結果が、実験で検証されたことはありませんでした。

今回、藤岡教授らの研究グループは、高出力レーザーで大電流を駆動しコイルに流すことで、200テスラに達する強磁場を発生させました。この強磁場下で高密度プラズマを生成し、その挙動を計測することに成功しました(図1)

本研究成果の、レーザー核融合の点火、並びに、新しい実験室宇宙物理学への応用に向けた研究は、国際的に注目されており、今後益々活発になるものと期待されています。

本研究成果は、2017年5月9日(火)(現地時間)に、米国物理学会が発行する「Physical Review E」誌のオンライン版に掲載されました。

図1 200テスラ磁場を加えた場合と加えなかった場合のプラズマ温度のシミュレーション。色はプラズマの温度を表す。プラズマの熱が閉じ込められ、高温になっている。

研究の背景

磁場がプラズマの断熱及び閉じ込めの作用を持っていることは、以前から知られています。日本が設計から建設そして運用に大きく貢献し、フランスにて建設中の国際熱核融合炉(ITER)、核融合科学研究所で稼働中の大型ヘリカル装置LHD及び量子科学研究機構で建設中の超伝導トカマク装置JT-60SAといった「磁場閉じ込め核融合装置」においては、扱うプラズマの圧力がレーザー核融合プラズマよりもかなり小さいため、数テスラの磁場でこれらの作用が得られています。自然な流れとして、磁場が持つ断熱及び閉じ込めの作用を、レーザー核融合プラズマにも利用しようとするアイディアは昔からありましたが、それに要求される磁場の強度は数百から数千テスラと非常に大きく、実現が困難だったために、理論およびシミュレーション上で議論されるのみで、実験による検証が行われたことはありませんでした。

大阪大学レーザー科学研究所の藤岡教授らの研究グループは、国内最大のレーザー装置である激光XII号レーザーを、キャパシター・コイル・ターゲットと呼ばれる磁場発生装置に当てることで、微小な空間と短い時間内に、1000テスラを越える磁場を発生出来ることを2013年に発表しています。今回は、この強磁場発生法を用い、実験室内で200テスラの磁場を発生させることで、この強磁場下でのレーザー核融合プラズマの挙動を調べることに成功し、以下の三点を世界で初めて明らかにしました。

(1)高温プラズマから周囲への熱エネルギーの損失が抑制され、プラズマが高温になる。
(2)高温になったプラズマによって、高密度プラズマが効率的に加速される。
(3)その一方で、流体力学的不安定性の成長が増大するという負の側面も有している。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

核融合は究極のエネルギー源の一つとして、世界中で活発に研究が行われています。本研究成果により、磁場とレーザーを組み合わせた新しい核融合方式の発展が期待されます。具体的には、強磁場によって熱、電子及びイオンがレーザー核融合プラズマ中を閉じ込め、それらのエネルギーの損失を低減することで、効率的な点火が実現出来る可能性があります。これまでの理論・シミュレーションによる研究に、新たに実験が加わることで研究が大きく進展します。

また、宇宙プラズマにおいて、磁場とプラズマの相互作用は重要です。磁場中でのプラズマの不安定性、磁気リコネクションによる磁場構造の変化と高エネルギー粒子の発生、X線のスペクトルに見られる特異な構造等の解明に、本研究で開発された実験手法及びシミュレーションが貢献すると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年5月9日(火)(現地時間)付けで米国物理学会が発行する「Physical Review E」誌のオンライン版に掲載されました。

タイトル:"Magnetohyrodynamics of laser-produced high-energy-density-plasma in a strong magnetic field"
(日本語訳「強磁場下における高エネルギー密度プラズマの磁気流体的な挙動」)
著者名:Kazuki Matsuo,1,* Hideo Nagatomo,1 Zhe Zhang,1 Philippe Nicolai,2 Takayoshi Sano,1 Shohei Sakata,1,* Sadaoki Kojima,1,* Seung Ho Lee,1,* King Fai Farley Law,1,* Yasunobu Arikawa,1 Youichi Sakawa,1 Taichi Morita,3 Yasuhiro Kuramitsu,4 Shinsuke Fujioka,1 and Hiroshi Azechi1
所属:1.大阪大学レーザー科学研究所
(*大阪大学大学院理学研究科物理学専攻)
2.ボルドー大学高強度レーザー応用研究センター(CELIA)、フランス
3.九州大学大学院総合理工学府
4.国立中央大学物理学科、台湾

本研究の一部は、大阪大学レーザー科学研究所の共同利用・共同研究並びに核融合科学研究所との双方向型共同研究として、日本学術振興会・科学研究費補助金の助成を受けて実施されました。コンピュータ・シミュレーションに関しては、大阪大学サイバーメディアセンターの支援を得ました。国際共同研究の実施に際しては、日本学術振興会の二国間交流事業及び大阪大学の国際共同研究促進事業から助成を頂きました。また、現在藤岡は、日本学術振興会科学研究費補助金国際共同研究加速基金の助成を得て、米国において、本研究の一部を実施しています。

用語説明

※1 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成することで、その内部状態の観測や挙動を調べたり、その内部で起こる反応を調べたり利用したり、プラズマから放出されるX線や粒子の利用を目指して、高エネルギー化、効率化する、学際的な研究領域。レーザー核融合や実験室宇宙物理も、高エネルギー密度科学に含まれる。

※2 レーザー核融合
高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮すると共に、高温度に加熱することで、核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本を始め、米国、仏国、中国、ロシアで研究が行われている。

※3 テスラ
磁場の強さの絶対値を示す単位。赤道における地磁気は31マイクロ・テスラ(1マイクロ・テスラは1テスラの100万分の1)。強力なナオジム磁石は1テスラ程度の強さを有する。

※4 激光XII号レーザー
大阪大学レーザー科学研究所にある国内最大のレーザー装置であり、共同利用・共同利用施設として国内外の共同研究者に利用されている。

※5 ネオジム磁石
最も強力な永久磁石の一つ。ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする。

参考URL

レーザー科学研究所 超高強度場科学グループ
http://lf-lab.net/

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