工学系

2020年7月31日

研究成果のポイント

・機械学習を援用した低コストな超波長分解高速スペクトル分析技術を開発
・これまで、膨大な高精度スペクトルデータを分析する機器の高速・低コスト化が困難だったが、機械学習を援用した事前のデータ圧縮と超波長分解技術の協働により可能に。
・スペクトル分析に高速・高精度・低コスト性を必要とするIoT産業機器への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の小西毅准教授らの研究グループは(図1)に示すように機械学習※1の援用により、高い波長分解により取得された膨大なスペクトルデータを、同グループが2016年に世界で初めて開発した超波長分解法※2が適用可能なレベルまで大幅に削減することで、低い波長分解能しか有しない市販の低コストマルチチャネル分光器※3による高精度食品分析(今回の分析対象はオリーブオイル)の実現に世界で初めて成功しました(図2)

これまで高速・高精度分析性能を必要とする産業用スペクトル分析機器※4には、低い波長分解能しか有しない民生用の低コストマルチチャネル分光器の導入は難しいと考えられており、IoT※5の時代に膨大な数の導入が期待される産業用スペクトル分析機器の低コスト化が課題でした。

今回、小西毅准教授らの研究グループは、機械学習を援用することにより測定データ数に制限のある超波長分解法で対応可能なレベルまでスペクトルデータ数を大幅に圧縮することに成功しました。これにより、IoTの時代に膨大な数の導入が期待される高速・高精度・低コスト性を必要とする産業分野へのスペクトル分析機器の応用が期待されます。
本研究成果は、2020年7月19日(日)~23日(木)開催のIEEEの国際会議「ICTON2020」において発表されました。また、イノベーション・ジャパン2020~大学見本市&ビジネスマッチング~において、9月28日(月)~11月30日(月)の期間に特設Webサイト(https://www.jst.go.jp/tt/fair/ij2020onweb.html)にて公開されます。

図1 機械学習によるスペクトルデータの削減

図2 高精度食品分析の様子

研究の背景

これまで高速・高精度分析性能を必要とする産業用スペクトル分析機器には、産業用に要求されるレベルよりも遙かに低い波長分解能しか有しない民生用の低コストマルチチャネル分光器の導入は難しいと考えられていました。食品の含有物の種別分類や異物混入検出などにおいて、その特徴を抽出可能なスペクトル分析は広く生産現場に導入されており、その性能を維持したままでの更なる低コスト化が課題でした。小西毅准教授らの研究グループでは、副尺の技術を応用して、マルチチャネル分光器のセンササイズ限界を超える超波長分解法を2016年に世界で初めて開発しました。このマルチチャネル分光器のセンササイズ限界による低波長分解能性の解決が可能な超波長分解能技術には、測定スペクトル点数に制限があり、膨大な測定スペクトル点数が必要となるスペクトル分析用のデータにそのままでは適用できない課題がありました。

研究の内容

小西毅准教授らの研究グループでは、機械学習の援用により高い波長分解により取得された膨大なスペクトルデータを、同グループが2016年に世界で初めて開発したセンササイズ限界を超える超波長分解能法が適用可能なレベルまで大幅に圧縮することに成功しました。実際には、データ量を数%程度までに圧縮することに成功しました。これは、数nm程度の低い波長分解能しか有しない民生用の低コストマルチチャネル分光器により一桁程度高精度な波長分解を持つ高速スペクトル分析が低コストで可能となることを意味します。さらに、遙かに低い波長分解能しか有しない民生用のマルチチャネル分光器による高精度食品分析の実例として、オリーブオイルを対象とした分析実験に成功し、低コストな超波長分解高速スペクトル分析技術の産業応用の実現性を示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、これまで困難だった膨大な高精度スペクトルデータを分析する機器の高速・低コスト化が期待され、IoTの時代に膨大な数の導入が期待される高速・高精度・低コスト性を必要とする産業分野におけるインラインスペクトル分析機器への応用などが期待されます。また、本研究成果は、スペクトル変化を伴う高速・高精度・低コスト産業用スペクトル分析が期待できるので、今回のオリーブオイルの分析のような工場のラインにおけるインライン食品分析を想定した応用に限らず、下水などのリアルタイム環境調査から健康モニタリングに至るまでの様々なIoT機器導入分野への展開が期待されます。

特記事項

本研究成果は、7月19日(日)~23日(木)開催のIEEEの国際会議「ICTON2020」において発表されました。また、イノベーション・ジャパン2020~大学見本市&ビジネスマッチング~において、9月28日(月)~11月30日(月)の期間に特設Webサイト(https://www.jst.go.jp/tt/fair/ij2020onweb.html)にて公開されます。
なお、本研究は、以下の助成を受けて行われました。
・大阪大学 Innovation Bridge グラントプログラム

用語説明

※1 機械学習
機械が与えられたデータから自動的にその中に埋もれたパターンを抽出してデータを分類したり、認識したりする機能を学習します。この学習した機能を使うことで、学習後に入力された未だ学習していないデータに対しても、分類したり識別したりすることができます。

※2 超波長分解法
副尺の技術を応用して、マルチチャネル分光器※3のセンササイズ限界を超えた波長分解能を実現可能な超波長分解法です。

※3 マルチチャネル分光器
並列センサを有するラインセンサで一括してスペクトル測定がリアルタイムに可能な分光器です。ただし、センサのサイズによって波長の違いを見分ける波長分解能が制限を受けるために分解能の低さが欠点です。高い波長分解能を実現可能な一般的な分光器では、一つ一つのスペクトル線をスキャンして計測するために長時間の計測時間を必要とします。

※4 スペクトル分析機器
分光器を用いて計測対象由来のスペクトル情報を取得し、そのスペクトル情報をもとに計測対象の成分の分析や計測対象そのものの特定などを行う機器です。信号取得用分光器とソフトウェアによる信号分析用後処理で構成されるものが一般的です。

※5 IoT
IoTは"Internet of Things"の略でモノのインターネットと言われることもあります。第4の産業革命と呼ばれるIndustry4.0は、産業分野におけるIoTの導入を指しています。あらゆるモノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、マーケティングを含む新たな付加価値を生み出すことを期待されています。

研究者のコメント

・苦労した点:マルチチャネル分光器を超高波長分解能化するとデータ点数が制限されてしまい、産業用スペクトル分析に対応できない課題を解決することに苦労しました(最終的に機械学習により解決)。
・社会に伝えたいこと1: IoTが社会の中に浸透していくと"モノ"からのデータ量が膨張していき、通信やデータ処理能力の制限からデータの品質を落とさずにできるだけその量を少なくすることが求められます。本研究成果はこの要求に応える一例です。
・社会に伝えたいこと2: スペクトルの特徴などを上手くとらえることができる対象であれば分析可能であるので、ウイルスなどの分析への展開可能性も期待が持たれます。

参考URL

フォトニック情報工学領域HP
http://photoinfo.ap.eng.osaka-u.ac.jp/ap1gehpg/

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