2018年12月25日

研究成果のポイント

・熱アシストプラズマ処理によりフッ素樹脂(PTFE)とシリコーン樹脂(PDMS)の強力接着を実現
・プラズマ処理して活性化したシリコーン樹脂(PDMS)を接着剤代わりとして利用
・「PTFE(テフロン)/金属」および「PTFE(テフロン)/ガラス」を接着剤無しで強力接着する技術を開発
→接着剤レスのため、VOC低減(低環境負荷、シックハウス症候群の防止)、医療・食品分野での応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科附属超精密科学研究センターの大久保雄司助教、精密科学・応用物理学専攻の山村和也教授らの研究グループは、フッ素樹脂※1であるPTFE(テフロン)とシリコーン樹脂※2(PDMS)の強力接着を実現しました。さらに、その技術を応用して、「フッ素樹脂と金属」および「フッ素樹脂とガラス」を接着剤無しで強力に接着する技術を世界で初めて開発しました(図1参照)。

これまでは、Na(金属ナトリウム)を含む危険な薬剤※3を使用してフッ素樹脂の接着性を向上させた上で、接着剤を使用してフッ素樹脂と金属およびフッ素樹脂とガラスとが接着されていました。しかし、その薬剤は作業者にも環境にも有害であり、さらに接着剤を使用して接着していたためVOC※4の問題があり、安全性が重視される医療分野や食品分野ではその利用が懸念されていました。

今回、大久保雄司助教らの研究グループは、プラズマ処理※5によって両面を活性化させたシリコーン樹脂(PDMS)と既に開発済であった熱アシストプラズマ処理※6とを組み合わせることにより、危険で有害な薬剤を使用することなく、さらに接着剤も使用することなく「フッ素樹脂と金属」および「フッ素樹脂とガラス」の強力接着を実現しました。これにより、VOCを低減でき、かつ接着剤混入のリスクを回避できるため、医療・食品分野での応用が期待されます。

本研究成果は、Nature Publishing Group(NPG)の英国科学誌「Scientific Reports」において、12月24日(月)19時(日本時間)に公開されました。

図1 シリコーン樹脂(PDMS)を介したフッ素樹脂(PTFE)と異種材料の強力接着体
(a)PTFE/PDMS/Cu(銅)、(b)PTFE/PDMS/SUS430(ステンレス鋼)、(c)PTFE/PDMS/ガラス

研究の背景

フッ素樹脂、その中でも全てCF2から構成されるポリテトラフルオロエチレン(PTFE、通称:テフロン)は、水や油や汚れはもちろん接着剤さえも弾いてしまうため、異種材料との接着が極めて困難です。現状ではNaを含む劇薬にフッ素樹脂を浸漬して表面改質することで高接着性を確保していますが、作業者の身体的負担が大きく、環境への悪影響も大きいため、代替方法が強く求められています。さらに、この劇薬を使用しても、PTFEと金属およびガラスとを接着剤無しで直接接着する技術は確立されていませんでした。

そこで、大阪大学の大久保助教らの研究グループは、高分子材料(プラスチックやゴム等)の表面に大気圧プラズマを照射し、表面を活性化して異種材料同士の接着性を向上させる研究に取り組んできました※7,8,9。これまでにフッ素樹脂と未加硫ゴムとの強力接着を実現していました(フッ素樹脂側のみにプラズマ処理を実施していました)が、今回は加硫済ゴムであるシリコーン樹脂にもプラズマ処理することで、フッ素樹脂とシリコーン樹脂の強力接着を実現しました(フッ素樹脂側とゴム側の両方にプラズマ処理を実施しました)(図2(a)-(c)参照)。加硫済ゴムであってもプラズマ処理して表面にSi–OH基を導入すれば,シリカ粒子を添加した未加硫ゴムと同様に熱アシストプラズマ処理したフッ素樹脂との接着剤レス接着が可能であることが実証されました。

さらに、プラズマ処理したシリコーン樹脂は金属やガラスと強力接着することが既に報告されているため、この従来技術と熱アシストプラズマ処理を組み合わせることにより、両面をプラズマ処理したシリコーン樹脂を介して「フッ素樹脂と金属」および「フッ素樹脂とガラス」の強力接着を実現しました(図2(d)-(f)参照)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、接着剤の代わりにシリコーン樹脂を介することで、「フッ素樹脂と金属」および「フッ素樹脂とガラス」を強力接着することが可能となったため、接着剤の混入が懸念される医療分野や食品分野での応用が期待されます。また、「既存の接着剤を使用した接着工程」を「接着剤レスの本技術」で代替することで、作業者の身体的負担を軽減でき、さらに接着工程後も継続的に発生するVOCを低減できるため、シックハウス症候群やシックカー症候群等の防止にも繋がることが期待されます。

今回はフッ素樹脂と異種材料(銅、ステンレス、ガラス)の接着にシリコーン樹脂を利用しましたが、シリコーン樹脂を介した接着剤レス接着技術は、フッ素樹脂に限定されず他の樹脂(有機材料)にも適用可能であり、また、銅・ステンレス・ガラス以外の無機材料にも適用可能であるため、様々な材料のマルチマテリアル化に貢献できる可能性を秘めています。

図2 二層接着体(PTFE/Cu)および三層接着体(PTFE/PDMS/Cu)の作製方法
同手法で材料を変更すれば、PFA/PDMS、PFA/PDMS/ガラス、PTFE/PDMS/ガラス、PTFE/PDMS/SUS430等の接着体を作製可能

特記事項

本研究成果は、2018年12月24日(月)19時(日本時間)にNature Publishing Group(NPG)の英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Adhesive-free adhesion between heat-assisted plasma-treated fluoropolymers(PTFE,PFA) and plasma-jet-treated polydimethylsiloxane (PDMS) and its application”
著者名:Yuji Ohkubo, Katsuyoshi Endo, and Kazuya Yamamura

用語説明

※1 フッ素樹脂:フッ素と炭素が主成分のプラスチック
化学的に不活性で、表面エネルギーが極めて低い材料です。水や油を弾き、汚れが極めて付着しにくいので、現在はほとんどのフライパンにフッ素樹脂(通称:テフロン)がコーティングされています。長所が短所にもなり、接着性が極めて悪く、他の材料と組み合わせて使用することが難しいため、用途が限定されています。代表的なフッ素樹脂として、白色で不透明なPTFE(polytetrafluoroethylene)、高い透明性を有するPFA(tetrafluoroethylene–perfluoroalkylvinylether copolymer)やETFE(ethylene‐tetrafluoroethylene copolymer)等があります。

※2 シリコーン樹脂:Si-O-Siを主鎖とする樹脂(プラスチックおよびゴム)
ガラスを構成するケイ素(Si)と酸素(O)が交互に結合した主鎖に対して、側鎖にメチル基(CH3)やベンゼン環等の有機基が結合した構造であり、無機と有機の性質を兼ね備えた高機能合成樹脂です。「シリコン」はケイ素(Si)のみを指し、半導体材料に使用され無機材料であり、「シリコーン」とは異なる材料です。

※3 Naを含む危険な薬剤:フッ素樹脂の接着性を高めるために使用されるナトリウム(Na)を含む溶液
強い還元力を持つ金属ナトリウム(Na)を分散させた液体アンモニア(NH3)溶液、またはNaとナフタリンを錯体化してテトラヒドロフラン(THF)等の溶媒に分散させた溶液等があります。これらの溶液にフッ素樹脂を浸漬すると、Naがフッ素樹脂のF-C-Fからフッ素(F)原子を引き、炭素(C)ラジカルF-C・が生成され、空気中の水分などと反応して、最終的にはC-OHやC=O-OHなどの官能基が生成して接着性が大幅に向上します。ただし、環境負荷が大きい、フッ素樹脂の表面粗さが増加する、フッ素樹脂が褐色に変色する、等のデメリットがあります。

※4 VOC:Volatile Organic Compounds(揮発性有機化合物)の略称
揮発(蒸発)しやすい性質を持つ有機化合物の総称であり、塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどが代表的な物質です。発がん性物質や光化学スモッグの発生源であるため、環境省が2006年からVOC排出量を規制しています。新築・改築直後の建築物で起こるシックハウス症候群、納車直後の車で起こるシックカー症候群などの原因物質でもあり、建築および自動車の関連会社がVOC低減対策を実施していますが、さらに低減する技術が必要とされています。

※5 プラズマ処理:プラズマにより、材料表面の活性(反応性)を高める処理
プラズマとは、気体中の分子が局所的にはイオンと電子に分かれているが全体としては中性を保っている状態であり、固体・液体・気体に次ぐ第4の状態と言われています。プラズマ中に材料を入れると、プラズマ中のイオンや電子が材料表面に衝突し、材料表面の結合が切れるため、未結合手を持った原子(ラジカル)が生成されます。未結合手の原子は不安定であり、早く手を繋ぎたい状態であるため、反応性が高い表面となります。

※6 熱アシストプラズマ処理:加熱しながらプラズマ処理すること
投入電力の増加によりプラズマの自然昇温で樹脂の表面を同時に加熱する手法と、低い投入電力でプラズマを生成しヒーターによる外部加熱を組み合わせて樹脂の表面を同時に加熱する手法、の二種類がありますいずれの熱アシストプラズマ処理でも、表面が硬くなり、その上でラジカルと官能基の生成が起こることで高接着性が得られます。

※7 プレスリリース(平成26年9月)フッ素樹脂とブチルゴムを強力に接着させる技術
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140908_1

※8 プレスリリース(平成28年1月)実用化を加速するため三者協力体制を構築
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160119_1

※9 プレスリリース(平成29年1月)フッ素樹脂の表面改質状態を超長寿命化
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170125_1

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 超精密科学研究センター 遠藤研究室
http://www.upst.eng.osaka-u.ac.jp/endo_lab/index.html

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