2014年9月8日

本研究成果のポイント

・接着剤を使用することなく、簡単な2つの操作のみでフッ素樹脂とゴムを接合
・フッ素樹脂とゴムの界面で剥離することなく、ゴムが破断するほどの強力な密着力
・滑り性に優れたフッ素樹脂-ゴム複合体を作製 → 潤滑油(シリコーンオイル)不要 → 医療用途への応用に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科附属超精密科学研究センター(センター長:遠藤勝義)の山村和也准教授、大久保雄司助教、石原健人(博士前期課程1年)と兵庫県立工業技術センターの柴原正文、長谷朝博、本田幸司は、接着剤を使用することなく、フッ素樹脂※1とブチルゴム※2を強力に接合することを可能にしました(特許出願中:特願2014-181663)。

商品名“テフロン®”で知られるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、フッ素樹脂の中でも最も水や油をはじく材料であり、他の物質との接合が極めて困難です。研究グループは、このPTFEに対して、あらかじめ高電力条件で大気圧プラズマ処理※3を行うと、熱圧縮するだけで、PTFEとブチルゴムとの密着強度が飛躍的に向上することを見出しました。図1(a)のように剥離試験を行ったところ、PTFEとゴムの界面では剥離せず、図1(b)のようにゴムが凝集破壊※4するほどの密着力が得られました。また、プラズマ処理後、一ヶ月経過した後に熱圧縮しても密着力はほとんど変わりませんでした。今後は、注射器のガスケット部の材料として使用されているブチルゴムの滑りを良くするため、接着剤を使用せずブチルゴムをPTFEで被覆するための技術として期待されます。

本研究成果は、平成26年9月9日に5th World Congress on Adhesion and Related Phenomena(奈良県新公会堂)、平成26年9月11日にイノベーションジャパン2014-大学見本市(東京ビッグサイト)、平成26年9月22日に表面技術協会-第130回講演大会(京都大学)にて報告されます。

研究の背景

医療現場において、薬剤の誤投与を低減するため、あらかじめ薬剤を充填させたプレフィルドシリンジ※5という注射器の利用が進められています(図2参照)。ポリプロピレン製のシリンジバレルとブチルゴム製のガスケットとの滑りが悪いという問題を解消するため、「潤滑油を使用する」または「接着剤でフッ素樹脂をブチルゴムに張り合わせる」ことが検討されていますが、潤滑油や接着剤が薬剤に混入することが懸念されています。そこで、潤滑油や接着剤を使用することなく、ブチルゴムの滑り性を改善する技術が求められています。

研究の内容

大阪大学の超精密科学研究センターでは、大気圧プラズマを利用した形状創成(Figuring)、表面仕上げ(Finishing)、表面機能化(Functionalization)からなるF3テクノロジーズの開発に取り組んでおり、今回の研究内容は高分子の表面機能化の一環です。

大阪大学と兵庫県立工業技術センターとの共同研究グループは、「大気圧Heプラズマ処理」と「熱圧縮」という非常に簡単な2つの操作のみで、フッ素樹脂とブチルゴムを接合することにより、(1)潤滑油を使用せず、(2)接着剤も使用せず、(3)ブチルゴムの滑り性を改善する、という三つの要求を満たすことに挑戦しました。

未処理のPTFEとブチルゴムを鉄板に挟んで熱圧縮すると、PTFEとブチルゴムの界面で簡単に剥離しました(密着強度 0 N/mm)。一方、本技術を適用したPTFEとブチルゴムは界面で剥離せず、ブチルゴムの凝集破壊が起こり、剥離試験により測定された最大密着強度は3.0 N/mmを示しました。また、プラズマ処理後のPTFEを室温大気中で一ヶ月間保管してから熱圧縮を行いましたが、やはりブチルゴムが凝集破壊するほどの密着強度を示しました。表面改質の効果が一ヶ月経過後も維持されていることが確認されました。

密着力が大幅に向上した要因を調査するため、プラズマ処理中およびプラズマ処理後のPTFE表面を調査しました。まず、サーモラベル※6により、プラズマ処理中のPTFE表面の温度を測定すると、高電力条件で処理するほど、PTFEの表面温度が増加していました。最大の密着強度が得られた電力条件では、PTFEのガラス転移点※7(130℃)を超え、融点※8(327℃)付近までPTFEの表面温度が上昇していたことが明らかになりました。X線光電子分光法※9により表面の官能基を分析すると、高電力条件で処理されたPTFE表面ではC-F結合が減少し、C-C結合が増加していることが明らかになりました。さらに、ナノインデンター※10により表面硬さを評価すると、高電力条件で処理するほど、PTFEの表面が硬くなっていることが明らかになりました。これらの結果より、高電力条件で処理されたPTFE表面では、熱により架橋反応が促進されたことが考えられます。

PTFEシートは切削加工※11によってシートを作製しているため、PTFE表面にはPTFE内部より密度が低く脆くて弱い層(脆弱層)が存在します。未処理または低電力条件でプラズマ処理されたPTFEでは、剥離試験の際にこの脆弱層で剥離が起こるため、PTFEとブチルゴム間の密着強度が低くなったと考えられます。一方、高電力条件で処理されたPTFE表面ではプラズマ照射による脱フッ素化※12とそれに付随する過酸化物ラジカル※13の形成だけでなく、温度上昇に伴うPTFE分子鎖の運動性向上によってPTFE分子鎖同士の架橋反応が進行し、脆弱層が強化されたと推察されます(図3参照)。その結果、PTFEとブチルゴム間の密着強度が大幅に増加し、上述した3つの要求を満たすことができました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本技術は、接着剤を使用することなく、フッ素樹脂とブチルゴムを強力に接合することができました。

本技術によりフッ素樹脂をブチルゴムへラミネートすることで、安全性が重視される医療現場において、シリコーンオイルフリーであるが滑り性に優れたプレフィルドシリンジの開発が期待できます。

フッ素樹脂とゴム材料を「プラズマ処理」と「熱圧縮」という簡単な2つの操作で接合する手法を示しました。

今後、本技術はフッ素樹脂の用途拡大に貢献することが期待できます。

参考図

図1 剥離試験中の様子

図2 プレフィルドシリンジの模式図

図3 密着強度の大幅増加のメカニズム

用語解説

※1 フッ素樹脂:フッ素と炭素が主成分のプラスチック
化学的に不活性で、表面エネルギーが極めて低い材料です。水や油を弾き、汚れが極めて付着しにくいので、現在はほとんどのフライパンにフッ素樹脂がコーティングされています。長所が短所にもなり、密着性が極めて悪く、他の材料と組み合わせて使用することが難しいため、用途が限定されています。

※2 ブチルゴム:気密性の高いゴムの一種
正式名は、イソプレン-イソブチレン-ゴムと呼ばれ、IIRと略されます。

※3 プラズマ処理:プラズマにより、材料表面の活性(反応性)を高める処理
プラズマとは、気体中の分子が局所的にはイオンと電子に分かれているが全体としては中性を保っている状態であり、固体・気体・液体に次ぐ第4の状態と言われています。プラズマ中に材料を入れると、プラズマ中のイオンや電子が材料表面に衝突し、材料表面の結合が切れるため、未結合手を持った原子が生成されます。未結合手の原子は不安定であり、早く手を繋ぎたい状態であるため、反応性が高い表面となります。

※4 凝集破壊:2つの物質間の密着力が高過ぎるため、剥離させようとした時に物質自体が破壊すること
接合している2つの物質を引き剥がそうとすると、2つの物体間の密着力が低い場合は界面で剥離しますが、2つの物体間の密着力が高い場合はどちらかの物質が破壊(破断)してしまいます。後者の現象を凝集破壊と呼びます。

※5 プレフィルドシリンジ:あらかじめ薬剤を充填させた注射器
薬剤の種類や量の誤投与を回避するために開発されました。薬剤内への異物混入の防止や緊急時の迅速な投与が可能であるといったメリットもあります。

※6 サーモラベル:特定の温度で変色するシール
特定の温度のみに反応して色や数字が変化するシールであり、温度計を使用せずに目視で表面の温度を確認することができます。

※7 ガラス転移点:プラスチック中の分子鎖の向きがバラバラな部分の運動性が急激に増加する時の温度
プラスチックには、分子鎖が規則正しく並んでいる部分(結晶性部分)と糸玉になってからまったりしている部分(非晶質部分)があります。非晶質部分がガラス状態(温度が低くて分子鎖の運動性が低い状態)からゴム状態(温度が高くなって分子鎖の運動性が高い状態)に変わる時の温度をガラス転移点といいます。

※8 融点:プラスチック中の全ての分子鎖が自由に動けるようになる時の温度
ガラス転移点は非晶質部分だけが自由に動けるようになる時の温度ですが、融点は非晶質部分だけでなく結晶質部分も自由に動ける状態に変わる時の温度です。

※9 X線光電子分光法:材料の表面にX線を照射し表面から飛び出す電子を分析して、表面を分析する方法
材料の表面にX線を照射すると、表面に存在する原子中の電子がX線からエネルギーを受けて高エネルギー状態になり、電子殻から飛び出します。X線により表面から飛び出した電子のエネルギーを調査することにより、「表面にどんな原子が存在するのか」「表面に存在する原子はどんな原子と結びついているのか」を分析することができます。

※10 ナノインデンター:材料の表面硬さを測定できる装置
材料の表面に微小な針を押し込み、針が押し込まれた深さを測定することにより表面の硬さを評価します。押し込み深さが浅い材料は硬い材料であり、押し込み深さが深い材料は柔らかい材料と言えます。

※11 切削加工:刃物などを使用して目的の形状に加工すること
PTFEシートは、まずPTFEの粉末を押し固め、熱を加えて円柱型に成形し、円柱状のPTFEを切削加工する(刃物を使用して桂剥きのようにする)ことで得られます。切削加工した際に、PTFE表面には脆弱層が生じてしまいます。

※12 脱フッ素化:C-F結合が切れて、F原子が取り除かれること
プラズマ中では、PTFE中のC-F結合が切断され、Cが未結合手を持ちます(炭素ラジカルが生成されます)。

※13 過酸化物ラジカル:過酸化物を含むラジカル(-O-O・)のこと
過酸化物とは、ペルオキシ構造(-O-O-)を含む分子です。ラジカルとは、不対電子を持つ原子および分子です。よって、過酸化物ラジカルは、「-O-O・」で表されます。PTFEにプラズマ処理を行うと、「C-F」→「C・」→「C-O-O・」となり、表面の反応性が高まります。

参考URL

大阪大学 工学部 応用自然科学科 精密科学コース(遠藤研究室)
http://www.prec.eng.osaka-u.ac.jp/psthomepage/lab/endo/index.html
超精密科学研究センター
http://www.upst.eng.osaka-u.ac.jp/
遠藤研究室
http://www.upst.eng.osaka-u.ac.jp/endo_lab/index.html
兵庫県立工業技術センター
http://www.hyogo-kg.jp/
関連する研究成果(平成26年3月プレスリリース)
困難をついに実現?!フッ素樹脂と金属膜を強力に接着させる技術を開発 -省エネかつ処理スピードの速い高周波用プリント配線板材料への応用に期待-
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140312_3

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