工学系

2017年8月25日

研究成果のポイント

・プラズマ処理と加熱機構を分離し、低電力であってもヒーターで加熱すれば、フッ素樹脂の接着性が大幅に向上することを実証。
・これまで、フッ素樹脂の高接着性には高電力によるプラズマ処理が必要で、プラズマ処理範囲を拡大し生産性を向上させるためにかかるコストが高額で、実用化の課題となっていた。
・既存の装置の簡易改造で熱アシストプラズマ処理が可能となり、低コストでプラズマ処理の大面積化が容易に。

概要

大阪大学大学院工学研究科精密科学・応用物理学専攻の山村和也教授、附属超精密科学研究センターの大久保雄司助教らと兵庫県立工業技術センターの柴原正文研究員、長谷朝博研究員、本田幸司研究員らの研究グループは、フッ素樹脂※1に対して、ヒーターで加熱しながらプラズマ処理※2(熱アシストプラズマ処理※3)することで、低コストで高接着性が得られることを明らかにしました。

これまでの研究では、高電力を印加してプラズマ処理中のフッ素樹脂の表面温度を上昇させて高接着性を得ていました。しかし、高電力を維持したままプラズマ処理範囲を大面積化しようとすると、装置の改造費用が高額となるため、実用化する上で大きな障壁となっていました。

今回、山村和也教授らの研究グループは、プラズマ処理と加熱機構を分離し、低電力であってもヒーターで加熱すれば高接着性が得られることを実証しました。装置改造の制約条件が大幅に緩和されて低コスト化が可能となったため、実用化に向けて大きく前進したと言えます。

本研究成果は、Nature Publishing Group(NPG)の英国科学誌「Scientific Reports」において、8月25日(金)18時(日本時間)に公開されました。

図1 プラズマ処理中のヒーター加熱の効果(青:ブチルゴム、白:フッ素樹脂):ヒーター加熱するとフッ素樹脂にくっつけたゴムが剥離試験中に材料破壊する

研究の背景

フッ素樹脂は水や油や汚れ等の付着を防止する特徴を持つ反面、異種材料との接着が極めて困難です。現状ではNaを含む劇薬にフッ素樹脂を浸漬して表面改質することで高接着性を確保していますが、作業者の身体的負担が大きく、環境への悪影響も大きいため、代替方法が強く求められています。

そこで、大阪大学の山村教授と大久保助教らの研究グループは、高分子材料(プラスチックやゴム等)の表面に大気圧プラズマを照射し、表面を活性化して異種材料同士の接着性を向上させる研究に取り組んできました。これまでの研究では、高電力を印加してプラズマを発生させながら加熱することで、フッ素樹脂と異種材料(銀インク膜※4・銅ペースト膜※5・無電解銅めっき膜※6・ブチルゴム※7等)の強力接着を実現しました。これらの研究成果は、接着剤を用いることなくフッ素樹脂と異種材料を強力接着できるという他に類を見ない成果としてプレスリリース、学会発表、展示会を通じて発信してきました※8,9,10

これまでは高電力を印加してプラズマ処理中のフッ素樹脂の表面温度を上昇させることで高接着性が得られていましたが、プラズマ処理範囲を拡大して生産性を高めようとすると、同じ電源を使用する場合は電力密度が低下して表面温度を上昇させることができませんでした。よって、プラズマ処理装置の大型化に伴って電源も大型化する必要が生じ、その結果として改造費用も高くなるため、実用化する上での大きなデメリットとなっていました。

研究の内容

今回、研究グループは、①低電力でプラズマ処理した場合、②高電力でプラズマ処理した場合、そして、③低電力でプラズマ処理しながらヒーターで加熱した場合、の3つの条件において比較調査を実施しました。その結果、②の場合と③の場合では、いずれもゴムが材料破壊する程の高接着性が得られ、架橋度※11は異なりましたが、表面硬さがいずれも1.7倍以上増加していたことが明らかになりました。つまり、高電力のプラズマによる自然昇温であっても低電力のヒーターによる加熱であっても、いずれにせよプラズマ処理中の表面温度が高くなるとフッ素樹脂表面の脆い層がエッチング(除去)されて表面が硬くなり、その上で接着性を発現する過酸化物ラジカル※12および酸素を含む官能基が存在することが接着性向上の重要な要因であることが示されました。また、プラズマ処理と加熱機構が独立制御されたことで、プラズマ処理ではC-F結合※13の切断がメインで起こり、加熱によってエッチングと架橋が促進されたことが明らかになりました。低コストで高接着性が実現できるという工業的なメリットはもちろん、熱アシストプラズマ処理の表 面改質メカニズムも明らかになり学問的にも意義があると言えます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、既存のプラズマ処理装置にヒーターを取り付けるだけで熱アシストプラズマ処理が可能となり、高接着性が得られるようになりました。プラズマ処理中の表面温度をヒーターによって制御するため、プラズマ処理範囲を試料や装置のサイズに合わせて変更しやすくなり、低コストで処理面積の拡大が可能となります。熱アシストプラズマ処理をNa薬剤処理の代替方法として利用する上で、一度に処理できる面積を拡大して生産性を高めることは必須の課題であったため、この課題を解決する手法を提案したことは、実用化の入り口に大きく近づいたと言えます。

特記事項

本研究成果は、2017年8月25日(金)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Drastic Improvement in adhesion property of polytetrafluoroethylene (PTFE) via heat-assisted plasma treatment using a heater”
著者名:Y. Ohkubo, K. Ishihara, M. Shibahara, A. Nagatani, K. Honda, K. Endo, and K. Yamamura

なお、本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(基盤研究C)の一環として行われました。

用語説明

※1 フッ素樹脂:フッ素と炭素が主成分のプラスチック
化学的に不活性で、表面エネルギーが極めて低い材料です。水や油を弾き、汚れが極めて付着しにくいので、現在はほとんどのフライパンにフッ素樹脂がコーティングされています。長所が短所にもなり、接着性が極めて悪く、他の材料と組み合わせて使用することが難しいため、用途が限定されています。

※2 プラズマ処理:プラズマにより、材料表面の活性(反応性)を高める処理
プラズマとは、気体中の分子が局所的にはイオンと電子に分かれているが全体としては中性を保っている状態であり、固体・液体・気体に次ぐ第4の状態と言われています。プラズマ中に材料を入れると、プラズマ中のイオンや電子が材料表面に衝突し、材料表面の結合が切れるため、未結合手を持った原子(ラジカル)が生成されます。未結合手の原子は不安定であり、早く手を繋ぎたい状態であるため、反応性が高い表面となります。

※3 熱アシストプラズマ処理:加熱しながらプラズマ処理すること
これまでは投入電力の増加によりプラズマの自然昇温で加熱していましたが、今回は低い投入電力であってもヒーターによる外部加熱を組み合わせることで同等の接着性が得られることが明らかになりました。いずれの熱アシストプラズマ処理でも、表面が硬くなり、その上でラジカルと官能基の生成が起こることで高接着性が得られます。

※4 銀インク膜:銀塩インクを加熱・焼結して得られる銀膜のこと
有機化合物と銀との金属塩化合物(銀塩化合物)を溶剤に溶解したインクです。インクジェット印刷機を用いてこのインクで回路パターンを描画し、焼成することで電子部品等の導電配線を形成することができます。

※5 銅ペースト膜:銅ペーストを加熱・焼結して得られる銅膜のこと
銅粒子、樹脂、および溶剤を混合したペーストです。スクリーン印刷機などを用いてこのペーストで回路パターンを描画し、焼成することで電子部品等の導電配線を形成することができます。

※6 無電解銅めっき膜:銅イオンを化学的に還元析出させて得られる銅膜のこと
めっきには「外部直流電源を用いて金属イオンを還元析出させて金属膜を形成する電気めっき」と「還元剤を添加して金属イオンを化学的に還元析出させて金属膜を形成する無電解めっき」があります。前者は導体(電気伝導体)にしかめっきできませんが、後者は樹脂等の絶縁体(不導体)にもめっきが可能です。

※7 ブチルゴム:気密性の高いゴムの一種
正式名は、イソプレン-イソブチレン-ゴムと呼ばれ、IIRと略されます。気密性が高いため、注射器のガスケット部分等に利用されます。

※8 プレスリリース(平成26年9月)
フッ素樹脂とブチルゴムを強力に接着させる技術
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140908_1

※9 プレスリリース (平成28年1月)
実用化を加速するため三者協力体制を構築
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160119_1

※10 プレスリリース(平成29年1月)
フッ素樹脂の表面改質状態を超長寿命化
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170125_1

※11 架橋度:分子鎖間のC-C結合の割合
フッ素樹脂にプラズマ処理を行うと、「C-F」結合が切断されてカーボンラジカル「C・」が生成し、そのカーボンラジカル「C・」同士が反応すると、C-C結合が生成します。新たに生成したC-C結合の割合が架橋度として定義されます。

※12 過酸化物ラジカル:過酸化物を含むラジカル(-O-O・)のこと
過酸化物とは、ペルオキシ構造(-O-O-)を含む分子です。ラジカルとは、不対電子を持つ原子および分子です。よって、過酸化物ラジカルは、「-O-O・」で表されます。フッ素樹脂にプラズマ処理を行うと、「C-F」結合または「C-C」結合が切断されて「C・」が生成し、空気中の酸素と反応して「C-O-O・」が生成します。

※13 C-F結合:フッ素樹脂を構成する炭素とフッ素の間の結合
フッ素樹脂の主鎖を構成する炭素原子と側鎖を構成するフッ素原子の間の結合がC-F結合です。

参考URL

大阪大学 工学部 応用自然科学科 精密科学コース(遠藤研究室)
http://www.prec.eng.osaka-u.ac.jp/psthomepage/lab/endo/index.html

大阪大学 大学院工学研究科 附属超精密科学研究センター
http://www.upst.eng.osaka-u.ac.jp/

大阪大学 大学院工学研究科 附属超精密科学研究センター(遠藤研究室)
http://www.upst.eng.osaka-u.ac.jp/endo_lab/index.html

兵庫県立工業技術センター
http://www.hyogo-kg.jp/

関連する研究成果(1)平成26年3月プレスリリース
困難をついに実現?!フッ素樹脂と金属膜を強力に接着させる技術を開発
―省エネかつ処理スピードの速い高周波用プリント配線板材料への応用に期待―
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140312_3

関連する研究成果 (2) 平成 26 年 9 月プレスリリース
また困難を実現?!接着剤を使用せずフッ素樹脂とゴムを強力に接合 ―安全性の高いオイルフリーな注射器のピストンなどへの応用に期待―
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140908_1

関連する研究成果 (3) 平成 28 年 1 月プレスリリース
接着剤を使わずにフッ素樹脂と金属を強力にくっつける技術 ―大阪大学×積水化学工業×日油の協力体制で実用化を加速!―
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160119_1

関連する研究成果 (4) 平成 29 年 1 月プレスリリース
フッ素樹脂の表面改質状態を超長寿命化 ―フッ素樹脂の利用用途の拡大に期待―
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2017/20170125_1

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