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\街の緑の評価を、「量」から「質」へ/ 深層学習による都市緑地の高精度評価システムを開発

\街の緑の評価を、「量」から「質」へ/ 深層学習による都市緑地の高精度評価システムを開発

多時相解析フレームワークでスマートに季節感あふれる緑地計画支援

2025-7-10工学系
工学研究科教授福田 知弘

研究成果のポイント

  • ストリートビュー画像を活用し、都市の緑地における植生を、複数の時点(多時相)で可視化・解析するフレームワークを開発。植物種ごとの季節変化を定量的に捉える革新的な技術アプローチを実現。
  • 新たに提案した「季節種別植物景観指数(S3PVI)」により、51種の都市植物データセットで平均82.17%の高精度識別を達成。従来の緑視率では困難だった植物種別の詳細評価を可能に。
  • 深層学習と3D再構成技術(SfMおよび3Dガウススプラッティング)を統合。標準視点の自動生成により、解析精度とデータの一貫性を大幅に向上。
  • 大阪府吹田市での実証実験により技術の有効性を確認。今後の都市緑地評価・計画支援に資する基盤技術としての応用が期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科のHU Anqi 特任研究員(常勤)、矢吹信喜名誉教授(現・東京都市大学特任教授)、福田知弘教授の研究グループは、都市緑地の多時相評価を目的とした新たな解析フレームワークを開発しました。本技術は、ストリートビュー画像から得られる都市景観情報をもとに、深層学習と3D再構成技術を組み合わせることで、植物種別の季節変化を高精度に定量化できる点が特徴です。

従来の都市緑地評価手法には、「植物種や季節変化に関する情報を反映できない」、「視点の標準化が困難で、時期や場所による撮影条件の違いにより一貫性のある比較分析ができない」、「植物の季節変化や多様性に対応した動的な評価指標が存在しない」などの課題がありました。

本研究では、季節性・植物種に基づいた視覚的インパクトを定量化する新たな指標「S3PVI(Seasonal Species-Specific Plant View Index)」を導入し、都市緑地の種別・時期別の視覚貢献度を可視化しました。たとえば、大阪府吹田市・三色彩道での検証では、春の桜(ソメイヨシノ)の視覚貢献が45.61%、秋の楓が56.78%、常緑樹のイトスギは通年で8.77~15.54%といった、明確な季節特性を定量的に捉えることに成功しました。

本研究成果は、2025年7月1日(火)(日本時間)に、学術雑誌「Landscape ecology」(Springer nature社)にオンライン掲載されました。

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図1. 季節横断型植物種識別・緑地評価システムの概要

研究の背景

近年、都市化の進行と気候変動の影響により、都市緑地の生態的・景観的価値はますます注目されています。しかし、従来の都市緑地評価手法には以下のような課題がありました。

● 緑視率(GVI)は全体的な緑量を示すのみで、植物種や季節変化に関する情報を反映できない。
● 従来手法では視点の標準化が困難で、時期や場所による撮影条件の違いにより一貫性のある比較分析ができない。
● 植物の季節変化や多様性に対応した動的な評価指標が存在しない。

こうした背景から、種別や季節特性を定量的に可視化し、都市計画・景観設計に役立つ新しい分析フレームワークの必要性が高まっています。

研究の内容

本研究では、以下のような先端技術を組み合わせた多時相解析フレームワークを構築しました(図2)。

● 3D再構成技術(SfM + 3Dガウシアンスプラッティング)

画像から高精度な三次元都市空間を構築し、標準化された視点を生成。時間や視点のばらつきを補正し、季節間比較の一貫性を担保。
● 植物種識別技術(EfficientNet-B4 + DANet)

2,000枚のアノテーション付き画像から学習し、51種の都市植物を平均82.17%のIoUで正確にセグメンテーション(図1)。特にレモンゼラニウムでは92.50%、難易度の高い桜でも69.61%を達成。
● S3PVIおよび補助指標の導入

視覚的多様性を測る補完指標(季節振幅SA・種多様性指数SDI・年間一貫性YRC)により、植生変化の強度や安定性、種の多様性を客観的に評価可能に。

本システムは複数の季節にわたる画像データを統合的に処理し、植物種別の視覚貢献度を定量的に算出します。この一連の処理により、従来手法では困難だった種別・季節別の詳細な緑地評価が可能となりました。

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図2. 多時相都市緑地植生可視化解析フレームワークの全体ワークフロー

実証実験と考察

大阪府吹田市の三色彩道および周辺地域にて実証実験を実施。多種多様な樹種が戦略的に配置された都市街路景観において、本フレームワークの適用性と有効性が確認されました(図3)。

三色彩道の「季節振幅」はSA=56.78であり、比較対象となるなかよし道(SA=38.68)よりも顕著な季節変化を持つことがわかりました。一方、「年間一貫性」では、なかよし道のYRC=0.29が三色彩道(YRC=0.19)を上回り、年間を通じた安定した景観形成に寄与していることが示唆されました。

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図3. 吹田市三色彩道沿いの植生分布

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究が開発した解析フレームワークは、都市緑地評価技術における画期的なブレークスルーです。従来のGVIでは見落とされていた植物種ごとの視覚的貢献度とその季節変化を、高精度にかつ定量的に評価可能にした点が最大の成果です。

● 景観生態学・都市緑地管理分野における理論的基盤の強化
● 都市設計・緑地計画における植物選定・配置への定量的支援
● 設計成果の「見える化」による住民や関係者との合意形成促進

今後は、各地域の気候や文化的背景に応じた地域特化型モデルの開発と、より大規模かつ多様な都市データセットの構築が重要となります。研究チームはこれらを次のステップとして取り組み、都市緑地の高度評価と計画支援の社会実装をめざします。

特記事項

本研究成果は、2025年7月1日(火)(日本時間)に、学術雑誌「Landscape ecology」(Springer nature社)にオンライン掲載されました。

タイトル: “Multi-temporal Analysis of Urban Vegetation Using Deep Learning and 3D Reconstruction (深層学習と3D再構成による都市植生の多時相解析)”
著者名:Anqi Hu, Nobuyoshi Yabuki, and Tomohiro Fukuda
DOI: 10.1007/s10980-025-02090-6

参考URL

HU Anqi特任研究員(常勤) 研究者情報
https://scholar.google.com/citations?user=CIQ6PasAAAAJ&hl=en

福田知弘教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/d2782e4b9c864b39.html

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用語説明

S3PVI

季節種別植物景観指数(Seasonal Species-Specific Plant View Index)。個別植物種の視覚的貢献度を季節ごとに定量化する新指標。従来の緑視率では困難だった植物種レベルでの詳細評価を可能にする。

SfM

運動構造復元(Structure from Motion)。複数の画像から3D構造を推定するコンピュータビジョン技術。カメラの動きと被写体の3D形状を同時に復元する。

IoU

交差合併比(Intersection over Union)。セマンティックセグメンテーションの精度評価指標。0~1の値を取り、1に近いほど正確な識別を示す。

SA

季節振幅(Seasonal Amplitude)。年間における植物視覚貢献度の最大変動幅を示す指標。値が大きいほど顕著な季節変化を表す。

SDI

種多様性指数(Species Diversity Index)。異なる植物種の視覚貢献バランスを示す指標。1に近いほど多様で均衡な種構成を表す。

YRC

年間一貫性(Year-round Consistency)。年間を通じた視覚的特徴の安定性を測定する指標。1に近いほど季節を通じて一貫した視覚効果を示す。