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人の筋肉を使って複雑な計算ができる!

人の筋肉を使って複雑な計算ができる!

ウェアラブルシステムなどへの応用に期待

2025-3-27工学系
基礎工学研究科准教授小林 洋

研究成果のポイント

  • 人の生体組織(筋肉)を用いて、複雑な計算ができることを発見
  • 人の生体組織(筋肉)の変形場を物理リザバコンピューティングの中間層として利用できることを実証
  • 物理的な計算機が不要で、人の近くのあらゆる場所で計算処理を提供できることから、ウェアラブルシステムなどハードウェアレスな計算機への応用に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の小林洋准教授は、人の生体組織(筋肉)を利用して複雑な計算が可能であることを世界で初めて明らかにしました。

物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法を「物理リザバコンピューティング」と呼びます。これまで、物理リザバコンピューティングの中間層(リザバ層)として、光学系、力学系、量子系などさまざまなものが利用されてきましたが、人の組織を利用した例はありませんでした。

本研究では、人の生体組織の変形場を物理リザバコンピューティングのリザバ層として利用することを提案し、その実証として複雑な方程式を解くことに成功しました。これらのことは、人の組織が計算能力を有することを示しています。

これらの技術は、人の組織というその場にあるものを利用するため、ハードウェアレスな構成となり、人の近くのあらゆる場所で計算処理を提供できます。将来的に、ウェアラブルシステムなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「IEEE Access」に、2025年3月20日付けで掲載されました。

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図1. 人の組織変形を利用した計算

研究の背景

近年、物理系を利用してリザバコンピューティングを実現する物理リザバコンピューティングが注目されています。これまで、物理リザバコンピューティングの中間層として、光学系、力学系、量子系など、様々な物理系が利用されてきました。小林准教授は、これまで培った生体組織変形の特性に関する知見や研究を通じて、物理リザバコンピュータの情報処理精度が高くなる力学系の特性と、生体組織が持つ力学特性に多くの合致があることを見出していました。

研究の内容

研究グループは、人の生体組織の変形場を物理リザバコンピューティングの中間層(リザバ層)として利用することを提案しました。具体的には、人の筋肉のエコー画像を取得し、画像処理を行い、筋組織の変形場を取得し、物理リザバコンピューティングの中間層としました。

また、その手法を用いて、複雑な時系列非線形方程式を解くことが可能であることを実証しました。この非線形方程式は、ニューラルネットワークの評価としても使われている、非線形と遅れを有する複雑なものです。

実証では、手首の伸展運動を行い、筋組織の変形場を発生させました。また、その際の手首の関節角度を時系列非線形方程式への入力とし、出力を得ました。この出力を教師データとし、人の組織を利用した物理リザバ計算の出力層(リードアウト)を学習し、出力の予測値を得ました。その結果、予測値は出力を再現できており、このことは、人の組織を利用した物理リザバ計算で複雑な計算を行えることを示しています。

これらのことから、人の組織変形が計算能力を有することを発見しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

物理リザバコンピューティングでは、情報処理は中間層となる物理系が担うため、原理的に他の計算機を必要としません。この技術は、人の組織というその場にあるものを利用するため、ハードウェアレスな構成となり、人の近くのあらゆる場所で計算処理を提供できます。将来的に、ウェアラブルシステムなどへの応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年3月20日に米国科学誌「IEEE Access」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Information processing via human soft tissue: Soft tissue reservoir computing”
著者名: Yo Kobayashi
DOI: https://doi.org/10.1109/ACCESS.2025.3553140

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけJPMJPR23P2、JSPS科研費JP19H02112, JP19K22878, and JP23K18479の支援を受けて行われました。

参考URL

小林洋准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/d30b01b81066e742.html

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

物理リザバコンピューティング

物理リザバコンピューティングは、物理系の力学を利用して、複雑な計算問題を効率的に解決する計算手法です。従来のリザバコンピューティングのアプローチを物理現象に適用したものです。例としては、光学系、力学系、量子系などの物理的なシステムを「中間層(リザバ層)」として活用し、データ処理を行う手法です。物理リザバコンピューティングでは、情報処理は中間層となる物理系が担うため、対象とする計算を行う際、原理的に他の計算機を必要としません。

リザバコンピューティング

リザバコンピューティングは、ニューラルネットワーク(数理モデル)の一種で時系列情報処理に適した機械学習の枠組みの一つである「再帰的ニューラルネットワーク」の特殊なモデルを一般化した概念です。その特徴として、少量のデータにより極めて高速な学習が可能であり、低い学習コストで比較的高い計算性能が得られること、学習コストが低いことがあげられます。