“光でポリマーが動く様子”を 初めてナノスケールでリアルタイムに観察
ポリマーの光駆動メカニズムの解明に期待
お読みいただく前に
ポリマー(アゾポリマー)は、光を照射することによって光異性化反応によりユニークな表面構造を形成するため、さまざまな光デバイスへの応用が期待されています。しかし、形成メカニズムについては未だ未解明な部分が多く、デバイス応用へ向けてその解明が求められていました。これまでは、ポリマーに光照射した後に構造を観察・分析していましたが、今回開発した装置によって、ポリマーに光照射しながら、変形する様子をリアルタイムで高速原子間力顕微鏡によって観察することに成功しました。
研究成果のポイント
- 高い時空間分解能を持つ高速原子間力顕微鏡に光照射系を複合化することで、試料に局所的に光を照射した状態で同時に高速原子間力顕微鏡観察ができる装置を開発。
- 従来は、ポリマーに光照射した後に構造を観察・分析していた。今回の装置によって、ポリマーに光照射しながら、変形する様子をリアルタイムで高速原子間力顕微鏡によってその場観察することに成功。
- さまざまな光デバイスへの応用が期待される光駆動ポリマーの変形メカニズムの解明につながることが期待される。
- 光照射系を組み込んだ高速原子間力顕微鏡は、光駆動ポリマー以外にも、光応答性材料や光刺激で誘起される化学反応・生命現象など、さまざまな試料への応用が期待できる。
概要
大阪大学高等共創研究院の馬越貴之講師、大阪大学大学院工学研究科の大学院生の楊惠詩さん(博士前期課程)、大阪大学大学院生命機能研究科の石飛秀和准教授、名古屋大学大学院理学研究科の内橋貴之教授らの研究チームは、光で変形するアゾポリマー薄膜の変形過程を、高速原子間力顕微鏡を用いてナノスケールでリアルタイム観察することに初めて成功しました(図1)。さまざまな光デバイスへの応用が期待される光駆動ポリマーの変形メカニズムの解明につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年2月27日(火)に米国化学会の学術誌「Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。
図1. 光照射系を組み込んだ高速原子間力顕微鏡によるアゾポリマー薄膜変形過程のその場観察
研究の背景
アゾポリマー薄膜は、光を照射することによって光異性化反応によりユニークな表面構造を形成するため、さまざまな光デバイスへの応用が期待されています。しかし、形成メカニズムについては未解明な部分が多く、デバイス応用へ向けてその解明が求められていました。これまでは、アゾポリマーの表面構造を観察するために、原子レベルに先鋭な探針を二次元にスキャンしてナノスケールの空間分解能で観察できる原子間力顕微鏡が用いられてきました。しかし、探針を二次元スキャンするのに時間がかかるため、アゾポリマー薄膜に光照射した後に、変形後の構造を観察するしかなく、どのように変形していくのかその過程を観察することは困難でした。
研究の内容
本研究では、高速に探針を走査することによって動画撮影できる高速原子間力顕微鏡を用いて、変形中のアゾポリマー薄膜をリアルタイムでその場観察することに成功しました。光照射中のアゾポリマーを観察するために、光照射系を組み込んだ高速原子間力顕微鏡を構築しました(図2(a))。これにより、光を照射された状態のアゾポリマー薄膜を、同時に高速原子間力顕微鏡で観察できるようになります。光照射によって、2つの凸構造とその間に凹構造が形成される様子を、ナノスケールの空間分解能で動画撮影することに成功しました(図2(b))。本動画を解析することにより、ナノレベルの精度で移動速度などを解析することが可能です。また、光の偏光方向に応じて、形状が変化する様子も観察できました。さらに様々な条件でアゾポリマー薄膜を観察することによって、アゾポリマー変形メカニズムの解明に貢献できると期待されます。また、アゾポリマーを観察例として、光照射系を組み込んだ高速原子間力顕微鏡の有効性を示すことによって、光で応答するさまざまな試料・現象の観察に今後利用されていくことも期待されます。
図2. (a)開発した高速原子間力顕微鏡と光照射系の複合機。(b)光照射中のアゾポリマー薄膜の高速原子間力顕微鏡像
特記事項
本研究成果は、2024年2月27日(火)に米国化学会の学術誌「Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“In-situ real-time observation of photo-induced nanoscale azo-polymer motions using high-speed atomic force microscopy combined with an inverted optical microscope”
著者名:Keishi Yang, Feng-Yueh Chan, Hiroki Watanabe, Shingo Yoshioka, Yasushi Inouye, Takayuki Uchihashi, Hidekazu Ishitobi, Prabhat Verma, and Takayuki Umakoshi
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.3c04877
なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究B(研究代表者:馬越貴之、20H02658)、学術変革領域A「光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革」公募研究(研究代表者:馬越貴之、23H04590)、科学技術振興機構さきがけ「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」(研究代表者:馬越貴之、JPMJPR19G2)の支援を一部受けて実施されました。