地球質量の浮遊惑星候補を発見

地球質量の浮遊惑星候補を発見

地球質量の浮遊惑星が多く存在することを初めて発見

2023-7-19自然科学系
理学研究科教授住 貴宏

研究成果のポイント

  • 主星の周りを回らない浮遊惑星(自由浮遊惑星)候補天体を6個発見した。その内1個は地球質量程度であった(図1)。
  • 浮遊惑星の質量分布を初めて求めた。浮遊惑星は、恒星の20倍程度多く存在し、主星の周りを回る既知の惑星より約6倍多いことがわかった。銀河系全体では1兆個以上にもなる。
  • 特に地球質量程度の軽い浮遊惑星が、重たいものより多く存在することを発見した。つまり、主星の周りでできた惑星のうち地球の様な軽い惑星の多くは弾き飛ばされ浮遊惑星になったと考えられる。

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図1. 地球質量の浮遊惑星のイメージ.
CREDITS:NASA/GSFC

概要

大阪大学大学院理学研究科の住貴宏教授、越本直季特任助教(常勤)らの研究グループは、NASAなどと共同で、主星の周りを回らない浮遊惑星(自由浮遊惑星)候補天体を6個発見しました。その内1個は地球質量程度でした。これは地球質量の浮遊惑星としては、これまでで2例目です。この発見は、その天体の重力場による空間の歪みのために、背後の遠くにある星が明るくなって見える、重力マイクロレンズ現象を利用することで可能になりました(図2)。また、これらのデータから、どの質量の浮遊惑星がどれくらい存在するかを示す質量分布を初めて求めました。浮遊惑星は、主星の周りを回る既知の惑星より約6倍多いことがわかりました。特に地球質量の軽い浮遊惑星が多く存在することを発見しました。これにより、浮遊惑星の源は、主星の周りで形成された後、軽い惑星ほど高い確率で弾き飛ばされて浮遊惑星になると説明できます。

この研究は、日本・ニュージーランド・米国の共同研究グループMOAのニュージーランドにおける9年間にわたる観測により実現しました。これまで5千個以上の系外惑星が発見されていますが、これらは殆ど、主星の周りを回る惑星で、主星を伴わず単独で存在する浮遊惑星の発見数は少なく、その分布や存在量はわかっていませんでした。どの様な質量の浮遊惑星がどれくらい存在するのかを明らかにすることは、惑星の形成・進化を理解するのに役立ちます。本研究成果は、米国科学誌「The Astronomical Journal」に、掲載が決定しました。

本研究成果について、7月19日(水)午後11時(日本時間)からNASAにてプレスリリースが行われました。

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図2. 重力マイクロレンズ現象の概念図。
CREDITS:NASA/GSFC/CI lab

研究の背景

およそ30年前に初めて太陽系外惑星が発見されて以来、これまでに5千個以上の系外惑星が発見されています。これらのほぼ全ては主星である恒星の周りを回っています。これは、系外惑星の観測手法のほとんどが、惑星が主星に及ぼす影響を間接的に捉えることによって惑星を検出しているからです。

しかし、理論的には惑星が形成されるときに、幾つかの惑星は他の惑星によって軌道を乱されて、主星の重力圏外に弾き飛ばされ、浮遊惑星になると予想されています。惑星形成およびその進化を知るためには、現在主星の周りを回っている惑星だけでなく、この様に弾き飛ばされた惑星がどれくらい存在するかを知ることも重要です。

重力マイクロレンズ法は、唯一、主星の光に頼らずに、単独で存在する軽い惑星をその重力を介して検出できる方法です。これまでに数個の浮遊惑星候補が重力マイクロレンズによって発見されています。しかし、地球質量の様な軽い浮遊惑星は一個しか発見されておらず、それらの質量分布や存在量はわかっていませんでした。今回、9年間に渡る長期間の重力マイクロレンズ観測によって、単独で存在する浮遊惑星候補を系統的に探査し、その質量分布と存在量を初めて見積もることが可能になりました。

研究の内容

住教授、越本特任助教(常勤)らの研究グループMicrolensing Observations in Astrophysics (MOA)では、ニュージーランドにある1.8m MOA-II望遠鏡を用いて、重力マイクロレンズ現象を用いた系外惑星、暗黒物質の探査を行っています。重力マイクロレンズ現象とは、遠方の恒星(背景天体)の前を他の星(レンズ天体)が通過すると、その重力が周りの空間を歪めてレンズの様な働きをして背景天体からの光を一時的に増光する現象です。この現象は1936年にアインシュタインが予言しました。

MOAグループは、銀河系中心方向で毎年約600個のマイクロレンズで明るくなった星を発見しています。マイクロレンズ現象は、レンズ天体が軽いほど増光期間が短くなります。通常の星の場合、増光期間は数週間から2ヶ月程度ですが、0.5日以下の短いマイクロレンズ事象は、惑星質量である可能性が高くなります。

本研究は、MOAが2006-2014年までの9年間に観測したデータを系統的に解析して、6,111個のマイクロレンズ事象を発見し、一定の基準を満たす3,535個を選び出しました。その内6個は増光期間が0.5日以下の浮遊惑星候補でした。特にその内の1個MOA-9y-5919は、増光期間が0.06日と非常に短く、地球質量程度でした(図3)。これは、これまでに見つかった地球質量の浮遊惑星としては2例目です。数時間という短い増光現象を検出できる確率は非常に低く、2例見つかったということは、地球質量の浮遊惑星がありふれた存在であるということを示唆しています。

研究グループは、これら発見された全ての事象を統計的に解析することによって、浮遊惑星の存在量と質量分布を世界で初めて求めました。その結果、浮遊惑星は、地球質量の様に軽いものほど、より多く存在することがわかりました(図4)。また、浮遊惑星は星1個に対して20個程度(8-44個)も存在することがわかりました。銀河系には約2千億個の恒星があると考えられているので、銀河系には1兆個以上もの浮遊惑星が存在すると見積もられます。これは、これまで見つかっている主星の周りを回る惑星より約6倍以上多いものです。また、主星周りの惑星と比べて、10地球質量以上では主星周りの惑星の方が多い一方で、それ以下の軽い惑星では、浮遊惑星の方が多いことがわかりました(図4)。軽い惑星は、主星との束縛力は弱く重い惑星より弾き飛ばされ易いという予想と一致します。この様に、惑星形成とその進化を理解するためには、主星周りを回っている惑星だけではなく、弾き飛ばされたと考えられる浮遊惑星の存在量、質量分布を知ることが非常に重要で、今回の研究は、その理解に貢献できると期待されます。

昨年、住教授らの研究グループは南アフリカ共和国に新たに1.8m PRIME望遠鏡を建設しました。これは、従来の可視光による観測ではなく、近赤外線で観測することでより多くのマイクロレンズ事象を観測します。これにより今後より多くの浮遊惑星を見つける予定です。

さらに、NASAが2026年に打ち上げ予定のナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡は、宇宙から重力マイクロレンズ探査を行う予定で、数万個のマイクロレンズ事象を発見し、千個以上の主星を回る系外惑星を発見します。本研究では、このローマン宇宙望遠鏡が約1,000個の浮遊惑星候補を発見すると予想しています(そのうち約400個は、地球質量程度)。この観測により浮遊惑星の質量分布や存在量がより正確に明らかになり、系外惑星全体の形成過程と進化を明らかにできると期待されています。

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図3. 地球質量の浮遊惑星マイクロレンズ事象MOA-9y-5919の光度曲線。横軸は時間(日)で縦軸は増光率。上段:9年間。中段:増光部分の拡大。下段:赤線のモデルからの残差。

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図4. 浮遊惑星から恒星までの質量分布。横軸は質量。縦軸は存在量に比例。緑線は、浮遊惑星。青は、星と褐色矮星。赤線は、恒星、褐色矮星、浮遊惑星の合計。灰色は、主星周りの惑星。ピンクは保守的にみた浮遊惑星の不定性。10地球質量以上では主星周りの惑星の方が多いが、それ以下の軽い惑星では、浮遊惑星の方が多い。従って軽い惑星ほど弾き飛ばされて浮遊惑星になりやすいと考えられる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、現在星の周りに残っている惑星だけでなく、形成され弾き飛ばされた惑星も含む、形成された全ての惑星の存在量を測定可能になります。これにより系外惑星の形成過程と進化、ひいては人類が住む太陽系や地球の起源の解明につながると期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国科学誌「The Astronomical Journal」に掲載されることが決定しました。

· タイトル:“Terrestrial and Neptune mass Free-Floating Planet candidates from the MOA-II 9-year Galactic Bulge survey”
著者名:Naoki Koshimoto, Takahiro Sumi 他、
https://arxiv.org/abs/2303.08279 (arXiv)

· タイトル:“Free-Floating planet Mass Function from MOA-II 9-year survey towards the Galactic Bulge”
著者名:Takahiro Sumi, Naoki Koshimoto 他、
https://arxiv.org/abs/2303.08280 (arXiv)

なお、本研究は、JSPS科学研究費補助金による研究の一環として行われています。

参考URL

住貴宏教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/6018d641195594d3.html

NASA’s news release(現在非公開。日本時間7月19日(水)、11:00pm :公開) :
http://www.nasa.gov/feature/goddard/2023/new-study-reveals-nasa-s-roman-could-find-400-rogue-earths

NASAの参考資料(画像等):
画像:
https://drive.google.com/file/d/1HyfUvOZxJVd9WbA36O4KQ0tfuIycd4jH/view
画像、アニメーション:
https://svs.gsfc.nasa.gov/20315#media_group_6032

SDGsの目標

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 10 人や国の不平等をなくそう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

用語説明

MOA

日本、ニュージーランド、米国の国際共同研究グループ。ニュージーランド南島のマウントジョン天文台で重力マイクロレンズ観測を1996年から続けています。

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡

NASAが2026年に打ち上げを計画している宇宙望遠鏡。口径はハッブル宇宙望遠鏡と同じ2.4mだが視野が100倍広く、銀河系中心の重力マイクロレンズ探査などが計画されています。