個人の味覚感度の数値化に成功

個人の味覚感度の数値化に成功

苦味を受けとる遺伝子の解析と客観性の高い味覚検査を組み合わせて

2023-6-19
連合小児発達学研究科寄附講座助教青木京子

研究成果のポイント

  • 遺伝子の解析と詳細な味覚検査を組み合わせることにより、個人の味覚感度を数値化。
  • 苦味を受けとる遺伝子のタイプによって苦味の感度が大きく異なっていた。
  • これまで味覚検査は主観的方法に頼っていたが、客観的・統計的な方法を用いることで個人の味覚感度を数値として示せるようになり、個人間の比較が可能に。
  • 遺伝子の違いによって生じる味覚感度の個人差を考慮することで、味覚障害の有無を予測できる可能性があり、臨床課題への応用に期待。

概要

大阪大学大学院連合小児発達学研究科(片山泰一研究室)、先端治療・栄養学寄附講座の青木京子寄附講座助教らと大阪国際がんセンターの飯島正平主任部長らの研究グループは、味覚を受けとる遺伝子の解析と客観的・統計的な味覚検査を組み合わせることにより、個人の味覚感度を数値化することに成功しました。

ヒトの味覚は舌の表面にある味細胞で知覚されます。ヒトの味覚感度には個人差があることが知られていますが、これまでの味覚検査は主観的方法に頼っており、個人間での味覚感度の違いは不明確でした。

今回、研究グループは、すでに視覚分野で確立していた客観的・統計的に個人の感度を測る手法を味覚分野に適用することで、個人間の味覚感度を数値で比較することに成功しました。遺伝子の違いによって生じる味覚感度の個人差を考慮することで、味覚障害の有無を予測できる可能性があり、臨床課題への応用が期待されます。

本研究成果は国際科学雑誌「Nutrients」15号2415に、2023年5月22日にオンライン掲載されました。

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研究の背景と成果

ヒトの味覚は舌の表面にある味細胞で知覚されます。ヒトの味覚感度には個人差があることが知られています。これまでの味覚検査方法は主観や偶然によって影響されやすく、互いの味覚感度がどの程度違うのかわかりませんでした。

研究グループは、味覚受容体の遺伝子解析と客観的・統計的な味覚検査方法(二肢強制選択課題を用いたQUEST法)を組み合わせることにより、個人の味覚感度を連続した数値として推定しました。

味物質はいろいろな受容体遺伝子に重複して受けとられることが多いですが、今回、アブラナ科の野菜の苦味だけを受けとる苦味受容体遺伝子TAS2R38に着目して遺伝子を解析しました。味覚検査にはアブラナ科の野菜の苦味と似た成分を用いました。被験者は苦味を含む液と純水を順に口に含み、味のする方を答えます。回答が正解か不正解かによって味覚感度はそのつど推定されます。濃度を変えて続け、信頼区間が十分狭くなったときに実験は終了し、その人がぎりぎり感知できる苦味の濃度(閾値・感度)が決定されます。この客観的・統計的に個人の感度を測る手法は、これまで主に視覚分野において用いられてきましたが、今回、この手法を味覚分野へ適用しました。

その結果、苦味受容体遺伝子TAS2R38のタイプによって苦味感度が大きく異なりました。感度が高いタイプの遺伝子をもつ人と低いタイプの遺伝子をもつ人では苦味感度に何十倍もの違いがありました。味を受けとる遺伝子の違いによって味覚感度に大きな個人差があることがわかりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、個人の味覚の感度を連続した数値で表すことができるようになり、個人間の比較が可能になりました。また、遺伝子の違いによって生じる味覚感度の個人差を考慮することで、薬剤投与時の副作用等による味覚障害の有無を予測できる可能性があります。前もって味覚受容体遺伝子のタイプを調べておけば、味覚感度の高いタイプの人ほど味覚変化も感じやすいと予想されます。そうしたタイプの人へ向けて早めの対処ができれば味覚障害の軽減といった臨床課題への貢献が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年5月22日に国際科学雑誌「Nutrients」15号2415にオンライン掲載されました。

タイトル:“Association between Genetic Variation in the TAS2R38 Bitter Taste Receptor and Propylthiouracil Bitter Taste Thresholds among Adults Living in Japan Using the Modified 2AFC Procedure with the Quest Method”
著者名:Kyoko Aoki, Kanetaka Mori, Shohei Iijima, Masato Sakon, Nariaki Matsuura, Tsuneto Kobayashi, Masashi Takanashi, Takeshi Yoshimura , Norio Mori and Taiichi Katayama

なお、本研究はI&H株式会社(研究当時 [旧 株式会社阪神調剤薬局])の奨学寄附金、サラヤ株式会社の奨学寄附金、日本学術振興会の科学研究費補助金による支援を受けて行われました。

用語説明

味覚受容体

味物質と結合し、そのシグナルを細胞内へ伝えるタンパク質です。苦味物質を受けとる苦味受容体はTAS2R遺伝子ファミリーを形成します。味物質はいろいろな受容体遺伝子に重複して受けとられることが多いですが、TAS2R38遺伝子はアブラナ科の野菜の苦味だけを受けとる、味物質との特異性の高い遺伝子です。

客観的・統計的な味覚検査方法(二肢強制選択課題を用いたQUEST法)

今回の味覚検査では、2つの選択肢からどちらか1つを必ず選ばなくてはならない課題を用い、ベイズ統計推定を取り入れたQUEST法を味覚感度の推定に適用しました。この方法は被験者の回答をもとに感度が決定されるため、被験者や主催者の主観が反映されにくい客観的かつ統計的な検査方法です。

アブラナ科の野菜の苦味

アブラナ科の野菜、例えばブロッコリー、キャベツ、ナノハナなどには少し苦味があります。この野菜の苦味成分と似た化学構造をもつプロピルチオウラシル (PROP)という合成物質を用いた味覚検査が行われています。今回の味覚検査には、このPROPの苦味を用いました。PROPへの苦味感受性とTAS2R38遺伝子のタイプ間に関連があることが知られており、今回さらに詳細な解析を行いました。