水の添加により電気化学的窒素―アンモニア変換効率が向上!

水の添加により電気化学的窒素―アンモニア変換効率が向上!

窒素と水から常温・常圧でアンモニアを合成するための第一歩

2023-3-16工学系
産業科学研究所准教授片山 祐

お読みいただく前に

アンモニアの主な合成プロセスであるハーバーボッシュ法は、極めてエネルギー消費の大きなプロセスであることが知られています。そこで、常温・常圧でアンモニアを合成するプロセスの検討が行われてきました。中でも、電気化学的に窒素を還元しアンモニアを合成するプロセスは、スケールアップが容易であることなどの特長から、近年注目を集めています。理想的な電気化学的窒素―アンモニア変換システムは、窒素源として窒素ガスを、水素源として水を用いるものになります。しかし、既報のシステムでは、水を添加することで競合する水の還元反応が優先的に進行してしまい、窒素―アンモニア変換効率が劇的に低下してしまうことが課題でした。

研究成果のポイント

  • 水の電解液への添加により電気化学的な窒素―アンモニア変換効率が向上することを発見
  • 水と電解液の構成成分(溶媒・リチウム塩)の比率を精密に制御することで、窒素―アンモニア変換効率の向上に成功
  • 水をプロトン源とした理想的な窒素―アンモニア変換システム(窒素と水と電力でアンモニアを合成)実現の第一歩

概要

大阪大学産業科学研究所の片山 祐准教授らの研究グループは、英国インペリアルカレッジロンドンの研究グループと共同で、水の電解液への添加により電気化学的な窒素―アンモニア変換効率が向上することを世界で初めて明らかにしました。

これまで水を含む電解液では、窒素―アンモニア変換反応(すなわち窒素の還元反応)の競合反応である、水―水素変換反応(水の還元反応)が優先的に進行してしまうため、水を含む電解液で窒素―アンモニア変換反応を進行させることは困難だと考えられていました。

今回、片山准教授らの研究グループは、水と電解液の構成成分(溶媒・リチウム塩)の濃度を精密にコントロールすることにより、水を含む電解液で窒素―アンモニア変換反応の効率が向上することを解明しました(図1)。これにより、これまで難しいと考えられてきた、窒素と水を原料とする理想的な窒素―アンモニア変換反応の実現が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「ACS Energy Letters」に、1月31日に公開されました。

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図1. 窒素―アンモニア変換の電流効率とリチウム塩濃度と水分子添加量の関係。

研究の背景

アンモニアの主な合成プロセスであるハーバーボッシュ法は、極めてエネルギー消費の大きなプロセスであることが知られています。そこで、常温・常圧でアンモニアを合成するプロセスの検討が行われてきました。中でも、電気化学的に窒素を還元しアンモニアを合成するプロセスは、スケールアップが容易であることなどの特長から、近年注目を集めています。理想的な電気化学的窒素―アンモニア変換システムは、窒素源として窒素ガスを、水素源として水を用いるものになります。しかし、既報のシステムでは、水を添加することで競合する水の還元反応が優先的に進行してしまい、窒素―アンモニア変換効率が劇的に低下してしまうことが課題でした。

研究の内容

片山准教授らの研究グループでは、水と電解液の構成成分(溶媒・リチウム塩)の濃度を精密にコントロールすることにより、電気化学的窒素―アンモニア変換効率が向上することを世界で初めて見出しました。これは、電解液組成の精密制御による溶媒和構造の最適化や、それによる電極表面に形成する保護膜(Solid electrolyte interphase; SEI)の特性向上による、窒素―アンモニア変換反応の促進に由来するものと考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、不可能と思われてきた、窒素と水を出発原料とする理想的な電気化学的窒素―アンモニア変換システムの実現に向けた第一歩です。今後、既報の電気化学的窒素―アンモニア変換で水素源として使用されてきたアルコールなどの有機分子を水分子に置き換えることで、二酸化炭素フリーなアンモニア合成の実現が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年1月31日に米国科学誌「ACS Energy Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Water Increases the Faradaic Selectivity of Li-Mediated Nitrogen Reduction”
著者名:Matthew Spry, Olivia Westhead, Romain Tort, Benjamin Moss, Yu Katayama,Maria-Magdalena Titirici, Ifan E. L. Stephens, and Alexander Bagger
DOI:https://doi.org/10.1021/acsenergylett.2c02792

なお、本研究は、NEDO クリーンエネルギー分野における国際共同研究開発事業(JPNP20005)、科学研究費助成事業 若手研究の一環として行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう

用語説明

ハーバーボッシュ法

鉄系触媒上で、窒素と水素を 400–600度、200–1000 atmの超臨界流体状態で直接反応させることでアンモニアを生産する方法。本プロセスでのエネルギー消費量は、全世界のエネルギー消費量の数%を占めると言われている。

窒素―アンモニア変換効率

システムに流れた電流のうち、窒素―アンモニア変換反応(窒素還元反応)に使われた電流の占める割合から算出される。代表的な副反応としては、電解液の還元分解、(水が含まれている場合は)水の還元による水素発生反応などが挙げられる。

溶媒和構造

電解液中の構成イオン(今回の場合は主にリチウムイオン)が、電解液のその他の構成成分(今回の場合はTHF溶媒やClO4イオンなど)との弱い相互作用によって取り囲まれ、形成する構造のこと。溶媒和構造によっては、中心イオンの電気化学的性質などに影響を及ぼす。

SEI

Solid electrolyte interphase の略で、電解液の分解により電極表面上に形成する薄い膜のこと。リチウムイオン電池の研究開発の中で存在が提唱され、その組成に応じてさまざまな機能をもつと言われている。SEIの組成は電解液の構成成分や組成を変化することにより制御できると考えられており、本研究でも水の添加によるSEI組成の変化が観察されている。