観察とレーザー治療を同時に実現! 細径イメージガイドレーザー焼灼技術を開発

観察とレーザー治療を同時に実現! 細径イメージガイドレーザー焼灼技術を開発

低侵襲レーザー治療の適用範囲を拡大する新技術

2023-2-28生命科学・医学系
工学研究科助教西村隆宏

研究成果のポイント

  • mmオーダーの狭隘空間で観察と治療を実現するイメージガイドレーザー照射技術を開発
  • 血管モデル内でのレーザー照射の自在な制御を実現
  • 細径の管腔臓器内での低侵襲な内視鏡手術への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の西村隆宏助教、大学院生の三好悠斗さん(博士前期課程)、下条裕さん(博士後期課程)、粟津邦男教授、大阪大学国際医工情報センターの岡山慶太特任講師(常勤)らの研究グループは、血管のような狭い空間へも挿入可能でありながら、内視鏡観察とレーザー治療光の自在な制御を同時に実現する、レーザーマイクロサージェリー技術を世界で初めて開発しました。

レーザー光を適切に照射できれば、周辺の生体組織への損傷を抑えつつ、病変を効率的に治療できます。レーザー治療は、低侵襲治療として様々な診療科で用いられていますが、内視鏡下で安全で正確に実施するには微細なレーザー走査技術が必要になります。

今回、本研究グループは、ファイバーバンドルスキャニング技術を応用し、血管内視鏡等に用いられる光ファイバー技術を基に、内視鏡観察とレーザースポット走査を同時に実現しました。血管内のような狭隘な空間においても、病変部を観察しながら狙った箇所へレーザー照射し、レーザーによる生体組織の凝固と蒸散を制御できることを示しました(図1)。これにより、低侵襲なレーザー治療の適応可能な領域の拡大が期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」に、2月28日(火)19時(日本時間)に公開されました。

20230228_1_1.png

図1. イメージガイドレーザー照射システムのデモンストレーションの様子

研究の背景

レーザ一を用いた生体組織の凝固・蒸散の制御技術は、幅広い診療科で低侵襲治療に貢献しています。しかしながら、従来の技術では内視鏡画像観察のためのイメージング用ファイバーと、治療のためのレーザー照射用ファイバーを別々に実装する必要があり、血管内など体内の限られた空間において、患者に負担をかけない細径のシステムで観察と治療を両立することが困難でした。

研究の内容

本研究グループでは、ファイバーバンドルスキャニング技術を応用し、一本の光ファイバーバンドルを介して、病変部の観察と治療のためのレーザー光走査を同時に実現する、イメージガイドレーザー照射技術を開発しました(図2)。

直径ミリメートルオーダーの血管のような微細な空間において、病変部を観察しながら、狙った箇所に治療用レーザー光を照射することができ、レーザーによる凝固と蒸散の位置を数10マイクロメートルの誤差内で制御できることを示しました(図3)。

20230228_1_2.png

図2. 開発したイメージガイドレーザー照射の概念図
本研究ではレーザー照射と観察を一本の光ファイバーバンドルを介して実現しました.

20230228_1_3.png

図3. イメージガイド下でのレーザー凝固・蒸散
レーザー治療で用いられることの多い熱作用を空間的に制御できました.

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、血管内のような体内の狭く限られた空間において、病変部を観察しながらピンポイントにレーザー治療を行うシステムの実現につながります。心臓の冠動脈や下肢末梢血管の治療など、既にレーザーが利用されている分野の治療をより安全で低侵襲なものにするだけでなく、これまで適用が難しいとされてきた領域におけるイメージガイド手術への拡がりも期待できます。超高齢化社会を迎える我が国において、今後さらに需要が高まる低侵襲治療のための新たなモダリティとして展開が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2023年2月28日(火)19時(日本時間)に国際科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Endoscopic image-guided laser treatment system based on fiber bundle laser steering”
著者名:Yuto Miyoshi, Takahiro Nishimura, Yu Shimojo, Keita Okayama, and Kunio Awazu
DOI: https://www.nature.com/articles/s41598-023-29392-4

本研究の一部は、日本学術振興会科研費20H04549、21H05592、また、科学技術振興機構ACT-X JPMJAX21K7の助成を受けたものです。

参考URL

用語説明

イメージガイドレーザー照射

画像情報をモニターしながら狙った位置へ治療のためのレーザーを照射する。これを用いて病変部を観察しながら治療を行うことで、より低侵襲な治療が期待される。

レーザーマイクロサージェリー技術

レーザー光を集光するなどして局所領域にレーザー組織相互作用を誘起し,周辺組織の損傷は最小限に抑えて病変の切除を行う治療技術。

ファイバーバンドルスキャニング

複数のコアをもつ光ファイバーを介して、レーザースポットの位置を走査する技術。