世界最高速度を達成!電気化学的なCO2の還元資源化

世界最高速度を達成!電気化学的なCO2の還元資源化

2022-12-16工学系
基礎工学研究科准教授神谷和秀

研究成果のポイント

  • 世界最高の変換速度(電流密度)で CO2から多炭素有機化合物を合成することに成功
  • 電極や電気化学セルのサイズ低減に直結するCO2変換の高速化(電流密度化)は、社会実装の観点からの重要課題
  • グリーントランスフォーメーション(GX)実現の一端を担うと期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の大学院生の井上明哲さん(博士前期課程2年)、同附属太陽エネルギー化学研究センターの中西周次教授、神谷和秀准教授らの研究グループは、世界最高速度(最高電流密度)でCO2から多炭素有機化合物を合成することに成功しました。

地球温暖化ガスであるCO2の還元資源化技術の開発は炭素循環型社会構築に向けて極めて重要です。電気化学CO2還元反応は常温・常圧条件で進行することに加え、高付加価値な多炭素有機化合物を一段階で合成できることから、効率的なCO2還元資源化技術として関心を集めています。この技術の実用化には駆動電圧の低減などと並び、電流密度を飛躍的に向上させることが不可欠です。しかし、従来はCO2変換反応場である電極(三相界面)の設計指針が確立されておらず、その電流密度はほとんどの場合0.5 A/cm2程度にとどまっていました。

今回、神谷准教授らの研究グループは、金属銅ナノ粒子およびガス拡散電極から成る三相界面を精密に設計することで、1.7 A/cm2の世界最高の電流密度でCO2から多炭素有機化合物を合成することに成功しました。本成果はCO2を高速・大量に資源化できる技術として、グリーントランスフォーメーション(GX)実現の一端を担うと期待されます。
本研究成果は、英国王立化学会から新規に創刊される「EES Catalysis」に、2022年11月3日に公開されました。

研究の背景

産業革命以降の化石燃料に依存した人類の活動によって、地球温暖化ガスであるCO2が大量に大気中に排出されたことで地球規模での炭素循環に大きな乱れが生じています。真の炭素循環社会、ひいては持続可能な社会を構築するためには、既存技術におけるCO2排出量の削減に加え、CO2を還元的に資源化する技術の開発が必要です。電気化学的手法は、常温・常圧のプロセスであることから原理的にエネルギー変換効率が高く、熱エネルギーを用いた反応系と比較して小型化できることから、小規模分散型の技術としての期待を集めています。電気化学的なCO2還元資源化技術を社会実装するためには、高付加価値な生成物を高選択的かつ高速で生成する反応系の開発が必要です。金属銅はエチレン、エタノール、プロパノールなどの多炭素有機化合物を合成できる電極触媒材料として、広く研究されてきました。近年では銅ナノ粒子をガス拡散電極に担持することによる反応高速化の試みが活発になっています。ガス拡散電極でのCO2還元反応はCO2(気体)/電解液(液体)/触媒(固体) から成る三相界面において進行します(図1)。しかし、CO2還元反応における三相界面はその構造の複雑さに起因し、高速化の観点からの設計指針が十分に確立されていませんでした。

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図1. 電気化学CO2還元セル(右)と反応が進行する三相界面構造(左)

研究の内容

神谷准教授らの研究グループでは、三相界面の面積を最大化するといった指針に基づき、金属銅ナノ粒子から成る触媒層の厚みや多孔性を制御することで、高電流密度に適した三相界面を構築しました。その結果、中性電解質中において電流密度1.7 A/cm2でCO2から多炭素有機化合物を合成することに成功しました。さらに、より反応が進行しやすいアルカリ電解質を用いた場合には、多炭素有機化合物の合成に関わる電流密度はさらに向上し1.8 A/cm2に達しました。これらの電流密度は、それぞれの液性の電解質において報告されている中で最も高い値です(図2)。

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図2. (a)中性および(b)アルカリ電解質中での多炭素有機化合物生成の電流密度と反応選択性および既報との比較

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本成果はCO2を高速・大量に資源化できる技術として、グリーントランスフォーメーション(GX)実現の一端を担うと期待されます。また、処理速度が一定の場合は、CO2還元反応に必要な電極や電気化学反応セルのサイズを大きく低減することができるため、導入コストの抑制に繋がると期待されます。今後は作動電圧の低減や、耐久性向上に向けた取り組みが必要になります。

特記事項

本研究成果は、2022年11月3日に英国王立化学会誌「EES Catalysis」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Ultra-high-rate CO2 reduction reactions to multicarbon products with a current density of 1.7 A cm-2 in neutral electrolytes”
著者名:Asato Inoue, Takashi Harada, Shuji Nakanishi and Kazuhide Kamiya
DOI:10.1039/D2EY00035K

この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP18016)の結果得られたものです。また、本研究成果の一部は「戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR18R3)および科学研究費助成事業基盤B(20H02568、研究代表者:神谷和秀)による支援を受けて行いました。

参考URL

神谷和秀准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/745e5f8f68c396d8.html

中西周次教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/16becbf5b7b6090e.html

SDGsの目標

  • 02 飢餓をゼロに
  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

多炭素有機化合物

炭素-炭素結合(C-C結合)を有する有機化合物。単炭素有機化合物(メタンなど)に比べて工業的汎用性が高い。特にエチレンやエタノールなどは化学原料などとして有用で、その高効率生成が望まれている。

グリーントランスフォーメーション(GX)

気象変動の要因として考えられる地球温暖化ガスの排出削減と経済成長の両立を目指す取り組み。CO2を高速で付加価値の高い多炭素有機化合物へと変換する本技術はグリーントランスフォーメーション達成に向けた要素技術であると言える。

三相界面

気体/液体/固体の三相が共存する界面。本研究では、CO2(気体)/電解液(液体)/触媒(固体)から成る三相界面においてCO2還元反応が進行している。

ガス拡散電極

反応基質をガス状のまま反応界面へと供給するために設計された多孔性炭素電極。燃料電池の分野で研究が進められ、昨今では電気化学CO2還元反応にも適用されはじめている。