非接触で表層にある微小欠陥を検出

非接触で表層にある微小欠陥を検出

金属3Dプリンタ造形体中の微小欠陥をなくすための基礎技術

2021-9-16工学系
工学研究科教授林高弘

研究成果のポイント

  • 非接触で固体材料表層にある微小欠陥を画像化する技術
  • レーザ照射により発生させた超音波が表層の欠陥部で共振する現象を利用
  • 金属3Dプリンタで造形中に現れるマイクロメートルオーダーの微小欠陥でも検出が可能
  • 造形中に検査を行い、直ちに補修すれば、微小欠陥のない造形体の実現が期待できる

概要

大阪大学大学院工学研究科の林高弘教授、森直樹助教らの研究グループは、金属3Dプリンタの造形体に発生する微小欠陥を非接触で画像化する技術を発表しました。

パウダーベッド方式の金属3Dプリンタでは、薄い金属粉末の層ごとに焼結・溶融して形状を構築するため、マイクロメートルオーダーの微小な欠陥が残ることが多く、強度の必要な部品や構造部材への適用は広がっていないのが現状です。

今回、林教授らの研究グループは、レーザ照射により造形体中に非接触で発生させた超音波を利用して表層の微小欠陥を画像化する技術(図1)を開発しました。これにより、造形プロセスの途中に欠陥検出が可能となることから、その場での補修も実現でき、金属3Dプリンタ造形体の品質と信頼性の飛躍的な向上が期待できます。

本研究成果は、学術雑誌「Ultrasonics」(エルゼビア社)に8月25日(水)にオンライン掲載されました。

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図1. 実験システムの概要図と欠陥画像の一例

研究の背景

パウダーベッド方式の金属3Dプリンタでは薄い金属粉末の層ごとに焼結・溶融して造形箇所のみを固めることを繰り返し、3次元形状を作成します。そのため、これまでの切削加工では実現できない形状の部品の製作が可能となっていますが、空隙や溶融不備などにより微小な欠陥が発生しやすく、造形体の強度低下を引き起こしていました。さらに、完成した造形体は複雑な形状であることが多く、完成後の検査は困難なものがほとんどでした。造形体表面に現れる欠陥であれば、カメラ画像などで検出可能ですが、表層近傍に埋もれる欠陥も多く、その検出技術が課題となっていました。

林教授らの研究グループでは、レーザ照射により発生した超音波を利用して、表層近傍にある微小欠陥を非接触で画像化できる技術を開発し、造形しながら検査が可能となる基礎技術を完成させました。

研究の内容

林教授らの研究グループでは、レーザ照射により造形体中に非接触で発生させた超音波を利用して表層の微小欠陥を画像化する技術(図1)を開発しました。この技術は主にパウダーベッド方式の金属3次元積層造形の造形中欠陥モニタリングに利用できます。

これまで当研究グループでは、レーザ照射によって薄板に発生するガイド波の性質を利用して、平板やパイプのような薄板状材料中の減肉や剥離を画像化する技術を開発してきました。この手法では、検査対象物全体に拡散した音場(拡散場)を利用することで、複雑な形状であっても表層近傍の欠陥が画像化できるという特長を有しています。これまでは配管中に広がる減肉や航空機ボディなどの炭素繊維複合材料中に現れる剥離を対象としていたため、10mm以上の欠陥サイズの検出を目的とした研究を行っており、用いる超音波の周波数帯域はせいぜい100 kHz以下でした。

一方、金属3次元積層造形中に現れて問題になる欠陥サイズは、数十μm~数百μm程度であり、この検出には、数MHz~数十MHzのより高い周波数帯域を用いる必要があると予想されました。レーザにより超音波を発生させる際、強力かつ数十ns程度の時間幅のレーザパルスを照射することで、MHz帯域を含む広帯域超音波を発生させることが可能ですが、発生する超音波のエネルギが小さく、対象物全体に拡散した音場を計測することができませんでした。

そこで、本研究では、高繰り返しのレーザパルスを対象物に照射することで、信号レベルの高い広帯域超音波を発生させ(図2)、表層から250μmの深さにある500μm程度の微小欠陥の画像化に成功しました。さらに、微小欠陥部分での局所的な共振により欠陥画像が鮮明に得られることを突き止め、今後、より小さい欠陥を検出するためには、数十 MHz程度の周波数帯域を用いればよいという指針を示しました。

この技術は、パウダーベッド方式の金属3次元積層造形のビルドプレートなどに超音波センサを取り付けて計測すれば実現できるため、造形中の検査が可能となることが期待できます。

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図2. シングルショットのレーザパルスにより発生する超音波と高繰り返しレーザパルスによる超音波の比較
繰り返しパルスを与えることで、広帯域でありながら大きな超音波エネルギを発生させることができる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、金属3Dプリンタによる造形時に発生する表層の欠陥を造形中に検出できるようになります。表層近傍の欠陥は、その場で補修ができるため、欠陥のない造形体の安定的な製造が期待できます。

特記事項

本研究成果は、現在特許出願中(特願2021-24558)です。また、2021年8月25日(水)に「Ultrasonics」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Non-contact imaging of subsurface defects using a scanning laser source”
著者名:Takahiro Hayashi1, Naoki Mori1, and Tomotake Ueno2
1 大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻
2 大阪大学工学部 応用理工学科 機械工学科目 4年(研究当時)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.ultras.2021.106560

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)の一環として行われ、金属3次元積層造形について、大阪大学大学院工学研究科の中野貴由教授、大阪大学接合科学研究所の塚本雅裕教授、佐藤雄二准教授の助言を得て遂行されました。

参考URL

SDGs目標

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用語説明

パウダーベッド方式

金属3Dプリンタによる造形方式の一つ。薄く敷き詰めた金属粉末の層に対し、造形したい箇所に電子ビームやレーザを照射し、金属粉末を焼結・溶融して一層分の造形を行う。金属粉末の層を積み上げながら、このような一層分の造形を繰り返すことで、3次元的な造形体が完成する。

ガイド波

平板やパイプのような薄板状の構造や棒材や鉄道レールのような棒状材料を伝って長手方向に伝搬する超音波伝搬形態のこと。

拡散場

閉領域の固体材料中や空間中に波が広がって、壁面からの多重反射により空間全体に一様に広がった状態をいう。本欠陥検出技術では、欠陥のある箇所にレーザを照射すると局所的な共振によって大きく振動エネルギが発生することを利用しており、固体材料中を拡散した後のある時刻の音場は、その発生エネルギに比例して材料中に存在しているので、拡散後のある位置の振動エネルギを検出すれば、レーザ照射点における欠陥の有無が判定できる。