集合体の”形”を決めるメカニズム 分子認識相互作用の強さによって制御

集合体の”形”を決めるメカニズム 分子認識相互作用の強さによって制御

生物の多様な形状の起源に迫る

2021-3-18自然科学系
理学研究科教授橋爪章仁

研究成果のポイント

  • 分子認識相互作用の強さを調整することによって集積体の形状の制御に成功
  • これまで用いられたミリメーターサイズのゲルでは集積体の形状の評価ができなかったが、高吸水性ポリマー球状マイクロ粒子を用いた統計的な解析によって集積体の形状の評価が可能に
  • 分子認識に基づいた巨視的集合体である生物が多様な形状を示す起源の解明に期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の橋爪章仁教授および産業科学研究所の原田明特任教授(常勤)らの研究グループは、相互作用残基として環状オリゴ糖(β-シクロデキストリン(β-CD))とアダマンタン(Ad)を導入した高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子(直径約100〜200 μm)が形成する集積体の形状が相互作用残基の導入量を調整することによって制御できることを世界で初めて明らかにしました(図1、図2)。

これまでに、本研究グループでは、環状オリゴ糖(ホスト)およびホストと相互作用するゲストを導入したゲルを用い、分子認識の直接観察に成功していました。その際、相互作用の強さによって形成されるゲル集積体の形状が異なることに気づいていましたが、その詳細は解明されていませんでした(例えば、Harada, A. et al., Nat. Chem. 2011, 3, 34)。

今回、本研究グループは、高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子を用いることにより、多数のマイクロ粒子による相互作用実験が可能となり、結果の統計的な解析により、相互作用が強くなるほど長細い形状の集積体が形成することを解明しました。これにより、分子認識に基づく巨視的集合体である生物が多様な形状を示す起源の解明に繋がることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、3月18日(木)19時(日本時間)に公開されました。

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図1. β-シクロデキストリンマイクロ粒子(βCD(x)-SAP,無色粒子)とアダマンタンマイクロ粒子(Ad(y)-SAP, 赤色粒子)から形成された集合体の光学顕微鏡写真。βCD導入量xは26.7 mol%、Ad導入量yは5.2 mol%と15.1 mol%。

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図2. 集積体のアスペクト比a/bとAd導入量yとの関係。yが大きく相互作用が強いほど長細い集積体が形成します。

研究の背景

これまで、本研究グループでは、環状オリゴ糖(ホスト)と相互作用するゲストを導入したゲルを用い、分子認識を直接観察することに成功していました。その際、相互作用の強さによって形成されるゲル集積体の形状が異なることに気づいていましたが、用いるゲルが少数であったために、集積体の形状を解析することができないという課題がありました。

本研究グループの今回の研究では、高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子を用いることで多数の粒子の相互作用実験が可能となり、集積体の形状を楕円近似により評価することに成功しました。その結果、相互作用残基の導入量の増加により、集積体がより長細い形状を取ることを解明しました。この結果は、長年研究されてきたコロイド粒子の凝集理論からも裏付けられました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

生物はいろいろな形をしています。生物は、細胞同士がその表面に存在する分子の分子認識を介して特定の位置や配列で集合(自己組織化)することにより形成されます。本研究成果により、細胞の自己組織化過程における巨視的集合体の形状制御についての起源の解明が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年3月18日(木)19時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されました。

タイトル:“The macroscopic shape of assemblies formed from microparticles based on host–guest interaction dependent on the guest content”
著者名:Takahiro Itami, Akihito Hashidzume, Yuri Kamon, Hiroyasu Yamaguchi, and Akira Harada
DOI:10.1038/s41598-021-85816-z

なお、本研究は、大阪大学 大学院理学研究科 山口浩靖教授および香門悠里講師の協力を得て行われました。

参考URL

橋爪 章仁 教授 研究者総覧
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=2142&k=%E6%A9%8B%E7%88%AA+%E7%AB%A0%E4%BB%81&kc=1&sm=keyword&sl=ja&sp=1

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 高分子精密科学研究室
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/hashidzume/index.html

SDGs目標

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用語説明

高吸水性ポリマー

自重の数百倍以上の水を吸収する高分子。一般には架橋ポリアクリル酸ナトリウムが用いられている。

球状マイクロ粒子

マイクロメーターサイズの球状微粒子。

環状オリゴ糖

いくつかの単糖がグリコシド結合によって環状につながった分子。

シクロデキストリン

グルコースを単位とする環状オリゴ糖。グルコース単位が6個のものをα-シクロデキストリン、7個のものをβ-シクロデキストリン、8個のものをγ-シクロデキストリンと呼ぶ。シクロデキストリンは環の大きさに応じた分子を取り込むため、さまざまに活用されている。

アダマンタン

分子式C10H16の炭化水素で炭素原子がダイヤモンドと同じように配置されたかご型分子。β-シクロデキストリンに安定に取り込まれることが知られている。

ゲル

架橋された高分子が溶媒を含んでいる状態。

アスペクト比

楕円の長軸と短軸の比。

コロイド粒子

直径が1 nmから1 μm程度の小さな粒子。光を強く散乱するチンダル現象や、溶媒分子の衝突でランダムに動くブラウン運動を示す。