集合体の“形”を決めるメカニズム 「添加物」によって球状マイクロ粒子集合体の形を制御!

集合体の“形”を決めるメカニズム 「添加物」によって球状マイクロ粒子集合体の形を制御!

生物の多様な形状の起源に迫る

2024-9-12自然科学系
理学研究科教授橋爪章仁

研究成果のポイント

  • 第三成分の添加によって高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子の集合を促進し、分子の集合体の形状を制御することに成功
  • 球状マイクロ粒子の巨視的な集合挙動を分子レベルでの平衡に基づいて解析
  • 生物が多様な形状を示す起源の解明に期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の橋爪章仁教授および産業科学研究所の原田明特任教授らの研究グループは、高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子に第三成分を添加することにより、相互作用の強さを変化させ、集合体の形状が制御できることを解明しました。

これは、相互作用残基として環状オリゴ糖(β-シクロデキストリン (β-CD))とアダマンタン(Ad)を導入した高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子(直径約100〜200 μm)が、第三成分の添加によって集合が促進され、集合体の形状が第三成分の添加量によって制御できることを示したものです(図1、図2)。

これまでに、研究グループでは、環状オリゴ糖(ホスト)と相互作用するゲストを導入したゲルを用い、分子認識の直接観察を実現していました。また、今回用いたものと同じ高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子を用い、集合体の形状が相互作用残基の導入量を調整することによって制御できることに成功していました (Itami, T. et al., Sci. Rep. 2022, 11, 6320)。しかし、巨視的集合体の形状を制御する他の要因については未解明でした。

今回の発見は、光やpH、温度など他の外部刺激によって集合体の形状が制御できることを示します。これにより、分子認識に基づく巨視的集合体である生物が多様な形状を示す起源の解明に繋がることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、9月5日(木)18時(日本時間)に公開されました。

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図1. β-シクロデキストリンマイクロ粒子(βCD(x)-SAP,無色粒子)とアダマンタンマイクロ粒子(Ad(y)-SAP, 赤色粒子)が第三成分(AdNH3Cl)の添加によって集合が促進される様子。βCD導入量xは16.2mol%、Ad導入量yは5.2 mol%と15.1 mol%。図中の線は100 μm。

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図2. 集合促進の概念図

研究の背景

生物はいろいろな形をしています。生物は、細胞同士がその表面に存在する分子の分子認識を介して特定の位置や配列で集合(自己組織化)することにより形成されます。生体は、この分子認識に基づいた自己組織化によって形成される巨視的集合体です。

これまで、研究グループでは、環状オリゴ糖(ホスト)と相互作用するゲストを導入したゲルを用い、分子認識の直接観察を実現していました。また、相互作用残基としてβ-CDとAdを導入した高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子球状マイクロ粒子を用い、巨視的集合体の形状が相互作用残基の導入量を調整することによって制御できることに成功していました。しかし、巨視的集合体の形状を制御する他の要因については未解明でした。

研究の内容

今回の研究では、相互作用残基としてβ-CDとAdを導入した高吸水性ポリマーの球状マイクロ粒子にゲスト部位を有する第三成分を添加し、集合体の形状がどのように変化するかについて観察を行いました。

その結果、球状マイクロ粒子の集合が促進され、また第三成分の添加量を変化させることで集合体の形状が制御できることを解明しました(図3)。さらに、この巨視的な集合挙動を、分子レベルの平衡に基づいた解析により説明しました。

この発見は、光やpH、温度など他の外部刺激によって集合体の形状が制御できることを示します。

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図3. βCD(26.7)-SAP粒子と未修飾SAP粒子が形成する集合体のアスペクト比a/bとAdNH3Cl濃度 ([AdNH3Cl]0) との関係。[AdNH3Cl]0に依存して集合体の形状が変化します。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

生物はいろいろな形をしています。生物は、細胞同士がその表面に存在する分子の分子認識を介して特定の位置や配列で集合(自己組織化)することにより形成されます。本研究成果により、細胞の自己組織化過程における巨視的集合体の形状制御についての起源の解明が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年9月5日(木)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されました。

タイトル:“Additive-assisted macroscopic self-assembly and control of the shape of assemblies based on host–guest interaction”
著者名:Akihito Hashidzume, Takahiro Itami, Masaki Nakahata, Yuri Kamon, Hiroyasu Yamaguchi, and Akira Harada
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-71649-z

なお、本研究は、大阪大学 大学院理学研究科 山口浩靖教授、香門悠里講師、および中畑雅樹助教の協力を得て行われました。

参考URL

橋爪章仁教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/35c4b7585bb231a8.html

大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 高分子精密科学研究室
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/hashidzume/index.html

SDGsの目標

  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任

用語説明

高吸水性ポリマー

自重の数百倍以上の水を吸収する高分子。一般には架橋ポリアクリル酸ナトリウムが用いられている。

球状マイクロ粒子

マイクロメーターサイズの球状微粒子。

環状オリゴ糖

いくつかの単糖がグリコシド結合によって環状につながった分子。

シクロデキストリン

グルコースを単位とする環状オリゴ糖。グルコース単位が6個のものをα-シクロデキストリン、7個のものをβ-シクロデキストリン、8個のものをγ-シクロデキストリンと呼ぶ。シクロデキストリンは環の大きさに応じた分子を取り込むため、さまざまに活用されている。

アダマンタン

分子式C10H16の炭化水素で炭素原子がダイヤモンドと同じように配置されたかご型分子。β-シクロデキストリンに安定に取り込まれることが知られている。

アスペクト比

楕円の長軸と短軸の比。