シリコンを黒鉛シートで包んだ構造を発見!

シリコンを黒鉛シートで包んだ構造を発見!

リチウムイオン電池の長寿命・高容量化に期待

2020-8-26工学系

研究成果のポイント

・これまで高コストであった電極材料を、廃棄物や副産物を利用することで環境に優しい低コスト材料にし、リチウムイオン電池の負極の特性も向上
・自然エネルギーによる発電の出力平滑化に貢献する蓄電システムへの応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の松本健俊准教授らの研究グループは、低コストで、薄い板状のシリコン切粉をばらばらの状態で、薄く柔軟な黒鉛シートの間に、包み込むことに成功しました (図1 、 図2) 。この材料をリチウムイオン電池の電極に用いると、シリコン粒子が電極から剥がれ落ちにくくなり、さらにリチウムイオンや電子がそれぞれのシリコン粒子に移動しやすくなることも明らかにしました。この結果、充放電回数が増えても、充放電容量が減少しにくくなることを実証しました (図3) 。また、300サイクル目の単位重量あたりの放電容量は、現在、主に利用されている黒鉛の理論容量の約3.4倍まで増加しました。

なお、シリコン切粉は、シリコンインゴットをスライスして太陽電池用ウェハを作製する際に、ウェハと同じ重量も発生するシリコンの切り屑です (図1) 。黒鉛シートは、パッキンなどの原料として用いられる膨張化黒鉛や、パッキンを打抜いた後に残る副産物を用いて、低コスト・室温で製造できます。

この成果により、物質の有効利用、環境負荷の低減および低コストでのリチウムイオン電池の長寿命・高容量化が期待されます。本研究成果は、2020年応用物理学会秋季講演会(9月8日(火))にて発表されました。

図1 シリコン切粉と膨張化黒鉛由来の黒鉛シートの複合体を用いたリチウムイオン電池負極

図2 シリコン切粉と黒鉛シートの複合体の電子顕微鏡像。透明のシート状のものが黒鉛シート、黒丸内が黒鉛シート表面のシリコン薄片、白丸内が黒鉛シート間のシリコン薄片

図3 シリコン切粉/黒鉛シートを用いた電極、1000°Cで炭素コートしたシリコン切粉を用いたこれまでの電極とシリコン切粉電極の放電容量

研究グループでの取り組み

省エネルギー・低環境負荷を目指した材料とデバイスの研究・開発を推進しています。低消費電力型電子機器と高効率太陽電池の製造技術や、長期保存メモリーなどを提案し、地球温暖化防止と持続可能な開発目標(SDGs)達成へのきっかけづくりをしてきました。製品の生産時に生じる廃棄物や副産物を原料とすることで、効率的な物質循環の実現も目指しています。その一つの取り組みとして、シリコン切粉を用いたリチウムイオン電池の高容量負極への応用を試みています。

研究の背景

シリコンは黒鉛の約10倍の容量を持つ次世代高容量負極材料として研究されてきました。しかし、リチウムが出入りする時にシリコンは約4倍も体積変化し、電極から剥がれ落ちる問題があります。剥離する前に十分に充放電できる150ナノメートル以下のサイズのシリコンナノ粒子は、製造コストの高さが指摘されています。シリコンを包むための薄いカーボン材料も、高価なグラフェン、導電性が低い酸化グラフェン、800~1000°Cの炭化水素ガス中で形成する炭素コート膜 (図3) などが検討されてきました。

松本准教授らの研究グループでは、シリコン切粉と黒鉛シートが、共に二次元の形状をもつことに注目しました。リチウムイオン電池の正極の製造でも利用される溶媒中で一緒に分散させ、ろ過するだけで、黒鉛シートがシリコンを包んだ複合体を作製できることを見出しました。さらに、黒鉛ではなく、部分的に剥離された膨張化黒鉛を原料とすることで、極薄の黒鉛シートがより短時間かつ高収率で得られました。実際、分散した黒鉛シートは無選別でそのまま利用しています。作製した電極も、安定な黒鉛シートでシリコンを包むことにより、シリコンの剥離や凝集が抑えられ、リチウムイオンや電子の移動も改善され、シリコン負極の寿命と容量の改善につながっています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

低コスト・低環境負荷でのシリコン負極の高容量化の可能性を実証しました。シリコン太陽電池等による自然エネルギー発電は、時間や天候に左右されます。本研究成果を用いることで、この出力の平滑化のためのさまざまな蓄電システムへの応用が期待されます。シリコン太陽電池の需要増加に伴い、シリコン切粉の発生量とリチウムイオン電池の需要が共に増加するため、効率の良い物質循環の実現も見込まれます。

特記事項

本研究成果は、2020年9月8日(火)15時30分(8p-Z22-10)に応用物理学会秋季講演会にて発表されました。

タイトル:"Si/黒鉛シート複合体電極についての活性化エネルギーのサイクル依存性"
著者名:崔載英, 松本健俊

参考URL

産業科学研究所 小林研究室HP
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/fcm/index.html