リチウムイオン電池の厚いシリコン負極の高容量化と高電流密度化に成功

循環型経済に寄与する新技術

2021-2-10工学系

研究成果のポイント

  • リチウムイオン電池の厚いシリコン負極の高容量化と高電流密度化に成功
  • 充放電中のシリコンの大きな体積変化による電極の破壊と電極内部の抵抗の増加により、厚いシリコン電極の特性向上が困難であった
  • 高容量、高電流密度、低コスト、低環境負荷および物質循環を兼ね備えたリチウムイオン電池の負極への応用に期待

概要

大阪大学産業科学研究所の松本健俊准教授らの研究グループは、解砕したシリコン切粉を黒鉛シートで内包した複合体(重量比は5:1)を用い、リチウムイオン電池の厚いシリコン負極の高容量化と高電流密度化を達成しました。このシリコン電極は、理論容量が10 mAh/cm2と厚い電極であるにもかかわらず、4 mAh/cm2の比較的高い放電容量と、5 mAh/cm2の高電流密度で、75サイクル以上、充放電が可能です(図1)。

これまで、高容量であるシリコン電極は、充放電時の大きな体積変化により破壊されやすく、高コストの材料やプロセスも利用して、多くの研究・開発が行われてきました。そこで、松本准教授らの研究グループは、廃棄物として扱われることの多いフレーク状のシリコン切粉を解砕し、極薄黒鉛シートの間に分散させて内包した複合体を創製し、シリコン電極を作製する研究を行っています。

今回、このシリコン/極薄黒鉛複合体電極を用い、放電容量を制限することで、厚いシリコン電極の高容量・高電流密度での充放電に成功しました。これにより、高容量、高電流密度、低コスト、低環境負荷および物質循環を兼ね備えたリチウムイオン電池の実用化が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of The Electrochemical Society」に、2月8日(月)に公開されました。

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図1 シリコン/黒鉛シート複合体と炭素コートシリコン粒子を用いたシリコン電極の放電容量

研究の背景

シリコン電極は、黒鉛電極の約10倍の容量をもち、次世代リチウムイオン電池の高容量負極として研究されてきました。電極を厚くすれば、正極・負極間を絶縁しリチウムイオンは通過するセパレータや、電気を取り出す金属箔の枚数を削減でき、電池が高容量化、軽量化および低コスト化されます。しかし、シリコン電極は、充放電時の体積変化が大きく、厚くすると、電極の破壊、シリコン粒子の電極内での孤立、電極内部の電子・イオンの移動抵抗の増加、金属箔の変形などが生じる課題がありました。そのため、4 mAh/cm2以上の高容量化と4 mA/cm2以上の高電流密度化の両立も困難でした。

研究の内容

松本准教授らの研究グループでは、電気化学インピーダンス法により、炭素コートシリコン電極よりも、シリコン/黒鉛シート複合体電極の方が、電極内部の抵抗が小さく、繰り返し充放電による抵抗の増加も抑制されることを発見しました。これは、凝集した厚い黒鉛シート(図2a)が、シリコンと極薄黒鉛シートの複合体(図2b)をさらに内包し、導電性の骨格として電極構造を安定化することで説明できます。黒鉛シートが架橋構造を形成し、電極の割れを抑制する様子も観察されています。また、充電(シリコンにリチウムを挿入)後、理論容量の約40%に放電容量を制限し、シリコンの体積収縮を抑制すると、シリコン/黒鉛シート複合体電極の方が、長期サイクルにわたり放電容量を維持します(図3)。そこで、シリコン/黒鉛シート複合体の厚い電極を作製し、放電容量を制限すると、シリコン電極の高容量化と高電流密度化を同時に達成できることが実証されました。

さらに、原料であるシリコン切粉は、1000~1800℃の複数の高温処理を用いて作製したシリコンインゴットをスライスし、太陽電池用ウェハを製造する際に、ウェハと同じ重量も発生する廃材で、水洗のみで利用できるようになってきています。黒鉛シートは、短時間加熱で作製する膨張化黒鉛やパッキンを打抜いた後の副産物を、リチウムイオン電池の正極製造時にも利用する溶媒中で分散して作製します。シリコンと黒鉛シートの複合体も、これらを室温で分散した溶媒をろ過し、作製します。これらの工夫により、低コスト化、材料・プロセスの環境負荷低減および循環型経済への寄与も目指しています。

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図2 100サイクル後のシリコン/黒鉛シート複合体電極の断面走査型電子顕微鏡像(a)とその拡大像(b)

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図3 放電容量制限した時のシリコン/黒鉛シート複合体と炭素コートシリコン粒子を用いたシリコン電極のサイクル特性

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

太陽電池等の自然エネルギー発電の増加にともない、出力を平滑化するための蓄電池の需要と、シリコン切粉の発生量が、共に増加すると予想されます。さらに、シリコン負極の高容量化と高電流密度化により、電動移動体に利用される可能性も出てきました。シリコン切粉の発生量は、世界で年間約10万トンにのぼり、約300 kmの航続距離をもつ乗用電気自動車用の電池であれば、世界の年間自動車販売台数のおおよそ10%にあたる1000万台分に相当します。本研究成果により、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標と持続可能な開発目標(SDGs)の達成の加速が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2021年2月8日(月)に米国科学誌「Journal of The Electrochemical Society」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Si Swarf Wrapped by Graphite Sheets for Li-Ion Battery Electrodes with Improved Overvoltage and Cyclability”
著者名: Jaeyoung Choi, Jiasheng Wang and Taketoshi Matsumoto
DOI: 10.1149/1945-7111/abdd7e

なお、本研究は、「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」およびJKA財団補助金による研究の一環として行われました。

参考URL

松本健俊 准教授 研究者総覧URL
http://www.dma.jim.osaka-u.ac.jp/view?l=ja&u=4062