自然科学系

2020年8月17日

研究成果のポイント

・台湾の活断層から焼結※1した岩石(天然セラミックスの一種)を発見
・地震時に断層では粉砕と溶融が起きると考えられてきたが、焼結現象が起きることを新たに確認
・焼結現象は断層の強度を回復させるため、断層の活動性評価への更なる進展が期待

概要

大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻の廣野哲朗准教授、同研究科附属熱·エントロピー科学研究センターの宮崎裕司准教授、海洋研究開発機構高知コア研究所の石川剛志所長、北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門の亀田純准教授らの研究グループは、地震時に断層内の焼結現象で一種の天然セラミックスが生じ、これが断層の強度回復や地震エネルギーに大きな影響を与えることを世界で初めて明らかにしました。

焼結とは、粉末状の固体の集合体を融点よりも低い温度で加熱したときに、粒子が互いに結合する現象で、陶器や磁器などのセラミックスが形成されるときに生じる現象です。これまで地震時に断層では、摩擦滑りにともなう鉱物の粉砕化と溶融が主に起きると考えられており、焼結がおきることについては指摘されていませんでした。

今回、廣野准教授らの研究グループは、1999年に台湾集集地震を引き起こしたこともあるチェルンプ断層の試料をナノスケールで分析した結果、焼結によって生成した断層岩を発見しました(図1)。さらに、複数の鉱物集合体(石英、長石、粘土鉱物)を室内実験にて加熱したところ、緑泥石※2という粘土鉱物が焼結助剤※3として機能していることを見出しました。さらに焼結現象は岩石の強度を高め、かつ表面積の減少によるエネルギーの放出をともないます。これらの新しい知見により、プレート境界断層や活断層が地震時に歪みを解放して、強度を失った後、どのように強度を回復させ、次の地震を引き起こすのかというメカニズムの理解、そして断層の活動性の推定への展開が期待されます。

本研究成果は、英国Nature社が刊行する学術雑誌「Communications Earth & Environment」に、8月14日(金)に公開されました。

図1 台湾チェルンプ断層で発見された燒結した断層岩

研究の背景

地震・津波が人間社会に与える影響は計り知れないほど大きく、地震多発国の日本のみならず、変動帯で活動する人類にとって、地震を理解するということは共通の要求です。しかし、一言で地震の理解と言っても、その発生プロセスは震源核の形成、動的破壊の開始、広域への破壊伝播、地震波放出、地殻変動(津波発生)、そして次の地震発生までの準備過程などと非常に複雑です。近年の精密な地震観測および地殻変動観測によって、地震時の断層の滑り様式や静穏時の固着過程およびスロー地震など、地震現象に関する新しい知見が次々と報告されていますが、そのような現象が物質科学的にどのようなメカニズム・プロセスによるものであるかはいまだ不明なことが多いと言えます。そのため、地震を理解するためには、観測のみならず、断層を物質科学的に研究することが極めて重要です。

廣野准教授らの研究グループでは、巨大地震時の断層滑りや次の地震発生までの準備過程に着目し、1999年に発生した台湾集集地震の震源断層であるチェルンプ断層の深部掘削(ICDP※4台湾チェルンプ断層掘削プロジェクト:(図2))に2003年より参加し、多くの断層試料の回収に成功しました。特に、地下1194mの断層帯からは黒色の岩石が発見されました(図1)。当時は、地震時の摩擦滑りにともなう岩石の溶融によって生成したと考えられていましたが、今回の研究での電子顕微鏡によるナノスケールでの観察と分析、そして熱重量示差熱分析の結果、岩石を構成する鉱物は溶融しておらず、粒子間の焼結によって、岩石全体が固結していることが明らかになりました。すなわち、地震時に断層で一種のセラミックスが生成されたことを意味します。セラミックスは、初期の粒子集合体の状態と比較して、大幅に高い強度を持つことが広く知られています。そのため、断層で岩石がセラミックスとなるということは、その断層の強度を高める効果を持ちます。今まで断層は、地震時に滑ることによって強度を失い、その後、ゆっくりと時間をかけて、鉱物の結晶化などにより強度を回復していると考えられていました。しかし、本研究の結果、地震直後に起こる焼結現象によって、迅速に強度を回復している可能性が示されました。すなわち、今回の断層での焼結の痕跡の発見は、次の地震の発生時期(再来周期)の推定につながる基礎的な知見と言えます。さらに、焼結が起きる際には、粒子間の結合により、岩石全体の表面積が減少するため、表面エネルギーの解放、すなわち発熱が生じます。このエネルギーは、地震時に解放されるエネルギーに付加するものであり、地震後の断層での様々な化学反応(鉱物の再結晶など)へ大きな影響を与えます。

以上、1999年に台湾集集地震を引き起こしたチェルンプ断層の試料をナノスケールで分析した結果、焼結によって生成した断層岩の発見は、プレート境界断層や活断層が地震後にどのように強度を回復させ、次の地震を引き起こすのかというメカニズムの理解、そして断層の活動性の推定への展開が期待されます。

図2 台湾チェルンプ断層の深部掘削プロジェクト

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、活断層調査や断層掘削プロジェクトにおける断層分析の大きな進展、特に、断層の強度回復のメカニズム・プロセスの全容解明が期待されます。さらに、この解明は、プレート境界断層や活断層の活動性評価の精度向上への貢献が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年8月14日(金)に英国Nature社が新しく刊行する学術雑誌「Communications Earth & Environment」に掲載されました。

タイトル:"Generation of sintered fault rock and its implications for earthquake energetics and fault healing"
著者名(英名):Tetsuro Hirono1, Shunya Kaneki, Tsuyoshi Ishikawa2, Jun Kameda3, Naoya Tonoike, Akihiro Ito & Yuji Miyazaki4
DOI: 10.1038/s43247-020-0004-z
*著者名(和名):廣野哲朗 1, 金木俊也, 石川剛志 2, 亀田純 3, 土野池直也, 伊藤彰厚 & 宮崎裕司 4
所属:
1 大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻
2 国立研究開発法人海洋研究開発機構超先鋭研究開 発部門高知コア研究所
3 北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門
4 大阪大学大学院理学研究科附属熱·エントロピー科学研究センター

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「課題番号 19K04039」の一環として行われました。

用語説明

※1 焼結
粉末状固体の集合体(粉体)を融点よりも低い温度で加熱したときに、粉体が固まって緻密な物体になる現象のこと。セラミックスの製造などにおいて広く利用されている。

※2 緑泥石
粘土鉱物の一種で、(Mg,Fe,Mn,Ni)6-x-y(Al,Fe3+,Cr,Ti)yx(Si4-xAlx)O10(OH)8の化学組成を持つ。化学組成によって、さらに分類されるが、今回の研究での緑泥石はクロノクリア(Mg,Fe)5Al(Si3Al)O10(OH)8である。

※3 焼結助剤
焼結の促進・安定化のために付加させる添加剤。工業的に広く用いられている。

※4 ICDP: International Continental Scientific Drilling Program(国際陸上科学掘削計画)
独国と米国が主導国となり、平成8年(1996年)2月から始動した多国間国際協力プロジェクト。日本は1998年より加盟。現在、日本のほかには、欧州(13カ国)、米国、カナダ、ニュージーランド、インド、イスラエル、中国の計21カ国が加盟。地球表層の地殻変動(地震や火山)、地球環境変動、隕石衝突、燃料資源に関する科学掘削研究を推進している。日本では、国立研究開発法人海洋研究開発機構が代表機関を、日本地球掘削科学コンソーシアムが代表窓口を担当している。

参考URL

理学研究科 地球物理化学グループ 廣野サブグループHP
http://www.eonet.ne.jp/~hirono/TH/Welcome.html

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