工学系

2019年8月27日

研究成果のポイント

・高濃度の欠陥を持つ結晶に対して欠陥の有効な除去方法を発見。
・ホウ素結晶を半導体材料として有能にするためには、ランダムな配置のホウ素原子を規則的な配置にする必要があった。今回の成果では、その規則的配置を高温で水素を添加し、引き続き低温アニールで水素を離脱させることで実現。
・構造欠陥の制御は固い高融点材料一般に共通する問題であるため、今回発見・実証された方法は広く材料開発への応用が期待。

概要

大阪大学産業科学研究所の白井光雲准教授らとロシア高圧研究所のEvgeny A. Ekimov(エフゲニー・エキモフ)教授、ロシア原子核研究所のYuliya B. Lebed(ユリア・レベド)教授、ドレスデン工科大学のJens Kunstmann(ジェンズ・クンストマン)教授の研究グループは、高濃度の欠陥を持つ結晶に対して欠陥の有効な除去方法を発見しました。

半導体であるホウ素結晶はいろいろな結晶構造※1を持っていますが、どれも大量の格子欠陥※2を含みます。しかし、その欠陥を除去することは、結晶が固いため困難でした。

今回発見された方法は、ロシアグループが実験で偶然発見した現象を、日本とドイツグループが理論化した成果です。まず、ホウ素結晶を高温・高圧条件下で作成し、そのとき大量の水素を不純物として仕込みます。得られた試料は多くの欠陥を有します(図1(a))。その後、試料を室温に戻し、それから中程度の温度でアニール※3すると水素が離脱すると同時に、それまでランダムに配置されていたホウ素原子が突然、規則的な配置に変化します(図1(b))。これは欠陥がなくなった状態であり、巨大な単位格子(単位格子に50個以上の原子を持つ)※4のホウ素結晶でこのような欠陥のない構造を得たのは世界で初めてです。

この欠陥除去方法は、ホウ素のみならずフラーレンに代表される炭素系材料など多くの固い高融点材料に適用可能です。欠陥制御が難しいとされる高融点材料では原子が動き難いという問題が共通しており、この新たな欠陥構造の制御法は他の材料開発一般に広く活用されることが期待されます。

本研究成果は、2019年8月9日にオープンジャナールである英国物理学会出版局(IOP Publishing)「Journal of Physics: Materials」(オンライン)に掲載されました。

図1
(a)型正方晶ホウ素の構造。グレーの多面体はホウ素の二十面体(B12)で規則的に配置。赤丸は格子間位置のホウ素原子でランダムに配置。(b)規則的な配置の格子間位置ホウ素。赤丸と青丸は紙面に垂直方向の高さが違う。

研究の背景

通常電子は負の電荷を持ちますが、結晶中では正の電荷を持つ場合があります。半導体は欠陥を巧妙に制御することで、正と負の両方の電子を作ることができ(価電子制御※5)、それがシリコンを電子材料として有能にしている理由です。

ところが欠陥にもいろいろあり、一般的には母体結晶※6の格子位置※7に不純物原子が入ったもの(格子位置欠陥)が価電子制御する上で求められます。それに対して母体結晶の格子位置とは違う位置(格子間欠陥)に入る不純物は多くの場合価電子制御のためには役立ちません。ホウ素結晶ではそもそも母体結晶原子であるホウ素が格子間位置※8にランダムに配置され(図1(a))、それがホウ素の価電子制御を困難にしています。それゆえ、ホウ素結晶を半導体材料として有能にするためには、このランダムな配置のホウ素原子を規則的な配置にする必要があります。しかし、これまで構造が固いため原子の再配置をさせることができませんでした。

今回の発見はその規則的配置を高温で水素を添加し、引き続き低温アニールで水素を離脱させることで実現しました。用いた結晶はα型正方晶ホウ素と呼ばれる結晶です(図1(a))。グレーで示されたホウ素の二十面体(B12)は規則的な配置をしていますが、赤丸で示される格子間位置のホウ素原子はランダムに配置されています。高温・高圧で試料を作成したときは、明らかに格子間位置ホウ素も水素もランダムに配置されていました(図では水素は省かれている)。規則的に整列したα型正方晶結晶(図1(b))は今まで一度も作られたことはありません。それが低温でアニールすることで、水素が抜け、同時に格子間位置のホウ素原子が規則的に再配置しました。

物質は一般に低温で秩序を持った構造を取る傾向がありますが、普通、結晶作成は高温で行われ欠陥が大量に導入され、それが低温で凍結してしまいます。しかし水素のような揮発性原子を仕込んでおくと、アニールでその揮発性原子は抜け、そのとき母体原子※9の移動を誘起し秩序構造を作ります。水素の拡散と母体原子の再配置という本来は違った構造変化がお互い巧妙に協力しあって起きた現象です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

物理学としては、不純物の離脱と母体原子の再配置という違う現象の協力現象を発見したことです。これは固い材料では報告されたことがありません。材料科学としては、今まで規則的配置を持ったホウ素結晶は発見されたことがなく、従来不可能とされた構造を作ることができたことです。そして材料開発としては、新しい構造欠陥の制御法を実験・理論両面から示したことです。価電子制御の困難さは固い高融点材料で共通する問題であり、広く同種材料の問題解決へのブレークスルーになると考えています。

特記事項

本研究成果は、2019年8月9日にオープンジャナールである英国物理学会出版局(IOP Publishing)「Journal of Physics: Materials」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:Hydrogenation, dehydrogenation of α-tetragonal boron and its transition to δorthorhombic boron
著者名:N. Uemura, K. Shirai, J. Kunstmann, E. A. Ekimov, and Y. B. Lebed
DOI:10.1088/2515-7639/ab2c8d

なお、本研究は、「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」の共同研究プログラムの助成を受けました。

用語説明

※1 結晶構造
固体は多くの場合、それを構成する原子が規則的かつ周期を持った構造を取る。その規則的配置のパターンを結晶構造と呼ぶ。

※2 格子欠陥
多くの固体はその固体に固有な結晶構造をとる。例えば塩化ナトリウム(岩塩)は立方体を周期の単位として、その各頂点に塩素とナトリウム原子が交互に配置する。この配置の規則に反するものが格子欠陥で、現実の結晶は多少なりとも欠陥を持つ。欠陥にはいろいろな種類があり、それを構成する原子が抜けるもの(格子空孔)、構成原子以外の原子が入ったもの(不純物)などがある。

※3 アニール
結晶を育成するとき、あるいは外部からの粒子衝撃などにより様々な欠陥が生じる。それを特定温度に加熱することで欠陥を除去することができる。これをアニール(焼鈍)と呼ぶ。

※4 単位格子
※1の結晶構造において、規則的配置の中で最小のパターンを単位格子といい、最も簡単な構造は単位格子に原子が1個だけのもの。ホウ素は多くの結晶構造を持つが、多くは単位格子あたり50個以上、多いものになると300個以上のものもある。

※5 価電子制御
結晶中には、正の電荷を持った電子と負の電荷を持った電子が存在する。普通はある物質はどちらか一方だけの電子を持つが、半導体では不純物を調整することで両方の電荷の電子を持つことができる。違う極性の電子を持つことで電流を制御し、今日の電子工学の基礎となるトランジスター動作が可能となる。

※6 母体結晶
与えられた固体の固有な構造。結晶構造と同じ意味だが、現実の結晶は※2の格子欠陥を含むので、それとは区別するために用いている。いわば格子欠陥がない結晶構造のこと。

※7 格子位置
※1で述べた結晶構造の中で、その規則的配置に従った位置のこと。

※8 格子間位置
※1で述べた結晶構造の中で、その規則的配置と違った位置のこと。いわば規則的配置の隙間に相当する。

※9 母体原子
与えられた固体固有の原子。そうでないものは不純物で、後者と区別するため用いられる。本件に関する問い合わせ先

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 ナノ機能予測研究分野
http://www.cmp.sanken.osaka-u.ac.jp/index_jp.html

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