世界初!セラミックス基複合材料の亀裂損傷を室温で修復

世界初!セラミックス基複合材料の亀裂損傷を室温で修復

2019-1-21

研究のポイント

・金属チタンを分散したアルミナセラミックス基複合材料において、発生した亀裂を室温で修復することを世界で初めて実証。
・セラミックスおよびセラミックス基材料の損傷修復には、高温度で熱処理を行い、構成物の酸化や化学反応に伴い亀裂を修復する方法のみが従来知られていたが、この手法はセラミックスの自己修復として学術的な研究対象となっているものの、反応を生じるためには概ね1000℃以上の高温度で材料を熱処理の必要があることなどから、実際の修復技術としての応用には大きな壁があった。
・今回の成果は、複合材料の構成相およびその添加量と分散方法をコントロールすることで高い電気伝導性を獲得したAl 2 O 3 /Ti複合材料において、電気化学的に陽極酸化反応を用いることで、加熱を一切使うこと無く、材料に生成した亀裂を修復し、この結果、材料強度を亀裂発生前の90~100%まで回復させることができることを世界で初めて示したものである。
・本法により、煩雑で多くのエネルギーを必要とする加熱プロセスを用いることなく、損傷修復が出来ることから、低コストかつ簡便で、材料が実装されている状態でも修復が可能となると期待され、セラミックス基材料に新たな応用展開を可能にするものである。

概要

大阪大学産業科学研究所の関野徹教授、施聖芳特任助教(常勤)らの研究グループは、セラミックスと金属からなる複合材料において、分散複合化する金属のパーコレーション構造 を設計し、組成を制御すると共に、粉末調整・焼結プロセスを最適化することで、アルミナ(Al 2 O 3 )セラミックスと金属チタニウム(チタン、Ti)からなる複合材料の創製に成功し、破壊靱性(割れにくさ) の向上と同時に、良好な電気伝導性を両立させることに成功しています(2018年11月21日付大阪大学プレスリリース)。

今回、同研究グループは、この多機能型セラミックス基複合材料において、電気化学的陽極酸化反応 が生じることを示すと同時に、本反応の適用により加熱を一切用いることなく室温でオペレーションすることができる亀裂(損傷)修復方法を開発し、複合材料に発生した亀裂を修復し、材料強度を本来の値まで回復させることに世界で初めて成功しました (図1) 。

これまで、セラミックスの損傷修復法としては、化学反応を生じることで亀裂を埋める方法(自己修復機能)が研究されてきましたが、化学反応や拡散反応が生じる高温度(概ね1000℃以上)が必要でした。また、樹脂系接着剤(エポキシ樹脂等)やセラミックスセメントを利用した亀裂(損傷)修復方法もありますが、これらの方法では基材となるセラミックスと樹脂あるいはセラミックスセメントとの接着性に限界があり、亀裂発生前の初期強度と同等まで強度を回復させることは困難でした。

今回、関野教授らの研究グループは、均一にチタン金属を分散させることでその添加量に応じて高い電気伝導性を実現することに成功し、この材料を用いて加熱プロセスを一切必要とせず、室温で材料の亀裂修復を実現し、初期強度と同レベルの強度まで回復させることを世界で初めて実証しました。

実験では、複合材料に人工的に亀裂を発生させることで破壊強度が大きく低下した材料 (図1右グラフ) に対し、陽極酸化処理を用いて、亀裂発生前と同等な強度まで回復すること、この回復が分散したチタン金属表面における陽極酸化反応に由来して生成した酸化チタン相が亀裂を埋めることで応力集中を緩和する機構で発現することなどを示しました。

本材料系においてはこれまでも力学的機能が優れるばかりでなく、電気伝導性による放電加工性 の付与や、表面の化学的・熱的処理により複合材料に光触媒機能を同時に付与できることなどを示しており、今回の室温における損傷修復機能の実証により、金属分散セラミックス基複合材料は本当の意味においての多機能型材料であることが改めて示されました。今後、複合材料の組織構造設計の更なるチューニングや修復処理条件の更なる最適化により、ユニークなマルチタスク対応型材料として、多様な工業製品や生体材料としての応用展開などが期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Journal of the American Ceramic Society」2019年1月9日付オンライン版に公開されました。

図1 金属チタン分散アルミナ基複合材料への亀裂導入後(a)、室温亀裂修復後(b)~(d)の電子顕微鏡写真と、亀裂導入前、亀裂導入時および修復後の強度変化(右。室温亀裂修復により強度は初期の89~100%に回復)。

研究の背景

これまで、セラミックスと金属の複合材料は様々なものが研究・開発されていますが、両者の結合様式の違いや、化学的反応性、更には用いる原料粉末の性状が限られるなどの理由により、組み合わせや微細構造には制限がありました。

関野教授は長年にわたり、こうした制約を様々な合成プロセスや焼結プロセスを駆使することで克服し、セラミックスにタングステンやニッケルなどの金属をナノメートルサイズの粒子として分散した、セラミックス/金属ナノ複合材料 の創製研究を行い、力学的特性と磁気特性を共存させた材料など、多機能型ナノ複合材料を提案してきました。

一方、構造用材料として知られるアルミナなどの酸化物セラミックスと、生体用金属材料や軽量高強度金属などに応用されているチタンとの組み合わせは、高温においてチタン自体が酸化し易く、またAl 2 O 3 などの酸化物と反応して化合物を生成することから、加熱を必要とするセラミックスプロセスを用いた複合化には適用の難しさがありました。

更に、通常のセラミックス複合材料では粉末冶金プロセス(原料粉末を混合し、これを焼結する)により得られますが、チタン金属の場合、市販粉末のサイズが大きく(数10マイクロメーター)、複合材料組織が不均一となり力学特性の低下の問題などがあり、多機能化を図るためのナノサイズ(或いは微細なサイズ)Tiの複合化は困難でした。今回のセラミックス基複合材料研究では、こうした従来の課題を解決するためのプロセスを適用すること、更には機能発現(電気伝導性の付与や酸化チタン形成による光触媒特性の付与など)を想定して組織設計することにより、アルミナセラミックスと金属チタンの持つ特性や機能性を活かした複合材料の創製に成功したことが背景にあり、本研究成果につながりました。

この様な機能化により、本複合材料(Al 2 O 3 /Ti)では優れた力学特性と電気伝導性、更にはTiの持つ反応性(電気化学的酸化反応)を基礎として、バルク型複合材料の更なる機能付与、即ち、従来のセラミックスでは困難であった加熱を伴わない方法による亀裂修復方法を着想し、実証したものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、これまで亀裂などの損傷が生じたセラミックス基材料の修復方法として高温での加熱のみであったところ、高温加熱に比較してエネルギー消費の少ない電気化学的な方法により室温で簡便且つ効果的に損傷修復を行う技術を世界に先駆けて提案・実証しました。

この成果はセラミックスの新たな損傷修復法や信頼性確保を可能とする技術として、今回実証に用いたAl 2 O 3 /Ti複合材料の組み合わせ以外にも多様な系への適用や、広範囲な応用が期待されます。更に電気化学的処理は表面にナノ構造を容易に形成できることから、亀裂(損傷)修復だけでなく、光化学的機能や電気化学的機能を複合材料表面に担持させることも合わせて可能であり、用途や目的に応じた多様な機能・応用を可能とする「マルチタスク対応材料」として新たな応用展開、例えば、自己修復機能を持つ構造部材や光機能を持つ生体適合材料、光電気化学電極や表面センシング機能を持つ材料など、構造材料特性と機能材料特性を融合した材料やそれをベースにしたデバイス・システムなどへの応用展開が期待されます。更に、導電性を活かした放電加工が可能なセラミックス基材料であることから、複雑形状部品加工などを可能とするセラミックス基材料としても期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際科学誌「Journal of the American Ceramic Society」(2019年1月9日オンライン)に掲載されました。

Electrochemically Assisted Room‐Temperature Crack Healing of Ceramic‐Based Composites, Shengfang Shi, Tomoyo Goto, Sung Hun Cho, Tohru Sekino*, J. Am.Ceram. Soc., 2019. https://doi.org/10.1111/jace.16264

この研究は「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」研究として行われ、一部は日本学術振興会(JSPS)科研費・基盤研究(S)(15H05715)による研究の一環として行われました。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 先端ハード研究分野 関野研究室
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/mmp/indexj.html

ダイナミック・アライアンスホームページ
http://alliance.tagen.tohoku.ac.jp/

物質・デバイス領域共同研究拠点ホームページ
http://five-star.tagen.tohoku.ac.jp/

用語説明

パーコレーション構造

つながりの状態を示すことであり、例えば母相が絶縁体であるとき、この絶縁体中に導電性粒子をランダムに分散してゆく場合、加える粒子の個数(体積分率)が増すことで粒子同士の接触が生じ、あるしきい値(臨界パーコレーション体積)以上になると接触による連続構造(パス)が形成する。このしきい値を境に絶縁体母相の抵抗率は急激に低下し、導電体へと変わる。

破壊靱性

(はかいじんせい)/材料の割れにくさ、脆さを示す指標。セラミックスやガラスなどは破壊靭性の値が低く、一方金属などは高い。破壊靭性値が低い場合、ごく僅かなき裂(傷)でも破壊の基点となり、急激なき裂伸長(傷の拡大)と結果としての破断(材料の破壊)が生じる。

電気化学的陽極酸化反応

導電性を持つアルミニウムやチタニウム金属を陽極として電解質を含む反応溶液に浸し、電位を印可することで電気化学的な金属の酸化反応(たとえば、Ti→Ti 4+ +4e - )が生じ、金属酸化物が表面に生成する反応。電解アルミコンデンサーやメンブランフィルターなどが本方法で作製される。

放電加工

金属の切断加工などに一般的に用いられる方法で、被加工物に電極を接近させ、この間に高電圧を印加することで放電現象が生じ、この放電による被加工物の蒸発や欠落などを利用して切断(加工)する。このため、被加工物には均一且つ高い電気伝導性が必要である。一般的なセラミックスの場合、絶縁性から半導性であり、放電加工性を持たない。

セラミックス/金属ナノ複合材料

ナノ複合材料は、微細組織を構成する相の1つ(または複数)がナノメートルのサイズを持つ材料である。このうち、母相としてのセラミックス中にナノサイズの第2相金属粒子が分散したものがセラミックス/金属ナノ複合材料である。発表者らはこれまでに多様な系で複合材料を創製し、強度や破壊靱性の向上などの力学的特性向上に加え、金属ナノ粒子を分散した場合、その機能性(例えばNiなどの遷移金属の強磁性や高い電気伝導性など)を同時に付与できると共に、異種材料のナノスケール複合によるシナジー効果により従来にない機能を発現することを示している。