複数の機能性を同時に付与したセラミックス基複合材料を創製

複数の機能性を同時に付与したセラミックス基複合材料を創製

2018-11-28

研究のポイント

・複数機能を持つセラミックス基複合材料を創製し、同時に表面ナノ構造を形成させることで光触媒機能の付与を実現。
・これまでセラミックス基材料の機能は、個別機能の発現が主であったが、プロセス選定・複合構造設計制御することで、力学的特性(靱性)向上と電気伝導性の両立、更には光化学機能の付与を可能に。
・新たな機能、複数の機能を持つセラミックス部材への応用展開を可能に。

概要

大阪大学産業科学研究所の関野徹教授、施聖芳特任助教(常勤)らは、セラミックスと金属からなる複合材料において、分散複合化する金属のパーコレーション構造 (つながりの形成される状態)を設計し、組成を制御すると共に、粉末調整・焼結プロセスを最適化することで、アルミナ(Al 2 O 3 )セラミックスと金属チタニウム(チタン、Ti)からなる複合材料の創製に成功し、割れにくさ(破壊靱性) を向上させると同時に、良好な電気伝導性を両立させることに成功しました。さらにこの複合材料表面を化学的または熱的に処理することで、ナノ構造酸化チタン(チタニア)を形成させ、同時に光触媒特性を付与することにも成功しました (図1) 。

これまで、セラミックスと金属の複合材料は様々なものが研究・開発されていますが、両者の結合様式の違いや、化学的反応性、さらには用いる原料粉末の性状が限られるなどの理由により、組み合わせや微細構造には制限がありました。特に構造用材料として知られるアルミナと、生体用材料などに応用されているチタンの組み合わせは、チタンの高い反応性(酸化や化合物の生成)、粉末Tiの原料サイズが大きい(数10マイクロメートル)ための複合材料組織の不均一性などの問題があり、力学特性に優れ、微細なチタン金属が分散し、両者の性質が活かされた複合材料の作製は困難でした。

今回、関野教授らの研究グループは、脆い性質の水素化チタン(TiH 2 ) 粉末を微粉砕すると同時にアルミナ粉末と混合し、焼結反応中におけるTiH 2 の熱分解反応を利用しての金属Ti生成と同時にアルミナセラミックスを緻密化(焼結)させるプロセスを適用しました。この結果、TiとAl 2 O 3 との反応性を最小限に抑えると同時に、従来法で作製した複合材料に比較して著しく細かく均一なTiがAl 2 O 3 中に分散し、添加量制御によりこれらがパーコレーション(連続相形成)した緻密な複合材料の作製を実現しました。

この結果、従来脆く割れやすいAl 2 O 3 セラミックスの破壊靭性をTi粒子の分散効果や柔らかさやにより向上させると同時に、絶縁体セラミックスに金属の様な電気伝導性を同時付与することに成功しました。さらに、この複合材料をアルカリ溶液中での化学反応や熱処理によりTiを選択的に酸化させて表面にナノポーラス構造やナノロッド構造のチタニア(TiO 2 )相を形成させることにも成功し、これにより有機物を分解する光触媒機能を同時に付与できることをAl 2 O 3 /Ti複合材料において世界で初めて示しました。

これにより、力学的機能が優れるばかりでなく、電気伝導性による、たとえば放電加工性などの機能を付与したセラミックス基材料としての応用や、表面に汚染物質分解や抗菌性などをもたらす光触媒機能を持つ新しい多機能型の複合材料として、工業製品や生体材料としての応用展開などが期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Journal of the American Ceramic Society」101巻(2018年7月7日公開)を始めとした4編の学術論文として発表され、「Journal of theCeramic Society of Japan」126巻11号(2018年11月1日公開)の論文では同誌の表紙として採用されました。

図1 金属チタン分散アルミナ基複合材料の組織構造写真(左上)と破壊靭性値・電気抵抗率のチタン添加量依存性(左下)、同材料を化学処理・熱処理により生成した表面ナノ構造(中)、およびこれら処理を施した複合材料の光触媒特性(色素退色試験結果)(右)

研究の背景

これまで、セラミックスと金属の複合材料は様々なものが研究・開発されていますが、両者の結合様式の違いや、化学的反応性、さらには用いる原料粉末の性状が限られるなどの理由により、組み合わせや微細構造には制限がありました。

関野教授は長年にわたり、こうした制約を様々な合成プロセスや焼結プロセスを駆使することで克服し、セラミックスにタングステンやニッケルなどの金属をナノメートルサイズの粒子として分散した、セラミックス/金属ナノ複合材料の創製研究を行い、力学的特性と磁気特性を共存させた材料など、多機能型ナノ複合材料を提案してきました。

一方、構造用材料として知られるアルミナなどの酸化物セラミックスと、生体用金属材料や軽量高強度金属などに応用されているチタンとの組み合わせは、高温においてチタン自体が酸化し易く、またAl 2 O 3 などの酸化物と反応して化合物を生成することから、加熱を必要とするセラミックスプロセスを用いた複合化には適用の難しさがありました。

さらに、通常のセラミックス複合材料では粉末冶金プロセス(原料粉末を混合し、これを焼結する)により得られますが、チタン金属の場合、市販粉末のサイズが大きく(数10マイクロメーター)、複合材料組織が不均一となり力学特性の低下の問題などがあり、多機能化を図るためのナノサイズ(或いは微細なサイズ)Tiの複合化には困難でした。

今回のセラミックス基複合材料研究では、こうした従来の課題を解決するためのプロセスを適用することで、更には機能発現(電気伝導性の付与や酸化チタン形成による光触媒特性の付与など)を想定して組織設計することで、アルミナセラミックスと金属チタンの持つ特性や機能性を活かした複合材料の創製に成功したものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、セラミックスの高強度・耐摩耗性・耐食性と金属の持つ導電性やしなやかさを兼ね備え、割れにくく(破壊靭性値の向上)かつ電気伝導性を持つセラミックス基複合材料が得られ、更に表面に多様な機能性を発現する酸化チタンのナノ構造を形成できることから、光触媒特性が付与されたセラミックス基構造材料など、新たな材料としての展開も可能であると考える。例えば、多機能が共生した構造部材や光機能を持つ生体適合材料、光電気化学電極や表面センシング機能を持つ材料など、構造材料特性と機能材料特性を融合した材料やそれをベースにしたデバイス・システムなどへの応用展開が期待されます。さらに、導電性を活かしたセラミックス基材料として、複雑形状部品加工などを可能とするセラミックス基材料としても期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際科学誌「Journal of the American Ceramic Society」(2018年2月12日オンライン・2018年7月7日冊子体)に掲載されたほか、以下関連論文が公開されました。

1.Surface-morphology modification of ceramic-based composites forphotocatalytic activity via simple chemical and heat treatments, ShengfangShi, Tomoyo Goto, Sung Hun Cho, and Tohru Sekino*, J. Ceram. Soc. Japan,126[11] (2018) 877-884. DOI:10.2109/jcersj2.18119 【同誌の表紙に採用】


2.Formation of vertically grown 1D TiO 2 nanorods on the surface of Al 2 O 3 /Ticomposites by simple heat treatment and their photocatalytic performance,Shengfang Shi, Tomoyo Goto, Sung Hun Cho, Hideki Hashimoto, Shu Yin, SooWohn Lee, and Tohru Sekino*, J. Ceram. Soc. Japan, 126[10] (2018) 847-851. DOI:10.2109/jcersj2.18133


3.Combinative effects of Y2O3 and Ti on Al 2 O 3 ceramics for optimizingmechanical and electrical properties, Shengfang Shi, Sunghun Cho, TomoyoGoto, Takafumi Kusunose, and Tohru Sekino*, Ceram. Int., 44 (2018) 18382–18388. DOI: 10.1016/j.ceramint.2018.07.054


4.Fine Ti-dispersed Al 2 O 3 composites and their mechanical and electricalproperties, Shengfang Shi, Sung Hun Cho, Tomoyo Goto, Tohru Sekino*, J.Am. Ceram. Soc., 101 (2018) 3181-3190. DOI: 10.1111/jace.15472:

この研究は「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」研究として行われ、一部はJSPS科研費・基盤研究(S)(15H05715)、および韓国研究財団(National Research Foundation(NRF) Korea)Global Research Laboratory Program(Grant No.2010-00339)による国際共同研究の一環として行われました。

研究者のコメント

化学的性質の差により従来では複合化が難しいセラミックスと金属を複合化することで、両者の持つ性質を活かし、新たな機能を担持したセラミックス基材料創製を達成しました。長年に渡り取り組んできた多機能の共生による「機能性構造材料」(構造部材としての利用を想定しつつ、電気物性・磁気物性・光物性などの機能性を同時に発現する材料)の一環として今回の複合材料を位置づけています。特に汎用的なアルミナセラミックスに、こちらも機能性軽金属であるチタンを融合し、靱性向上、低弾性率、電気伝導性、さらには表面ナノ構造制御による光化学(光触媒)特性を担持させるなど、汎用材料の複合化・融合により、まさに「多機能」が共生した材料を実証できたと考えています。こうした設計論を元に多様な組み合わせの系へと展開できると共に、更に多様な機能を盛り込んだ材料創製へ展開できると考えています。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 関野研究室 先端ハード研究分野
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/mmp/indexj.html

用語説明

パーコレーション構造

つながりの状態を示すことであり、例えば母相が絶縁体であるとき、この絶縁体中に導電性粒子をランダムに分散してゆく場合、加える粒子の個数(体積分率)が増すことで粒子同士の接触が生じ、あるしきい値(臨界パーコレーション体積)以上になると接触による連続構造(パス)が形成する。このしきい値を堺に絶縁体母相の抵抗率は急激に低下し、導電体へと変わる。

破壊靱性

材料の割れにくさ、脆さを示す指標。セラミックスやガラスなどは破壊靭性の値が低く、一方金属などは高い。破壊靭性値が低い場合、ごく僅かなき裂(傷)でも破壊の基点となり、急激なき裂伸長(傷の拡大)と結果としての破断(材料の破壊)が生じる。

水素化チタン

チタニウム(Ti)と水素(H)からなる固体化合物。Tiがしなやかで柔軟なのに対し、水素化して化合物となることで脆くなる(水素脆化)。さらに加熱により分解し、真空中やアルゴンなどの不活性ガス中では金属TiとH2ガスとなる。

ナノポーラス構造やナノロッド構造

ナノポーラス構造・ナノロッド構造

ナノメートルサイズの気孔(ポア)などを含む構造や、ロッド状の構造のこと。前者は様々な気孔率やその形状・分布を持つ。金属チタンを高濃度アルカリ処理することで、ナノスケールのスポンジ状構造などが得られている。一方、ナノサイズの角柱状酸化物も多数知られており、電子デバイス応用や光化学電極などへの応用研究も行われている。酸化チタンナノロッドなどでは、多面体ロッドを形成する結晶面の結晶学的構造の差により光触媒特性に差があることなどが知られている。

ナノ複合材料

ナノ複合材料(ナノコンポジット)

ナノメートルスケールで複合構造を持った材料である。典型的にはセラミックスやポリマー、金属の母相内にナノサイズの第2相(または第3相)粒子が孤立分散しており、セラミックス基ナノ複合材料では、強度や破壊靱性の向上、高温力学特性の向上、耐熱性・耐クリープ性の向上などに加え、超塑性現象の発現や機械加工性などの機能付与も知られている。