生命科学・医学系

2018年11月20日

研究成果のポイント

・ヒトノロウイルス※1の体外での増殖には、ヒトの組織から調整した細胞が必要であったが、今回、ヒトiPS細胞株から作製した腸管上皮細胞でヒトノロウイルスを増やすことに世界で初めて成功し、ワクチン開発やウイルス検出キット開発など広範な産業応用を可能にした。
・これまではノロウイルスの増殖に組成の不明な胆汁※2を用いる必要があったが、今回作製した細胞を用いると、胆汁を加えることなくヒトノロウイルスが増殖できた。
・ヒトノロウイルスには多くの「型」があるが、数年前に流行した「GII.17型」に感染する、もしくはワクチンを接種すると、例年最も流行する「GII.4型」に対しても有効な抗体が産生される可能性を示唆した。

概要

大阪大学微生物病研究所の佐藤慎太郎特任准教授(常勤)(一般財団法人阪大微生物病研究会BIKEN次世代ワクチン開発研究センター粘膜ワクチンプロジェクトプロジェクトリーダーを兼務)らの研究グループは、ヒトiPS細胞株から作製した腸管上皮細胞でヒトノロウイルスを増やすことができることを世界に先駆けて報告しました。この実験系を用いることで、ヒトの組織を用いることなくヒトノロウイルスが「生きている」かどうかを確認することができるようになり、ヒトノロウイルスの正しい除染や不活化の条件を実験的に検証し、策定することが可能となりました。また、ヒトiPS細胞株から作製した細胞を用いる本方法は、ヒト組織を用いる従来の方法とは異なり、倫理的制約を受けないことから、ワクチン開発やウイルスの感染能を測定するキット開発など、広く産業応用することも可能です。さらに、試験管内で増やしたウイルスを用いて、ヒトノロウイルス研究の発展につながることが期待されます。

本研究成果は、米国消化器病学会の学会誌である「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に掲載されます。

研究の背景

ヒトノロウイルスはヒトにのみ感染し下痢や嘔吐の症状を引き起こす感染症ウイルスですが、つい最近までこのウイルスをヒトの体外で増やすことができませんでした。そのために、ヒトノロウイルス感染症の研究はほとんど進んでいません。2016年にアメリカのグループがヒトの小腸組織から調整した腸管上皮細胞と、胆汁を用いることで初めてヒトノロウイルスの試験管内培養を可能にしました。しかし、ヒトの組織を使っているので、倫理的な制約があることと、何が入っているのかよくわからない胆汁を使用する必要があることから、もっと安全で手軽にヒトノロウイルスを増やす方法が求められていました。

図1 上段:ヒトノロウイルスの電子顕微鏡写真。下段:ヒトiPS細胞株から作製した腸管上皮細胞。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

今回、佐藤特任准教授らの研究グループは、倫理的制約をほとんど受けないヒトiPS細胞株から作製した腸管上皮細胞を用いることで、胆汁を加えることなくヒトノロウイルスが増殖できることを明らかにしました。本研究成果により、ヒトの組織を用いることなくヒトノロウイルスが「生きている」かどうかを確認することができるようになり、ヒトノロウイルスの正しい除染や不活化の条件を実験により確認し、データとして検証することで科学的に策定することが可能となりました。また、本方法により増殖させたウイルスを用いてワクチン開発やウイルスの感染能を測定するキット開発など、広く産業応用することも可能です。実際に研究グループは、数年前に日本で流行したGII.17という種類のノロウイルスを免疫することで、毎年最も流行するGII.4型のウイルスも中和できることを確認しています。さらに、試験管内で増やしたウイルスを用いて、ヒトノロウイルス研究の発展につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国消化器病学会の学会誌である「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に掲載されます。
タイトル:“Human norovirus propagation in human induced pluripotent stem cell-derived intestinal epithelial cells”
著者名:Shintaro Sato, Kota Hisaie, Shiho Kurokawa, Akio Suzuki, Naomi Sakon, Yohei Uchida, Yoshikazu Yuki, and Hiroshi Kiyono

なお、本研究は、東京大学医科学研究所の清野宏教授、地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所微生物部ウイルス課の左近直美研究員の協力を得て行われました

用語説明

※1 ヒトノロウイルス
ノロウイルスはカリシウイルス科に属し、7種類の遺伝子群(GI~GVII)に分類されており、この中でヒトに感染するヒトノロウイルスはGI、GII、GIVである。それぞれの種でさらに複数の遺伝子型に分類され、GII.4型が例年最も流行するタイプである。感染性胃腸炎の原因の約7割を占める感染症ウイルスで、非常に感染力が強く、乾燥しても感染力が数週間は失われないために、糞便や吐瀉物に含まれるウイルスが乾燥して空気中に散乱し、それを吸い込むことで二次感染を起こす人もいる。日本では11月から2月が流行のピークである。

※2 胆汁
肝臓で作られて胆のうに蓄えられ、小腸(十二指腸)に放出される液体。胆汁酸とコレステロールを含み、胆汁酸は脂肪の消化吸収に関わる。胆汁酸はそのほとんどが小腸で再吸収され、肝臓に戻り、再び胆汁として十二指腸に放出される。

参考URL

大阪大学 微生物病研究所 BIKEN 次世代ワクチン協働研究所

http://www.biken.osaka-u.ac.jp/lab/mucosal/
http://www.biken.osaka-u.ac.jp/en/laboratories/detail/25

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