話す力は遺伝か環境か?

話す力は遺伝か環境か?

言語脳活動の遺伝と環境の影響度を双子研究で解明

2016-11-15

本研究成果のポイント

・言語に関連する脳活動は遺伝と環境の双方から、同程度の約50%ずつ影響を受けていることを解明。
・これまで、言語に関する脳活動は遺伝と環境からどの程度の影響を受けているかは不明だったが、双生児の脳活動を比較することにより明らかにした。
・今後、効率的な言語教育法開発への応用が期待される。

概要

大阪大学国際医工情報センター平田雅之寄附研究部門教授と医学部附属病院荒木俊彦臨床検査技師らの研究グループは、言語に関連する脳活動が遺伝と環境の影響を同程度受けていることを世界で初めて明らかにしました。

これまで言語機能は、周りの環境などの影響を受けて後天的に形成されていくものと考えられている一方で、言語障害に関連する遺伝子が明らかにされており、遺伝と環境の双方が作用して形成されていることが知られていました。しかし、言語機能の中枢である脳の活動については遺伝と環境の影響をどの程度受けているかということが解明されていませんでした。

今回、本研究グループは、遺伝的に共通点のある双生児を対象として、言語脳活動を脳磁計 を用いて計測し、一卵性双生児と二卵性双生児で比較することにより、言語に関連する左前頭部の脳活動が遺伝と環境の影響はどちらも50%であることを解明しました。

今後、効率的な言語教育法の開発などへの応用が期待されます。

本研究成果は、11月15日(火)出版(米国東部時間)の米国科学誌「NeuroImage」に掲載され、同誌の表紙でも紹介されました (図1) 。

図1 結果イメージ図
言語に関連する脳活動は遺伝と環境の影響をほぼ同程度受ける。

研究の背景

これまで、言語機能は生まれた後、両親をはじめとする周囲の環境の影響を受けて形成される一方で、ある特定の遺伝子異常により言語障害が生じることから、遺伝的な影響もあることが知られていました。実際の言語の能力(語彙力や流暢さ)に関しては古くから双生児間で似ていることが報告されていましたが、言語の中枢である大脳の活動については遺伝と環境がどの程度影響を与えているのかは不明でした。

本研究グループでは、これまでに脳磁計を用いて様々な脳活動を計測しており、中でも左前頭葉でみられるβ帯域(13-25Hz)や低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が言語機能に関連していることを明らかにしてきました。本研究では遺伝的に100%一致する一卵性双生児と約50%一致する二卵性双生児を対象とし、言語に関する課題を与えた時の脳活動を脳磁計にて計測し、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動の強さを一卵性と二卵性双生児群で比較することにより、言語機能に関する脳活動の遺伝と環境の影響度を調べました。

本研究の成果

本研究は、大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンター(岩谷良則センター長)の研究の一環として行われ、同センターによりリクルートされた一卵性双生児28組、二卵性双生児12組を対象として行いました。3文字のひらがなもしくはカタカナの名詞(「あひる」や「メロン」など100単語)をスクリーンに提示し、その名詞に関連する動詞を思い浮かべてもらい、その際の脳活動を脳磁計により計測しました。

計測した脳活動の中で、低γ帯域(25-50Hz)の脳活動が左前頭葉に限局して出現することに着目し、その脳活動の強さを算出しました。それら脳活動の強さについて、一卵性ペア、二卵性ペアでそれぞれ比較すると、一卵性ペアで高い類似性が認められました。さらに、遺伝と環境の影響度を共分散構造分析 という手法を用いて算出することにより、遺伝と環境の影響度がいずれも50%程度であることが明らかになりました。つまり、言語機能における左前頭葉の脳活動は遺伝と環境から同程度影響を受けて形成されていることがわかりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、言語脳機能の形成が環境によってもかなり左右されることが明らかになりました。今後は言語教育においてどのような方法が学習効率を向上させるかなど、効率的な言語教育法の開発につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、11月15日(火)出版(米国東部時間)の米国科学誌「NeuroImage」で掲載され、同誌の表紙でも紹介されます (図1) 。
タイトル:“Language-related cerebral oscillatory changes are influenced equally by genetic and environmental factors”
著者名:荒木俊彦, 平田雅之, 栁澤琢史, 菅田陽怜, 大西舞, 渡邉嘉之, 尾形宗士郎, 本多智佳, 早川和生, 依藤史郎, 大阪ツインリサーチグループ

なお、本研究は、大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンター(岩谷良則センター長)の研究の一環として行われました。

研究者のコメント

<研究を担当した荒木先生のコメント>
本研究で用いた脳磁計はMRI装置と同様に体内金属(例えば歯科治療のインプラントなど)があるとそれがノイズとなってしまいうまく計測できません。今回は双子での比較であったため、どちらか一方にでもノイズが混入しているとそのペアはデータとして採用できない場合もあり、データ収集には大変苦労しました。

参考URL

国際医工情報センター 臨床神経医工学寄付研究部門
http://www.cne-osaka.org/

用語説明

脳磁計

(Magnetoencephalography, MEG):

脳の神経細胞が発する微弱な磁気を計測する医療用計測装置。磁気のパターンから脳での電気活動を高精度に推定することができる。脳波に近い信号であるが、脳波よりも空間分解能が高いと考えられている。

共分散構造分析

データのばらつき(分散)を基に、直接見ることのできないデータに潜む変数を同定する解析方法。双生児研究では盛んに利用されており、あるデータに対して遺伝と環境の影響がどれくらいあるかを推定できる。