2013年8月5日

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の杉本宜昭准教授、産業科学研究所の森田清三特任教授、Yurtsever Ayhan 特任講師らのグループは、名古屋大学大学院工学研究科の阿部真之准教授、チェコ科学アカデミーのグループ、マドリッド自治大学のグループらとの共同研究で、走査型プローブ顕微鏡を用いて、表面の個々の原子を動かす条件の解明に成功しました。半導体デバイスにおけるドーパント原子※1の精密な配置やナノデバイスを原子1つ1つから組み立てる技術への応用が期待されます。

研究の背景と研究成果

走査型プローブ顕微鏡は、図1のように、鋭い針(探針)を物質表面に近づけ、表面に沿うように走査することにより、表面の個々の原子を観察する顕微鏡です。この顕微鏡を使うと、表面の1つ1つの原子を自由に動かすことができます。全ての物質は原子から構成されているので、この原子操作技術によって、様々なナノ材料・ナノデバイスを創製できると期待されています。

これまで、探針に依存して、原子を効率的に動かせる場合と動かせない場合とがあることが知られており、原子操作を用いたナノデバイスの作製の効率化が阻まれていました。

そこで、研究グループは、原子操作の効率が探針にどのように依存するのかを系統的に調べました。図2では、シリコン表面での原子操作の例を示しています。まず、様々な探針を用いて原子操作の実験を行い、原子移動の確率を計算しました。1000回以上もの原子移動を含むデータを取得し、原子移動の確率を導出するのは世界で初めてです。次に、それぞれの探針と表面の原子との間に働く相互作用力を精密に測定しました。その結果、探針を同じだけ対象の原子に近づけても、その原子を動かせる探針と動かせない探針があることが判明しました。さらに、図3に示すように、原子操作が行えるか否かと、相互作用力の大きさとの間に相関があることを発見しました。具体的には、探針とシリコン原子との間の相互作用力の大きさが1.5 nN(1ナノニュートンは1ニュートンの10億分の1の大きさの力)よりも大きいときは、その原子を動かすことができるのに対し、1.5 nNよりも小さいときは、原子を動かせませんでした。これらの結果と理論計算により、表面の原子を動かすためには、探針先端がより化学的に活性である必要があることがわかりました。探針先端の修飾も含めた制御が効率的な原子操作に有効であることを示唆しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

原子操作の研究は、ほとんど極低温で行われてきたのに対して、本研究では室温環境で行っているのが、意義深い点です。探針先端の活性度を制御して、効率的な原子操作が可能になれば、理論計算に基づいたナノ構造の設計を行い、試作と評価によって、機能を持つナノ材料、ナノデバイスの開発等、実用に向けた研究につながっていくと期待できます。

特記事項

本研究成果はAmerican Chemical Societyの『ACS Nano』のオンライン版に掲載されました。
Role of Tip Chemical Reactivity on Atom Manipulation Process in Dynamic Force Microscopy
Yoshiaki Sugimoto, Ayhan Yurtsever, Masayuki Abe, Seizo Morita, Martin Ondracek, Pablo Pou, Ruben Perez, and Pavel Jelinek

参考図

図1 走査型プローブ顕微鏡

図2 矢印で示した1個のシリコン原子を移動させている。

図3 原子移動の確率と相互作用力のカーブ
上:原子が動かせる探針の結果。探針を近づけると原子移動の確率を100%まで上げることができる。この探針は、相互作用力が大きく、活性である。
下:原子が動かせない探針の結果。探針を近づけても、原子移動の確率は0%のままである。この探針は、相互作用力が小さく、不活性である。

用語解説

※1 ドーパント原子
半導体中の電流の流れやすさを制御するために、半導体中に微量に添加する原子のこと。シリコン中のリン原子などがそれにあたる。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 原子分子操作組立領域
http://www.afm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/

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